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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第27話 幻を裂きて、手を伸ぶ


「バル君一人だね………まだ続ける?」


(まるで無敵……だが必ず弱点はあるはずだ)


 乱れた呼吸を整えながら、俺は三つの仮説を考える。

 一つ目。

 本体を隠し続けるのは近接戦闘を嫌っている証拠。

 二つ目。

 偽物を本物に変えれるのは、同時に一つだけなのでは。

 三つ目。

 作られた幻影が動き出すまで、二秒はかかっている。


 これらがブラフではないなら、近づけば勝てる。


「諦めませんよ。最後まで足掻かせてもらいます」

「そう………なら来なさい」

 

 地を蹴る。

 一瞬で間合いを詰めて剣を喉元に走らせた。

 だが手応えはない。

 彼女の体は紫煙へと爆ぜ、俺を笑うように消え去る。


(やっぱり偽物か……。 だが答えは見つけてある!)


 俺は低く身を沈めて地面に両手を突き立てる。


己力投写こりょくとうしゃ!」


 ドォンッ!


 俺の能力が地面を駆け抜けた。

 次々と幻影の足元が爆ぜる。

 振動に耐えかねて幻影が揺らめく。

 その中でただ一人、凛と佇む揺るがない影を捉える。


「──グルー! あれが本体だ!」


 叫びと同時に、後ろで倒れていた巨体が跳ね起きた。


「わかったぜバル! 残響傷ざんきょうしょう『ナイフ』!」


 グルーが放ったナイフが矢のように飛びヴィブラム先生の本体を強襲する。


「……っ、まだ動けたのね!」


 先生は辛うじて横に飛び退き避け、眼鏡の奥を光らせる。


「おおおぉぉ!」


 グルーが大剣を担ぎ、死に物狂いで駆ける。


「──煤影贋身(ばいえいがんしん)・『ゴブリンキング』!」


 先生の前に紫煙が膨れ上がった。

 現れたのは、黄金の王冠を戴き、背には血のように赤いマントを翻す緑の怪物。

 右手には巨大なハンマー、左手に輝く盾を構えたゴブリンキングの()()だ。


「なっ……!?」


 その威圧にグルーは僅かに硬直する。

 動き出したゴブリンキングの盾が、巨像のような勢いでグルーを吹き飛ばした。


「……がはっ!」

 

 だが、グルーの稼いだ数秒で俺の剣はすでに先生の背後を捉えていた。


「終わりだッ!」


 己力投写こりょくとうしゃを乗せた渾身の一撃。

 振り下ろそうとした時、背後からの声が訓練所に反響した。


『そこまで!! 勝負ありです!』


 審判の声に俺は剣を収める。


「ふぅ……ありがとうござ──」


 勝利に安堵し体を緩めた時、ゴブリンキングの巨大な拳が俺の脇腹を抉った。


「か、は……っ!?」


 激痛と共に体が浮き、俺は無様に転がる。

 肺の空気が意志とは関係なく押し出され、視界が酩酊する。


「なっ、なぜ……勝負は………」


 必死に顔を上げる。

 ヴィブラム先生は冷ややかに眼鏡を直している。


「残念……今の声は()()だよ」

「え……」


 驚愕に凍りつく俺にゴブリンキングが剣を喉元に突き立てる。

 今度こそ本物の審判の声が訓練所に響いた。


「勝負あり! ヴィブラムさんの勝利です!……救護班、全員運んで下さい!」


「凄いよ君達。……ここまで追い詰められるとは思わなかったな」


 ヴィブラム先生の称賛が遠のく意識の中で響く。

 ──負けた。

 煙が晴れていく中、悔しさに震えながら深い闇に落ちていく。


 -------------


 救護室


 鼻を突く消毒液の匂いと魔法薬特有の苦い香りが漂っている。

 並んだベッドに横たわる俺達は、天井を見つめながら戦いの余韻の中にいた。


「完敗……だったな」


 俺が沈黙を破った。

 誰からともなくため息が漏れる。


「俺があのゴブリンキングにビビらなきゃ、もっと──」

「それを言うなら、我が短慮に突っ込まねば──」

「わ、私が幻影に怯え無かったら──」


 反省は尽きない。

 だけど誰の目からも光は消えてなかった。

 むしろ目指す頂を知ったことで、静かな火が灯っていた。


「それにしてもよ。第二覚醒だっけか? 聞いたことあるか?」


 グルーが顔をしかめながら問う。


「いや、初耳だったよ」

「わ、私もそんなお話はどこにも……」

「第二覚醒? なんだそれは。聞き捨てならぬな」


 レギンは気絶していて聞いてなかったか。

 俺は先生が語った、能力の先についての説明をした。


「……なるほど、能力が進化するのか。我が家に想像を絶する武勲を立てた先祖の話があるが……あるいはそれが到達者だったのかも知れぬな」


 レギンは何事かを思案するように目を細めた。


「の、能力のさらに先かあ。私達にも手が届くのかな……」

「ほとんどの奴が知らねえってことは、到達できるのは一握りってことだろ? 諦める気はねえが……相当キツそうだな」

「だけど知ってしまった以上、無視はできないな。……回復したらみんなでヴィブラム先生に話を聞きに行こう」


 俺の言葉に三人は頷く。


 敗北の悔しさは、いつの間にか高みを目指すための渇きに変わっていた。

 

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