第24話 煌めく黄金
学園・訓練所
ベンチに座った俺は膝に置いた剣を引き抜いた。
鞘は光沢を抑えた無骨な黒塗り。
抜き放たれた刃は片刃。
光が刃に触れると、銀色の表面に折り重なった刃紋が浮かぶ。
その繊細で鋭利な鋼の層は背に備えられた漆黒の『黒金』が壁のように支えていた。
「ああ……いいなぁ……」
俺は感動のため息をつき、いつまでも飽きずにその刃を見つめ続ける。
「おいバル……また見てんのかよ」
「よ、よっぽど嬉しかったんだね」
背後から飽きれた声が聞こえた。
グルーだ。
隣には苦笑いのラロもいる。
「もう何日目だ? 飯の後も寝る前も暇さえあれば見てやがるぜ」
「しょうがないだろ? 見てみろよこの鋭い刃。綺麗だ……」
「こりゃ重症だな」
この片手剣はキファルメ公が用意してくれたものだ。
俺が愛用していた剣はゴブリンヴィールとの戦いで砕け折れてしまっていた。
それを気にしたレギンが父に頼み、これほどの剣を贈ってくれたのだ。
「レギンに感謝だなあ。こんないい剣、相当の値段だよ」
「こ、黒金が使われているしね」
「こっきん? なんだそれ。ただの金じゃねえのか?」
「ま、魔石と金から作る錬金金属だよ。ひと振りで家が建つかも……」
「家一軒が!? 凄すぎるだろ……」
美しい剣を眺める俺達に聞き覚えのある凛とした声がかけられた。
「我の噂をしているのか?」
レギンだ。
「やあレギン。この剣の事を話してたんだよ」
「気に入ったようで何よりだ。キファルメの名に恥じぬ業物だからな」
「こ、こんにちは」
「よう珍しいな。訓練所に来るなんてよ」
「先の戦いで力不足を痛感してな。次はもっと華麗に敵を討てるよう、鍛錬しにきたのだ」
華麗な必要はあるのだろうか。
そう思っているとレギンは何やら緊張した面持ちで話し始める。
「ところで君達。もしやチームの数が足りていないのではないか?」
「そうなんだよ。魔物の数も多くなったし、メンバーを増やそうって相談してたんだ」
「なかなか骨のある奴がいなくてよ」
「ならば喜ぶがいい。この我が君たちのチームに加わってやろう!」
自信満々の提案に俺たちは顔を見合わせた。
「は、入るって。キファルメさんのチームは?」
「それは気にしなくても大丈夫さ。それより君にはレギンと呼ばれたいな」
「もしかしてよ。殺し屋が怖くて全員逃げ出したか?」
グルーの言葉にレギンは硬直する。
どうやら図星のようだ。
「か、彼らは我のチームを卒業したのだ! もう教える事もないのでな!」
「声震えてるぞ」
「し、死にかけたんだし。そういう事もあるよね……」
「レギンをチームにかあ」
俺達は円を組み小声で相談する事にした。
「おいどうするよ。実際あいつは強えし入れるか?」
「で、でも、威張られて空気が悪くなったら嫌だなぁ」
「カリーの事を知っているのは楽だよね。とりあえず一回ダンジョンに行くのはどう? そこで実力や態度を確かめようよ」
「そうすっか」
「わ、私も賛成」
レギンは強く、カリーの事を隠さなくてもいい。
まだ付き合いは短いから、様子を見てから入れるかは決める事にした。
「一度ダンジョンに一緒に潜って決める。でいいかな?」
「いいだろう。すぐに我の事を認めさせてやろうではないか!」
「威張るなら帰らすからな」
「よ、よろしくね」
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初級ダンジョン・第七階層
殺し屋達の死体の清掃が終わっており、静けさを取り戻した通路を俺達は歩く。
「前にゴブリン四、シーンフロッグが二、スライムが二だねえ」
「了解」
戦闘態勢を取ろうとした俺達にレギンがスッと片手をかざし制した。
「待ちたまえ君達。ここは我一人が戦い、実力を見せるとしよう」
「大丈夫なのか? 数が多いが……」
「安心して見ているがいい。君達のチームに加わる男が凡夫かどうかをね」
レギンは魔物の前まで毅然として歩みでる。
「──我が腕は『投石機』!」
短い宣言。
レギンの右腕が見えないほどの速度でしなる。
「ゲギャ!?」
後方の弓兵ゴブリンの眉間に石がめり込む。
頭蓋が砕け、真っ赤な飛沫が通路を汚した。
仲間を殺された魔物達が殺意を剥き出しにして殺到する。
レギンは眉一つ動かさずに悠然と剣を抜き構える。
「我は『狩猟豹』!」
レギンの姿が次の瞬間にはゴブリンの懐に潜り込んでいた。
人間離れした加速が風を生む。
「はッ!!」
剣が瞬いた。
「「ギャボッ……!」」
喉元を正確に断たれた二体のゴブリンが血を吹き出しながら地面に転がる。
だがその死角からシーンフロッグが跳躍した。
鋭い角がレギンの背を狙う。
「危なっ……!」
「我が身は『大盾』!」
振り返りもせずレギンが叫ぶ。
激突の瞬間、ガギンッと硬質な衝突音が響いた。
角を一点も通さず、逆に反動でシーンフロッグの体が宙に浮いた。
「我が足は『大槌』!」
「グゴッ!」
無防備になったシーンフロッグの腹にレギンの蹴りが突き刺さる。
それは蹴るというより、重い鉄塊を叩きつけたようだった。
シーンフロッグは壁まで吹き飛ばされ肉塊へと変わった。
「我は『鷹』!」
囲もうとした残りの魔物だったが、レギンは垂直に飛び上がる。
重力を無視した跳躍。
レギンは迷いなく手の剣をゴブリンに投擲した。
「ふんっ!」
「ギャッ!」
正確に脳天を突き、レギンは着地する。
丸腰のレギンを飲み込もうとスライムが触手を伸ばす。
「我が腕は『剣』!」
レギンが腕を振るう。
そこに剣はないはずだった。
しかし振られた腕が鋭利な刃を纏い、スライムとその後ろのシーンフロッグを切り裂く。
バシャリとスライムの溶けた音が響き、静寂が訪れる。
(強力な能力に使いこなす技量。強さは申し分ないな。それにあの状況で仲間を守ろうとした男だ。信用はできるか)
「それでどうかな? 我は合格かな?」
少し息を切らしながらも不敵に笑うレギン。
「想像以上だったよ。ぜひチームに入ってくれ」
「強いねえ。威張らないなら私は異論ないよ」
「悔しいけど文句なしだわ」
「こ、これからよろしくねレギンくん!」
こうして盾であり矛でもあるレギンが仲間に加わった。
レギンがいれば第八階層に行けるかもしれない。




