第21話 群魔を破り、なお影来る
魔物の群れと戦う前に自分達の手札を確認する。
タウルに貰った体力回復薬が四つに爆弾が五つある。
それに能力だ。
「俺の能力は『己力投写』自分や触れた物に力を込めて押す能力だ。同時に対象は一つだけだ」
「我の能力は『明誓権限』。我が宣言した物の力を、この身に宿すことができる」
レギンの説明は続いた。
『我は〇〇』と言うことで、同時に一つまでその物の力を使えるらしい。
盾と宣言すれば硬くなり攻撃を防げ。
剣と宣言すれば斬撃の力を得る。
「今の我が使えるのは、剣、槍、槌、盾、投石機、豹、鷹……これら七つだ」
「凄い能力だな。強いわけだ」
「だから模擬戦の時に大剣を防がれたのか……」
「じゃあ。作戦を立てていこう」
「待てバル……俺の能力も教える」
不意に放たれたグルーの言葉。
俺は驚きを隠せなかった。
「いいのか? 使いたくないんじゃ……」
「お前には妹の事で一生かかっても返せねえ恩があるしな。それに……生きて帰るためだ」
そう言い能力を説明し始める。
「俺の能力は『残響傷』自分の傷跡から原因を再現出来るんだ」
グルーの能力、残響傷とは。
自分の傷か傷跡から、その原因となった攻撃を再現し放つ。
剣で切られれば傷から剣が飛び出し切りつけ。
火で焼かれれば火を出す事が出来る。
同時に出せるのは一つだけで、三秒ほどで消えてしまうらしい。
「今出せるのはナイフと熱湯、木剣に打撃だ。自分で傷つけても増やす事はできねえぜ」
「素晴らしい能力じゃないか。何故使わないのだ?」
「……帰ったら話してやるよ」
グルーが苦い表情で言葉を濁す。
だがその目に迷いはなく。
生き残るという強い意志を俺は感じた。
「私もだしなバル坊」
「カリー! レギンが居るのにいいのか?」
「あんたが死んだら、タカト達に合わせる顔がないからねえ」
「そ、それはなんだ!? 喋ったぞ!?」
驚愕するレギンに「カリーさんと呼びな」とカリーがいなし、俺達は即座に作戦を立てた。
通路の奥からはすでに無数の魔物の声が迫っていた。
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殺し屋と戦った開けた部屋に、おびただしい数の魔物が集まっていた。
血の臭いに惹かれ、階層中から集まって来たのだろう。
ベチャベチャと音を立てながら殺し屋の死体を食らっている。
その光景に俺達は吐き気を催した。
もしも負けたら次は俺達の番だ、恐怖に体が震え覚悟が鈍る。
「や、やべえな」
「なんという数だ。八十はいるぞ……」
「囲まれたらおわりだ。作戦通りに通路で戦おう」
俺達は体力回復薬を一気に飲み干す。
体の奥から温まり活力が湧いてくる。
「いくぞ!」
部屋の中の魔物に向けて三人で投石する。
「「「ギャギェ!」」」
投石は魔物に突き刺さり何体か倒すことが出来たが、焼け石に水だった。
「おらぁこっちだ!」
グルーが叫ぶと、魔物の群れが一斉にこちらを向く。
俺達は反転し全力で走り出した。
走る俺達の背後から、数え切れないほどの足音と鳴き声が響いてくる。
狭い通路に魔物が殺到し俺達を食い殺そうと迫ってくる。
「投げるぞ! 準備しろ!」
俺は叫び、通路の魔物に向かって爆弾を投擲する。
「我が身は『大盾』!」
レギンの宣言。
俺とグルーの前に立ちはだかった。
投擲された水晶が壁に衝突し砕け散る。
直後──爆音と共に衝撃が通路を満たす。
「ギギャャャッ!!」
爆風に押し潰される魔物の断末魔。
レギンが『大盾』の力を宿し、飛来する肉片や石を弾き飛ばす。
衝撃が終わり、俺達は状況を確認する。
「おお! かなり倒せてるぜ!」
「タウルに感謝だな」
さすが冒険者でも滅多に使わない高価な爆弾だ。
直撃を受けた魔物たちは無惨な姿になっている。
「だがまだ来る! 早く走るぞ!」
先頭の魔物達は息絶えた。
だが後続の魔物達は仲間の死体などお構い無しに、次々と踏み越えてやってくる。
第七階層の地図を思い出しながら俺達は走り出す。
爆弾はあと四つ。
これで倒し切れるだろうか。
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その後も通路に誘い込み爆弾で一掃してかなりの数を減らしていた。
残りの爆弾はあと二つだ。
後ろの魔物達に追いつかれないよう走る俺達にカリーが警告する。
「前にゴブリンが四体いるよ!」
「「「了解!」」」
「己力投写!」
俺は足に込めた能力で一瞬にして距離を詰める。
ゴブリンの頭が宙を舞い落ちた。
「我は『狩猟豹』!」
レギンの体が光に包まれる。
獣のような急加速でゴブリンに肉薄し、二体の腹を剣で切り裂いた。
「残響傷『熱湯』!」
最後の一体へグルーが光る左手をかざした。
煮えたぎる熱湯が手から飛び出し、ゴブリンの顔にかかる。
「ギャッ!?」
「おりゃあ!」
熱湯をかけられ、のたうち回ったゴブリンに大剣が容赦なく振り下ろされる。
ゴブリンは物言わぬ肉塊となって通路に転がった。
三人とも手早く対処は出来たが、後ろの魔物の群れは近づいて来ていた。
「追いつかれるぜ!」
「爆弾を使うには近すぎるぞ!」
「床に体力回復薬の空き瓶を投げろ!」
俺の指示で空き瓶が後方の床で派手に砕け散った。
「ギギャ!」
素足の魔物達がガラス片を踏み抜き、悶絶して転がる。
後続がそれに躓きつっかえる、魔物の波が一瞬だけ停滞し距離をとる事が出来た。
「今だレギン!」
「我が身は『大盾』!」
レギンの後方に隠れて爆弾を二つ投擲する。
凄まじい衝撃が通路を震わせた。
レギンが吹き飛ばないように俺達は必死に支える。
「ど、どうだ?」
「魔物の足音はせぬな……」
「ようやくおわったか!」
俺達が倒した魔物は十や二十ではきかない数だ。
ようやく魔物の群れを殲滅出来たらしい、そう肩の力を抜こうとした時。
「まだだよ! 何かきてる!」
カリーの鋭い声に、俺達の心臓が跳ねた。
直後、通路の奥から──地響きのような重い足音が響いてくる。
ドォンッ、ドォンッと床を鳴らす圧倒的な質量。
姿を現したのは、通常のゴブリンとは一線を画す巨大な体躯を持ったゴブリン。
第七階層には存在し得ない個体だった。




