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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第18話 高い壁と帰る場所


「ハァ!」

「どりゃああ!」


 俺とグルーは息を合わせて左右から同時に切り込む。

 俺の片手剣が空気を切り裂き、グルーの大剣が唸りを上げて振るわれた。


「甘いな!」


 父さんの短い叫び。

 グルーの一撃は最小限の動きでかわされ、俺の剣は受け流される。

 その勢いのまま父さんの木剣が俺達に叩き込まれた。


「痛っ……!」

「ぐあっ!」


 ここ数日、二人で父さんに挑んでいるが全く歯が立たない。


「掠りもしねえ……」

「二人掛かりでも手も足も出ないなんて……」


 地面に転がった俺たちは息を切らしながら天を仰いだ。 


「二人ともこの数日でどんどん良くなってるぞ。だがまだ自分自身の力を使いこなせていないな」


 父さんは木剣を腰に収め、具体的な改善点を告げる。


「バル。お前は足に能力を込めて接近した後、一瞬の溜めがある。足から腕、あるいは剣先へ。能力を瞬時に切り替える練習をしろ。それができれば今の倍の速度で斬り込める」

「瞬時の切り替えか……やってみるよ!」

 

「グルー君。君は能力を使えない分、一撃が素直すぎて読みやすい。大剣の隙を能力で埋められないのならもっと技を磨き、重心の移動でフェイントを混ぜなさい。状況によっては大剣以外の得物を隠し持つのも手だぞ」

「……うす。肝に銘じます」


 改善点があるという事はもっと強くなれるという事。


「父さんもう一本お願い!」

「俺もいいですか!」

「いい心意気だ。 動けなくなるまで付き合ってやる」


 俺たちは更に稽古を続けた。


 ----------


「帰ったぞ」

「た、ただいま」

「全身痛え……」

「おかえりなさい、ご飯出来てるわよ」


 夕暮れ時。

 全身打撲と擦り傷だらけで帰宅した俺達をポラちゃんが真っ青な顔で迎えた。


「だ、大丈夫? お兄ちゃん、バルさん」

「……おう。これくらいなんてことねえよ」

「学園に戻ったらラロに治してもらおう」


 食卓には湯気を立てる母さんの料理が並んでいる。

 疲弊した体に温かいスープが染み渡る。


「それでねポラちゃんがよくお手伝いしてくれたのよ。本当に気が利くいい子だわ」

「い、いえ。それほどでも」

「ぼくとも遊んでくれたんだ!」


 母さんと弟に褒められ、ポラちゃんは顔を真っ赤にして俯く。


「本当にグルーの妹なの? 頭も良さそうだし似てないよね」

「おう! 自慢の妹だぜ。孤児院でもよく褒められてるんだぜ」

「もう、お兄ちゃんやめてよ!」


 賑やかな食卓。

 ふと母さんの表情が真剣なものに変わった。


「ねえグルー君ポラちゃん。……少し真面目な話をしてもいいかしら?」


 母さんは二人を優しく真っ直ぐに見つめた。

 

「この数日間あなた達と過ごして、お父さんと相談したの。……もし二人さえ良ければ私達の子供になる気はない?」

「「え……?」」

「グルー君もポラちゃんも本当にいい子だもの。とくにポラちゃんはこんなに賢いのに、このままだと孤児院を出た後、十分な職に就くことすら難しいでしょう?」

「……それは」


 グルーが苦々しい表情で拳を握る。


 職業は個人の力だけではなく、血縁や保証がないと就く事ができないものだ。

 大工、鍛冶師、パン屋、事務、などのまともな職は職業組合が管理している。

 親の紹介がなく、多額の保証金も出せず、逃げても追いようがない孤児に重要な仕事は任せられる事はない。

 就けるのは体を壊すような過酷な仕事、命をかける兵や冒険者、給料がほぼ食費と寝床のみの住み込み、あるいは体を売るか裏社会で生きるかだろう。

 だからグルーは命を削ってでもお金を稼ぎ、妹のために保証金を用意しようとしていた。


「で、でも私……」

「私達はもう二人を本当の家族だと思っているわ。書類なんてただの紙だけど、それさえあればポラちゃんの将来は守られる。……それとも嫌だったかしら?」

「いえそんなことは!」

「いいんですか。俺達みたいな何もねえ孤児を……」

「ああ、もちろんだ」


 父さんが重々しく頷く。


「……っ、ありがとうございます!」


 ポラちゃんは涙を溢れさせ、グルーは深く頭を下げた。


「手続きにかかるお金は俺が必ず……」

「金なんて気にするな。そんなものよりも今日からここが自分の家だと思って笑って帰ってきてくれ。恩返しはそれで十分だ」 

「やった! お姉ちゃんとお兄ちゃんが増えるんだね!」


 ローゾの無邪気な声に食卓に温かな涙と笑いが混じり合った。


 ----------


 その日の夜。

 ポラちゃんは泣き疲れて寝てしまっている。

 俺は寝台でグルーの声を聴いた。


「バル……本当にありがとよ」

「お礼なら父さん達に言ってよ。二人とも困ってる人を見ると放っておけない人なんだ。俺はぜんぜん知らなかったしな」


 知らなかったというのは嘘だ。

 数日前、父さんに「グルーは自分の怪我に無頓着すぎる。妹のために命を削るような戦い方をしているんだ」と相談したのは俺だった。

 父さん達は俺の言葉を受けてこの数日間、彼ら兄妹の立ち居振る舞いをずっと見守っていたのだ。


「俺さ……学園も冒険者も、もっと本気でやるよ。 今まではいつ死んでもいいと思ってた。ポラの保証金さえ稼げれば俺の命なんて安いもんだってな。……これからは家族のためにも絶対死なねえ」

「そうだな。帰る場所があるんだ、次からはもっと慎重に動こうぜ」


 俺の言葉にグルーが小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。


「またここへ帰ってきて……全員でご飯食べたいもんな……」


 その声は少し震えているように聞こえたが、俺はあえて触れなかった。

 

 グルーは眠りについた。

 俺は改めて家族の、この村の大切さを認識した。

 帰る場所があり待ってる人がいる。


 ダンジョンを攻略しまだ見ぬ世界を冒険する。

 その決意は変わってないが死ぬつもりは無い。

 そのためにも、もっと強くならなければ。

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