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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第16話 当たり前の食卓


 揺れる馬車の中から見慣れた景色が見え始める。

 学園での一年目が終わり、進級まで約一ヶ月の休み。

 行き帰りを考えればガーウブ村に滞在できるのは六日ほどだろうか。


「お兄ちゃん手土産はちゃんと持った? 忘れ物はない?」

「持ってるっての。しつこいぞポラ」


 グルーの妹ポラちゃんは八歳とは思えないほどしっかり者だ。

 グルーとは似ても似つかない。


「バルさん。お兄ちゃんが失礼なことをしたら、すぐに私に言ってくださいね」

「はは、その時は頼むね」

「失礼なことなんかするかよ!」

「グルー坊はお馬鹿だからねえ。ポラちゃんが似なくてよかったよ」


 すっかりポラを気に入ったカリーも隠れることなく会話に加わっている。

 

「お客さん方、見えてきましたよ!」


 御者の声に顔を上げると、そこには記憶通りの穏やかな村の風景があった。


 -----------


 馬車から出ると家畜の声が聞こえ土の匂いが鼻をくすぐる。

 たった一年だけど、ずっと帰っていなかったような。

 不思議な気分が胸を満たした。

 

「のどかで良い所だな! のんびり休めそうだぜ!」

「ああ、遠慮なくくつろいでよ。……ただいま!」

 

 実家の扉を開けると、そこには母さんや弟のローゾだけでなく幼馴染のエマとアランの姿もあった。


「おかえりなさいバル、カリー。それにいらっしゃいグルー君にポラちゃん」

「にーちゃんおかえり!」

「よおバル! お土産持ってきたか?」

「少し背が伸びたんじゃない? 私のお土産ある?」

「お前らお土産しか頭にないのかよ」


 賑やかな歓迎を受けてポラちゃんが丁寧に頭を下げる。


「お世話になりますポラ・イフナイルです! ほらお兄ちゃんも」

「お、おう。グガル・イフナイルです。よろしくです」

「二人とも自分のお家だと思ってくつろいでね」


 母さんの笑顔にグルーたちの緊張が少しだけ解けたようだった。


「母さん、父さんは?」

「お父さんなら朝から狩りに出てるわよ。張り切っていたわ」

「じゃあ帰ってくるのは夕方頃かな?」


 荷物を置き、まずはお土産を配った。


「これ焼き菓子と砂糖漬け。ローゾには玩具。母さんにはスパイスで。アランにはナイフな」

「私達からもスパイスです」

「まあ、ありがとう。さっそく今夜の料理に使わせてもらうわね」

「良いナイフだな、助かるぜ。ありがとうよ!」

「美味しそー! バルくんありがとうね」

「にーちゃんありがと!」


 喜ぶ皆の顔を見て、ラロに選んでもらって正解だったと心から思った。


 学園や国都での生活──ダンジョンで生活費を稼いでいることや寮の食事の味が薄いことなどを話していると、外から重たい荷車を引く音が聞こえてきた。


「ただいま。バルは帰ってるか?」

「父さんおかえり!」

「おおバル! ずいぶん背が伸びたな!」

 

一年ぶりに見る父さんは記憶より少し小さく見えた。

俺が大きくなったのか、それとも俺の目が変わったのか。

 

「筋肉だって増えたよ! それより何を狩ってきたの?」

「おう見てみろ」

 

 そう言い後ろの成果を指さす。

 そこにはウンガリーベアと巨大な鹿が荷車に横たわっていた。


「……ま、まじかよ。一人でこいつを?」


 グルーが呟いた。

 俺達が森で死にかけたあの熊を、一人で倒し荷車に乗せて帰って来たんだ。

 ウンガリーベアも鹿も首を半ば断たれていた。

 余計な傷はなく一太刀で勝負が決まったのがわかる。

 驚愕する親友の横で誇らしさで胸がいっぱいになった。


「さすがタカトさんだぜ。さっそくナイフ使って解体しちまおう」


 アランがナイフを手に取る。

 ポラちゃんが少し顔を引きつらせてグルーの背中に隠れている。

 国都の孤児院育ちの彼女には刺激が強い光景だったかもしれない。


 ----------


 その日の晩。

 食卓にはご馳走が並んでいた。

 大皿に山のように盛られた鹿肉と熊肉のソテー。

 お土産のスパイスと熱い脂が食欲を刺激する芳醇な香りを部屋中に漂わせる。

 その脇を採れたての瑞々しい野菜サラダと、湯気を立てる具沢山のスープが彩っていた。


「美味いな! スパイス効いてるぜ」

「都会の味って感じー」

「にーちゃんこのスープおいしいよ!」


 みんなが賑やかに食事を進める中、俺はグルーとポラが手をつけていないことに気がついた。


「どうした二人とも。嫌いな物でもあったか?」

「まあ、それならごめんなさいね」

「いや……こんな豪華な料理が出るとは思わなくてよ」

「ほ、本当に私達も食べていいんですか……?」


 ポラちゃんが不安そうに母さんを見上げる。


「もちろんよ。二人を歓迎するための料理なんだから、遠慮なんてしないでお腹いっぱい食べてちょうだい」

 

 そう言われ二人はおずおずと食べはじめる。

 けれど一口食べると止まらなくなっていた。

 孤児院で育ち質素な食事しか知らなかった二人にとってはこれが初めての家庭の味なのか。

 俺は連れて来て良かったと心から思った。


「……ご馳走様でした。美味かったです!」

「本当に美味しかったです!」

「いい食べっぷりだ。 気に入ったぞ!」


 父さんが二人の頭を豪快に撫でる。


「明日も腕によりをかけて作るわね!」

「それは楽しみだねえ。バル坊ももっと食べないと大きくなれないよ 」


 食卓は温かな笑いに包まれた。


 ------------

 

 食事を終え部屋で一息ついた後、グルーがぽつりと呟いた。


「……家族で食べるってのもいいもんだな」


 ポラちゃんも静かに同意している。


「次も遠慮なく食べてくれよ? ……明日の予定だけど。村を案内した後、父さんと狩りに行こうと思ってるんだ。グルーお前も来るか?」

「いいのか!? ぜひ頼む。ポラはどうする?」

「私はお母さんのお手伝いをします。お世話になりっぱなしは嫌ですから」

「本当にしっかりした子だねえ」


 俺もカリーに同意だ。


 ポラちゃんは慣れない旅の疲れと満腹感のせいか、眠そうに目を細めている。

 明日は久しぶりに父さんと狩りか。

 期待と緊張を胸に、俺は故郷の懐かしい空気の中で目を閉じた。

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