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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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15話 歩み近づき


 翌日。

 掲示板の前には人だかりが出来ていた。

 そこには一ツ星の模擬戦大会の結果が書かれている。

 優勝バビ、準優勝レギンの名があった。


「……俺達が負けた相手が優勝と準優勝かよ」

「悔しいね……でも確かに底の見えない強さだった」

 

 胸に広がるひりつくような敗北感。

 だがそれは同時にもっと上があるという確信でもあった。

 

「くそ……もっと鍛えねえとな」

 

 俺達は拳を握りしめ、さらなる高みを目指すことを誓った。

 いつか必ず勝つ。

 その日から俺たちの訓練はさらに多くなった。


 ----------


 初級ダンジョン・六階層

 

 模擬戦大会から数週間。

 最初は三人の連携もぎこちなかった。

 俺達が前に出すぎてラロが孤立したり、俺の投擲の射線にグルーが入ったりもした。

 今ではお互いの動きを言葉なしで読める。

 初級ダンジョンの六階層まで来れたのはその積み重ねだ。


「ゲギャ!?」


 衝撃音が鳴り、俺の投石はゴブリンの頭にめり込んでいた。

 まずは弓矢持ちから仕留めるのが俺たちの定石だ。


「残り五体だよ! 左右の通路にも気を配りな!」


 俺の胸元からカリーの鋭い指示が飛ぶ。

 五階層を過ぎてからは魔物たちは粗雑ながらも革鎧や武器を装備し始めている。

 油断が死に直結してしまう。


「おりゃあぁ!!」


 グルーが叫びを上げて大剣を振り回した。

 正面のゴブリンを肉塊に変え、背後の二体を巻き込んで壁へと吹き飛ばす。

 

「──是正宣光(ぜせいせんこう)!」


 ラロの杖から放たれた光が残る個体を包み込み自由を奪う。

 

「しぃッ!」


 俺は己力投写こりょくとうしゃを剣に乗せ踏み込む。

 一息に二体の首を跳ね、最後にグルーが吹き飛ばした個体にトドメを刺す。


「ふー。少し休憩にしようぜ」

「そうしようか。安全部屋も近いしね」

「ちょいとバル坊。私にも血がかかったよ……」

「あ、ごめん。ラロ浄化頼める?」

「う、うん。すぐ綺麗にするね」


 学園で講義を受けながらも三人でダンジョンに潜り、訓練と生活費を稼いでいた。

 今では初級ダンジョンの六階層まで来れる。


 数週間の間にカリーの正体はラロにも明かした。

 最初は聖獣様と恐縮していたラロも、今ではカリーの毒舌に苦笑いできるほど打ち解けている。 

 安全な小部屋で体を緩め、俺たちは今後について話し合った。


「六階層も楽勝だな。二つ星に上がる前に制覇出来るんじゃねえか?」

「で、でも七階からはゴブリン以外の魔物も出るって聞いたよ」

「敵の数も増えてきたしな。俺たちが攻める時、ラロを護衛するメンバーが欲しいところだな」

「私のお眼鏡にかなう奴はいるかねえ」


 もうすぐ学園での一年が経とうとしている。

 クラスでは「一ツ星で卒業し就職するか、進級するか」という話で持ちきりだけど、俺達の答えは決まっている。

 全員で二つ星へ進みより上へ目指すつもりだ。


「バルの村に行くの楽しみだぜ。妹のポラもめちゃくちゃ楽しみにしててよお」

「い、いいなぁ。私も行きたかったな......」


 ラロが寂しげに俯く。

 今回の進級休暇、ラロは実家に帰省することがすでに決まっていた。


「そういえばお土産買わないとな。何かおすすめの物ってある?」

「知らね。土産なんて買った事ねえしよ」

「わ、私! いいお店知ってるかも……」

「本当か。教えてくれ」


 俺がそう言うと、ラロが何かを決意したように顔を上げて喋り始めた。

 

「よ、良かったらだけど! 明後日の休みに私がお店案内しようか……?」

「明後日か。グルーと訓練の約束だったけど。いいか? グルー」

「俺は構わねえぜ。妹に会いに行くしよ」

「なら私もグルー坊とポラちゃんに会いに行く事にするよ」

「カリーも? わかった。じゃあ明後日の昼に。案内のお礼にご飯は奢らせてくれよ」

「う、うん! 楽しみにしてるね!」


 なぜかとても嬉しそうなラロの笑顔に、俺は少し恥ずかしくなり剣へと目を落とした。


 ----------


 約束当日。

 俺は少し背伸びをした綺麗めの服に着替え、ラロとの待ち合わせ場所へ歩く。

 そこには既にラロの姿があった。


「ごめん! 待たせたか?」

「い、いえ! 少し早く来すぎただけです!」


 どこか落ち着かない様子のラロ。

 俺はラロがいつもとは違う格好なのに気がつく。

 学園で着ている紺の修道服でも、

 ダンジョンで着ている戦闘用の修道服と革鎧でもない。


 柔らかそうな生地のクリーム色のコット。

 その上に深い藍色のシュールコーを重ねている。

 普段は後ろで纏めているだけの髪も。

 今日は丁寧に編み込まれ、細かな刺繍のリボンが結ばれてた。

 その姿に俺は少しドキリとする。


「そ、その服。ラロにすごく似合ってるな!」

「あ、ありがとう……」


 照れ隠しの言葉にラロは頬を赤くしている。

 少しの沈黙。

 気まずさを誤魔化すように俺は喋りだす。


「ま、まずはお菓子が売ってる店を教えてくれないか?」

「う、うん。まかせて!」


 ----------


 ラロの案内は完璧だった。


「菓子と砂糖漬け、鋼のナイフとスパイス、弟のおもちゃ。……これで忘れ物はないな」

「い、色々買ったね」


 ダンジョンで稼いだ貯金が半分吹き飛んだが、また稼げば良いだろう。

 買い物を終えて、お礼の食事を済ませた頃には日は沈みそうになっていた。

 寮へと続く帰り道、俺はポケットの中の物を握る。


「今日はありがとうな。俺だけだったら買うのに時間がかかってたよ」

「い、いいんだよ。 私、いつもバル君に助けられてるし」


 学園の門前。

 俺は手のひらに乗せた花の彫刻がされたヘアピンを差し出す。


「これ、今日のお礼にラロに」

「え、えっ! そんなご飯もご馳走になったのに……」

「受け取ってくれよ。俺もいつも助けられてるしな」


 押し付けるように渡すと、ラロは震える手で受け取りさっそく髪に添えた。


「ど、どうかな」

「似合ってるよ。俺もセンスいいな!」


 照れ隠しに自画自賛で誤魔化す。


「じゃあまたな!」

「うん……また明日!」


 手を振り俺達はそれぞれの寮へと別れた。


 ----------


 そんなバルとラロを見守る者がいた。


「ヘアピンかい。バル坊にしてはまあ合格だね」

「なんなんだあいつら。さっさと付き合えばいいのによお」

 

 ポラのいる孤児院から戻る途中、偶然二人を見つけて尾行していたカリーとグルーだ。 


「わかってないねえ。今が一番楽しい時期なのさ」

「恋愛とかくだらねぇよ。俺にはわからねえなあ」

「グルー坊もまだまだだねえ」


 呆れるカリーを頭に乗せ、グルーは肩をすくめて男子寮へと歩き出した。


 ----------


 女子寮・ラロの部屋


 帰ってきたラロはベッドに倒れ込んで顔を真っ赤にしていた。

 「どうだったの!?」と詰め寄る同室の友人の声も耳に入らず。

 頭の中はバルでいっぱいだった。

 プレゼントされたヘアピンを眺め、静まらない鼓動を確かめる。


(ど、どうしよう……。私やっぱりバル君のことが好きなんだ)


 今更自分の気持ちに気がついた瞬間、不安が押し寄せてくる。

 模擬戦大会での活躍以降、バルは女子達の間でも密かに話題にのぼっている。

 

(も、もしも……もしも、バル君が他の女の子と付き合っちゃったら……)


 自身の内側から湧き上がる黒い気持ちにラロは慌てる。


(だ、だめだよ独占欲なんて。大事なのはバル君の気持ちだし)


 純粋な恋と自分でも驚くような独占欲。

 揺れ動く感情に困惑し、ラロは朝が来るまで一睡もできなかった。

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