14話 敗れて知り、なお描く
「次、バル君とバビ・カル・シュヤパースさん!」
三回戦の呼び出しがかかっても、結局グルーは現れなかった。
(あいつが負けた? 大怪我じゃないといいが……)
不安がよぎるが今は目の前の相手に集中しよう。
対峙したのは俺より歳上の女性だった。
右手に細剣、左手にナイフ。
増幅系で細剣を使う者は珍しい。
となると厄介な特殊能力を持つ超常系か外伝系か?
「私バビ。よろしくねバル君」
「よろしくお願いします」
彼女にはテーズのような傲慢さも、タウルのような威圧感もない。
その自然体が強者の証に見えた。
「──始め!」
俺は相手の様子を窺う。
バビは細剣を低く構えてじりじりと距離を詰めてくる。
焦れた俺が足に能力を込め、距離を詰めようとした時。
「なるほど……」
俺が跳ぶよりも早く、バビが素早くバックステップを踏んだ。
しまった。
予備動作と足の発光を見られ、増幅系だと即座に見抜かれた。
まだ相手の能力が分かっていないのに俺だけ手札をばらした事になる。
このバビという女性はかなり戦い慣れているように思えた。
手の内を明かした以上、出し惜しみは意味がない。
まずは己力投写での投擲だ。
「ふんっ!」
木の玉はうねりを上げながらバビへ向かう。
だがバビは体を少し動かすだけで避けてみせた。
「まだまだ!」
続けて投げるがどれも最低限の動きで躱される。
その動き方には見覚えがあった。
村を襲った盗賊の中にも投擲が全く当たらない奴がいた。
後から父さんに聞いたら、反射神経や思考速度を上げるような能力なのではと言われた。
バビも似たような能力なのだろう。
(なら視界を潰す!)
俺は地面に手をついて己力投写を発動した。
今度は隆起させるのではなく、土砂を舞い上がらせるために。
──ドシャッ!!
地面が連続で爆ぜる。
残念ながら攻撃になるほどの威力はない。
だが猛烈な砂煙が辺りを覆い隠す。
その遮蔽を利用し、俺はバビの背後へ回り込んだ。
砂煙を切り裂き確信を持って木剣を握り込む。
(勝った!)
だが──
俺が剣を振るうより先にバビの体が動く。
背中に目がついているかのような転身。
流れるような動きで振り向きざまに細剣を俺の首元に滑り込ませる。
「……私の勝ちね」
「勝者バビ!」
先生の宣言が響く。
完璧な不意打ちをまるで見えていたかのように。
完敗だった。
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救護室
細剣で裂かれた首元の傷をラロに癒やしてもらっていた。
「お、落ち込むことないよ! 三回戦まで行ったんだから!」
口を噤む俺を気遣ってラロが明るい声を出す。
「ありがとなでも落ち込んでるんじゃなくて、どんな能力だったのか考えていたんだ」
「見てないはずなのに避けられちゃってたもんね……」
「ああ、最後のは完璧なタイミングだったのに……」
音かあるいは攻撃の予知だろうか。
攻略法を頭の隅で組み立てながら俺は立ち上がった。
「回復ありがとうな。グルーの様子も気になるし、そろそろ行くよ」
「う、うん。 私も観戦が終わったら行くね」
グルーは寮の自室にいてすぐに見つかった。
「グルー坊は二回戦で負けたらしいねえ」
カリーがからかいながらそう言う。
「くそ! よりにもよってあのレギンとかいう貴族に負けるなんてよ!」
「レギン・ヘシマ・アヴァディス・キファルメだっけ」
「そう。その鼻につく奴だ」
「まあ能力を使わずに挑んだんだし、負けても仕方ないよ」
「それでも負けは負けじゃねえか。頭にくるぜ」
「レギンはそんなに強かったの?」
「ああ、それがよ……」
グルーの話によると。
試合開始と同時に肉薄され、渾身の大剣を軽々と弾き飛ばされたらしい。
そのまま胸元に剣を突きつけられ試合終了。
手も足も出なかったという。
「速いうえに大剣も弾いたのか…… 能力名は聞いてないの?」
「なんか喋ってた気がしたけどよ。忘れちまった!」
「グルー坊はお馬鹿だねえ」
「うるせい」
「私はバル坊が負けた相手が気になるねえ」
カリーの言葉にグルーも頷く。
「俺もだ。バルがあっさり負けるなんてよ」
「攻撃を予測する能力だったんだろうね。反射神経や思考速度だと決めつけてかかったのが俺の敗因だよ」
「二人ともまだまだだねぇ。そんなんじゃ、タカトに勝てやしないよ」
「タカト? 誰だそれ」
不思議そうな顔をするグルーに父さんの事を説明した。
「へえ、そんなに強い父親なのかあ。羨ましいぜ」
「二つ星に上がったら長い進級休暇があるしさ。グルーも村に遊びに来る?」
「いいのか! 妹も連れて行っていいか? 最近構ってやれてないしよ」
「もちろん大歓迎だよ。父さんも母さんも賑やかだと喜ぶし」
「おっしゃ決まりだな。今から楽しみだぜ」
敗北の悔しさは消えてないけど、次の目標ができたことでグルーの表情に明るさが戻った。
「グルー。レギンにもバビにも来年は勝てると思うか?」
「当たり前だろ。そのためにもっと鍛えねえとな」
負けた事実は変わらない。
でも負けて初めて見えるものがある。
俺達にはそれがまだ全然足りていない。
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バルとグルーが眠りについた夜。
静かな室内でカリーが独りごとのように囁いた。
「……というわけでグルーと妹ちゃんが遊びにいくよ」
「楽しみだわ! 今からご馳走を考えておかなきゃ!」
「まだ早すぎると思うけどねえ」
夜な夜な母とカリーの密談は続く




