第13話 驕れる疾風、暗雲兆す
試合後。
高重力下で無理矢理動かした体が悲鳴を上げていた。
きしむ関節の痛みを治すため、俺は救護室を訪れていた。
ラロの温かな光が体の痛みを解きほぐしていく。
「つ、強かったね。重力の能力なんて……」
「ああ。 木剣だったから良かったけど、装備が重かったら最初の一撃でやられてたよ」
「に、二回戦目も頑張ってね。応援してるよ!」
「ありがとな! じゃあまたな」
「う、うん。またね」
礼を言って部屋を出ると、後ろの扉越しに「ち、違うよっ!?」と声が漏れてきた。
何が違うのだろうか?
女子達の賑やかな声が気になりはしたが、勝者の待合室へ戻ることにした。
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「よおバルおかえり。勝ったんだな」
待合室でグルーがどっしりと椅子に座り待っていた。
「何とかね。グルーはもう終わったの?」
「おうそれがな。大剣構えて全速力で突っ込んだら、相手の女が降参してよお」
「ははは! よほど怖かったんだね」
「失礼なやつだぜ全く」
そんなグルーとの雑談も束の間、次の試合が告げられた。
「次、テーズ・カロータ君とバル君!」
呼ばれた相手は同年代だが、質の良い革鎧に身を包み手には木製ナイフを弄んでいる。
装備から戦い方を予測しながら俺は歩く。
「では挨拶を」
「俺はバル。よろしくな」
「ふん。テーズ・カロータだ」
身分が高い生まれなのか明らかに俺を見下している。
だが傲慢だろうと強い者はいるだろう。
むしろ強いからこそ傲慢なのかもしれない。
一回は勝っているんだ、油断しないようにしよう。
「お互い準備はいいですね。では開始!」
ササ先生の合図と同時。
相手の出方を窺っていた俺の視界からテーズが消える。
次の瞬間には、俺の横にテーズがいた。
「私の勝ちだっ!」
「クッ!」
紙一重。
俺はナイフが首に当たる寸前に体を捻り何とか躱す。
少しでも反応が遅れていればそこで試合終了だった。
「フン! 命拾いしたな」
背後に距離を取ったテーズが鼻で笑う。
ナイフが振るわれるまで全く反応出来なかった。
増幅系でスピードを上げる能力なのか?
テーズが再び構え、その体が淡く光る。
「少し寿命が伸びただけだ。『一刻千里』!」
そう叫び再び視界から消える。
俺は右手に能力を込め、持っていた木の玉をバラバラに砕いた。
そしてそれを自分の周囲に力任せにばら撒く。
「くらえ!」
「……ちぃ!」
木片の礫がテーズの腕と顔に食い込む。
やはり予想通りだ。
移動は見えないほど速い。
だか攻撃に転じる瞬間のナイフは普通の速さだった。
直線的な加速に特化し、咄嗟の微調整は出来ないのだろう。
移動が速いだけならやりようはある。
「よくも私の顔を!」
激昂したテーズが距離を取り、懐から複数の小玉を取り出した。
テーズはそれを握りしめ能力を発動する。
腕が残像になるほど速く振られる。
能力を使っての強力な投擲。
「俺と同じか!」
足に能力を込め横に飛び込む。
必死に避けるが数に押され、一発が腹部にめり込んだ。
「ぐぁ!」
激痛に耐えかねて地面に手をつく。
「……くっ!」
肺から空気は押し出され、痛みで立ち上がれない。
テーズはその姿を見下し、最後の一撃を加えようとナイフを構え直している。
「平民なりに足掻いたのだろうが……結果は変わらんのだよ!」
俺はまだ地面に手をついている。
「これで終わりだ! 『一刻千里』!」
勝ち誇り『一刻千里』を発動するテーズ。
俺は地面に手をついたまま。
全力で能力を込めた。
「己力投写!」
俺の能力は、触れたものを「押す」力だ。
テーズが踏み込もうとした瞬間、その足元の地面をわずかに隆起させた。
速すぎるテーズにとって、そのわずか数センチの段差は致命的な罠となる。
「──ぐるぁ!?」
足を取られたテーズの体が制御を失う。
砲弾のような勢いで壁に激突した。
「テーズ君!」
轟音と共に壁がひび割れ、ササ先生が血相を変えて駆け寄る。
「……ご、ごの僕が……」
幸い意識はあり命に別状はなさそうだ。
ササ先生は安堵の溜息を漏らし、俺に向かって短く頷いた。
「勝者バル君!」
二回戦目も何とか突破。
背後から「覚えていろ」と捨て台詞が聞こえた気がしたが、俺は振り返らずに訓練所を後にする。
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「や、やったねバル君! また勝つなんて凄いよ!」
再び救護室。
周りの女子達がニヤニヤとこちらを見ているが、俺はそれどころではなかった。
「いや……危なかったよ。冷静に距離を保って投擲を続けられてたら負けていたのは俺の方だった」
「で、でも勝てたんだから凄いよ! ……は、はい。回復終わったよ」
「ありがとなラロ。おかげで三回戦も全力で戦える」
扉を閉めるとまたしても中から姦しい黄色い悲鳴が聞こえてきた。
賑やかでいいなと思いつつも俺は待合室へと急ぐ。
だが待合室にグルーの姿はなかった。
試合中なのか?
三回戦の呼び出しが始まる。
俺の出番になっても、最後までグルーが現れることはなかった。
グルーの敗北という予想外の事態に俺に緊張が走った。
この大会、俺が思っている以上に強者が潜んでいるらしい。




