第12話 千斤を負ひ、猶ほ進む
教壇に立つササ・グラービ先生の声が響く。
「知能の高い動物には、人と同じように能力に目覚める個体がいます。これらを害をなす者は『邪獣』共存可能なものは『聖獣』と呼び分けるのが一般的で──」
隣の席では今日もグルーは机に突っ伏して寝ている。
もうクラスの誰もがいつもの光景として受け入れている。
グルーが二つ星に進級できるのか、友人として不安になってきた。
「──今日の講義はここまで。来週、クラス一の生徒による『模擬戦大会』を行います。詳細は明日の朝に話します。では解散」
「大会ねえ。クラスの奴らと戦うのか?」
いつの間にか起きたグルーが不敵な笑みを浮かべている。
「自分の実力を知るいい機会になるな」
「当たっても手加減すんなよ?」
「当たり前だよ。グルーこそ全力で来てよ」
強い人がいたらチームに誘うのもいいかも知れない。
俺は模擬戦大会に胸が高鳴っていた。
大会まであと数日。
俺達は放課後の訓練所で励んでいた。
「ふ、二人とも怪我には気をつけてね」
ラロが心配そうに言う。
ラロ達クラス二の生徒は、観戦と怪我人の救護が役割だそうだ。
「俺は能力使わねえし。キツい戦いになりそうだぜ」
「いい加減能力教えてよ。笑ったりしないよ?」
「やだね」
グルーは頑なに口を割らない。
もしかしたら差別されやすい呪詛系能力なのかも知れないな。
「大会までにクラスの奴の情報収集しようぜ」
「た、大会は来週だし。誰も教えてくれないんじゃないかな」
「それもそうか」
「じゃあグルー、俺と対人戦の練習しようよ」
「お! いいぜ」
こうして来週の大会に備えて、訓練をしていく。
どんな能力が来ても対応できるようにしておかないと。
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大会当日。
待合室には熱気と緊張が渦巻いていた。
装備の点検をしながら俺はルールを思い出し確認する。
【ルール】
木製武器の使用、および革鎧の着用。
殺傷行為の禁止。
審判が危険と判断した時点で終了。
「次! バル君とタウル・グルットゥ君!」
俺は名前を呼ばれ訓練所までの通路に歩み出る。
対戦相手のタウルは身長180cmを超える巨漢。
手には巨大な木の斧と盾を構えている。
力では不利そうだ、速度で翻弄するか……俺は戦い方を考えながら通路を歩く。
「まずは正面に立ち挨拶を!」
「俺はタウルだ。よろしくな」
「俺はバル。よろしく」
俺たちは挨拶を交わし距離をとる。
「では始め!」
俺は左手に木剣を構え、右手には木の玉を持つ。
タウルは動かない。
盾をどっしり構え、俺が踏み込むのを待っている。
遠距離に攻撃出来る能力ではないのだろう。
「ふっ!」
俺は己力投写を木の玉に込めた。
投げる力と能力の押す力。
2つの推力が合わさり、空気を切り裂く鋭い音を立てて矢と化した玉がタウルに迫る。
──ゴンッ!
盾に衝突した音が響いた。
タウルの腕がわずかに揺れる。
その一瞬の死角を突き、俺は一気に距離を詰める。
盾の横をすり抜け、側面から斬り伏せようとした時。
「──ッグ!?」
肩に岩を置かれたような重圧が俺を襲う。
膝が悲鳴を上げて地面に叩きつけられる。
「速いな……増幅系能力か。 危ない所だった」
地面に手を付く俺に、タウルの斧が轟音を立て振るわれる。
「ック!」
俺は手に込めていた力を使い、地面を弾くようにして体を横へ飛ばした。
斧をすんでのところで避ける。
「今のを避けるか! だがこれで分かっただろう、降参する気は?」
「......まさか。ここからが本番だよ」
重くする能力。
近接戦闘ではかなり強力だ。
今のが全力なのか、範囲はどれくらいなのか考える。
俺は距離を取り再び木の玉を投じる。
「無駄だ。『千斤落』!」
タウルが叫ぶと同時に、放たれた玉は彼の目前で失速し地面へ垂直に叩き落とされた。
(やはり範囲内に入れば投擲すら落とされるか……)
俺は足に能力を込め、タウルの背後へと高速で回り込む。
そして再び投擲。
ガンッ!
今度の玉は地面に落ちずタウルの背中を捉えた。
「今のは有効打です!」
審判のササ先生の声が飛ぶ。
「クソ!」
タウルが苛立ちを露わにし盾を構え直す。
俺は確信する。
背後が能力の死角だ。
少しの静寂。
勝負を決めるべく、足に力を込め正面から距離を詰めた。
「正面から来るとは! 潰れろ!」
タウルの重力圏に踏み入れる直前、俺は停止した。
能力を込めた足で地面の土砂を猛烈に蹴り上げる。
空中へ舞い上がった土砂はタウルの能力に捕らえられ、猛烈な速度で下へと叩きつけられた。
「ぐ、目にッ!」
急降下する土砂がタウルの視界を奪う。
俺は背後に素早く回り込み剣を振るう。
「千斤落!」
タウルが叫んだ瞬間。
背後にいたはずの俺の体が再び重圧に沈む。
(背後に使えないのはハッタリだったのか……!?)
「くそぉ!」
タウルは目が見えないまま、音を頼りに背後へ向かって斧をぶん回した。
俺の頬を斧が掠める。
奥歯を噛み締め両足に能力を込めた。
重力に逆らい強引に筋肉を駆動させる。
「うおおおぉ!!」
全力で踏み込み剣を突き出す。
「そこまで!」
ササ先生の静止の声。
「勝者バル君!」
俺の木剣の切っ先がタウルの首元で止まっていた。
「......くそ。 負けちまったか」
「ではお互い握手を!」
俺たちは握手を交わす。
「近接で負けるとは思わなかったぜ。凄いなお前」
「木剣で軽かったからだよ、鉄製なら重くて振れなかった」
「それならそれで別の勝ち方を探したろ? 俺もまだまだだなあ」
一回戦目からこの苦戦。
思ったより体力も消耗してしまった。
俺はどこまで勝ち上がれるだろうか。
二回戦の相手がどれほど強いのか。
恐怖よりも笑みがこぼれた。
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