第101話 再戦と門出と呼び出し
中級迷宮・第九階層
濃い緑の森の中、俺はムンゴを除いたいつもの仲間達と草むらに潜んでいた。
視線の先では、魔鹿『ビジュリーディア』が草を食んでいる。
あの魔鹿に俺達は何度も敗走させられ、バビさんの助けでこの階層まで来ることができた。
だが相性や強さを理由に敵を避けていては、きっとこの先を進み続けることはできないだろう。
そんなわけで再戦をしに来ていた。
「他に魔鹿は見えないねえ。一体だけだよ、本当にやるのかい?」
「ああもちろんだ、全員準備してくれ。でき次第、作戦通りに行くぞ」
防具の留め具を締め直し、準備した対策を確認する。
袋の中の物がチャラリと静かな音を鳴らし、俺達は頷き合う。
まずはレギンが草むらを飛び出し、俺達もそれに続いた。
「我が身は『大盾』!!」
魔鹿まで三メートルの距離に近づき、レギンがその身を強固な大盾と化す。
眼前の魔鹿は当然こちらに気がついており、その黒角には青白い閃光が奔っていた。
この近距離での放電攻撃、下手をすれば全滅だが、用意した対策を信じて行動に移す。
「『己力投写』!」
「おりゃあッ!」
レギンの後ろから、俺とグルーが袋の中身を魔鹿に向かって投げつける。
空中でチャラチャラと音を鳴らすそれは、鉄の杭だ。
簡易テントを張る時に使う物を今日は多めに持ってきていた。
魔鹿からすれば未知の投擲物、貯まりきった電気が解放される。
バチンッ!!
白い閃光が視界を染め上げた。
鉄の杭は放電とぶつかり合い、俺達に向かって弾け飛んでくる。
ガギンッ、と構えるレギンに杭が衝突するが、それだけだ。
痺れも、焦げつく臭いもない。
「成功だ! 次の放電を貯める前に仕留めるぞ!」
放電に余程自信があったのか、俺達が動き出したことに魔鹿は驚いていた。
構わず俺達は駆け出す。
レギンが正面から、俺とグルーが左右から挟み込み、ラロは距離を取り、ラロの頭に乗るカリーが周囲を警戒する。
「我は『大盾たる大蟻』!!」
人外の膂力を宿したレギンが正面から飛び込み、魔鹿も応戦するように突き出した黒角を武器として突進した。
両者は激しく衝突し互角の圧し合いを繰り広げた、だが体格の差でレギンが押され始め、地面に溝が作られる。
「『是正宣光』!」
ラロが魔鹿を光で包み、視界を奪う。
同時にグルーが駆け出し攻撃を仕掛けた。
「オオォ! 残響傷『鉄拳』ッ!」
具現化された緑の巨拳、振り下ろされる大剣。
直撃すれば仕留めきれる威力だったが、魔鹿は光に包まれた時点ですでに後ろへ飛び退いていた。
グルーの攻撃は空を切り、ラロの閃光も解けてしまう。
パチッ
魔鹿の黒角が、再び青白く光り始める。
予想より早い再充填。
杭はレギンとラロの分しか残っておらず、陣形も乱れている。
俺達に緊張が走り、魔鹿はその知能と残虐性からか嘲笑うように口を歪めた。
「『己力投写』!!」
ズチャリと魔鹿の首が半ば断たれ、体と共に倒れ伏した。
草の生い茂る地面が赤く染まり、俺は熱い息を吐き出して黒剣に付着した血を振り払う。
対策その二も大成功だった。
「やったな! 対策は二つとも大成功じゃねえか。これで胸張って先に進めるぜ!」
「うむ。少し肝を冷やしたが、結果は我らの完勝だ!」
「だが思ったより再充填が早かったな。次の戦いに向けて陣形を練り直さないと」
二つ目の対策とは、上空からの奇襲だ。
鹿のような横長の瞳孔は広い範囲の景色を捉えており、背後からすら奇襲は難しい。
だがそれは水平方向の話、上下の視界はそれほど広くない。
ラロが魔鹿の視界を封じた瞬間に動いたのはグルーだけじゃなく、俺も上へ駆け出していた。
死角の少ない視界ゆえに、突然敵が現れる経験などなかったのだろう。
俺の奇襲に対応することができず、その首を断ち切ることができた。
「こいつは高く売れるからねえ。今日はその代金で宴会だね!」
三ツ星生としての生活も始まり、雪辱を果たしたこの戦いはその出発にふさわしい成果となった。
俺達は周囲を警戒しつつ、今夜の宴会で頼む料理を話し合うのだった。
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ガヤガヤと騒がしい冒険者ギルド経営の酒場。
俺達も酒と料理を囲み、その賑わいに一役買っていた。
香辛料の効いた熱い肉を口に運び、酒で喉を潤す、それだけで今日の疲労が吹き飛んでいくようだ。
「ビジュリーディアの革と角だが、いくつか残しておかないか? 話によると電気に強いみたいだし、今後のために取っておいたほうがいいと思ってな」
「俺は賛成だぜ。電気防げる鎧とかかっこいいしな!」
他の者も異論はないようで、人数分を残しておくことが決定した。
これで今後、放電攻撃をする魔物が現れても、革を加工した防具を作れば戦いやすくなるはずだ。
今後の攻略予定や他愛のない雑談に興じていると、俺達の卓に近づいてくる気配があった。
目を向けると、そこには仕事着をきっちりと着こなした男性が立っていた。
ギルド職員だ。
「失礼ですが、バル様御一行でいらっしゃいますでしょうか。組合長がお呼びでございます、上階へお越しいただけますでしょうか」
突然の呼び出し、それもこのギルドの組合長からだという。
俺達は食事の手を止め、固まって顔を見合わせるのだった。




