↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/151

閑話 カリーの食楽指導・一


 昼時のバフタル、街の一角をバル坊と二人で歩いていた。

 歩くと言っても、私は頭の上に乗っているだけだが。

 流れる景色の中、古びてはいるが清潔感と気品を感じる外観の店が目に留まった。

 ただってきた匂いに、私は乗っているバル坊の頭を叩いて足を止めさせる。


「バル坊、今日の昼はここにしようじゃないか」

「この店か? あんまり客が入ってないが……大丈夫だろうな」

「馬鹿をお言い、私が店選びを外したことがあるかい? 見た瞬間に直感ちょっかんしたよ、新しい美食との出会いをねえ」


 私がそう言うと、バル坊は納得したようで店の扉に手をかけた。

 ガチャリと開かれた途端とたん、食欲を刺激する香ばしい匂いが押し寄せる。

 やはり正解だった、匂いに期待したのはバル坊も同じのようで、ごくりとつばを飲み込む音が聞こえた。


「い、いらっしゃいませ! お好きな席へどうぞ!」


 ガラリとした店内を見回すと、頬杖ほおづえをついていた店員の女性が慌てて立ち上がった。

 バル坊は席に座り、私はテーブルの上に下ろしてもらう。


「あの……お客様。申し訳ありません、当店はペットをお連れでの入店をお断りしておりまして……」

「誰がペットだい。私は客として来てるんだよ」


 言いづらそうな店員に私が返答すると、彼女は口を開けて驚き、声も出ない様子だ。


「すまない。こいつはペットじゃなくて、聖獣せいじゅうなんだ。清潔にもしてるし、迷惑もかけない。それでも駄目なら、素直にほかの店に行くよ」

「せ、聖獣せいじゅう様……!? た、大変失礼いたしました! ぜひ当店でお食事を!」


 バルが説明すると、今度は畏敬いけいねんを抱かれたようだ。

 品書しながきを見て注文を決めようとするが、一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを観察されているような居心地の悪さを感じる。


(やれやれ……街中で姿を隠す必要がなくなったと思ったら、今度はこれだ)


 店に入る度に聖獣せいじゅうだと説明し、いちいち騒ぎになり注目される。

 静かな食事が望みなのだが、世の中うまくいかないものだ。


「お悩みでしたら、当店名物のつぼパン詰めはいかがでしょうか? 焼き立てでおすすめですよ!」

「「つぼパン詰め?」」


 店員は笑顔で品書しながきを指さした、聞いたことのない料理にバル坊と声が重なる。

 好奇心が刺激され、それを二つ注文。

 どんな物かはあえて聞かない。

 目の前に出されるまで想像そうぞうを膨らませるのも、食事の楽しみの一つなのだから。


「お待たせいたしました、つぼパン詰めでございます。ナイフとフォークをご用意しておりますが、手で持ってかぶりつくのが一番美味しい食べ方ですよ!」


 出されたのは、つぼのような形のパンに、具材とソースがぎっしり詰まった料理だった。

 漂ってくる匂いは、店先で感じたのと同じもの。

 勧められた食べ方の通りに、私は豪快ごうかいにかぶりつく。


「んんッ!? これは……!」


 かぶりつくとバリッとパンが音を立てやぶけ、口の中に美味しさが溢れ出す。

 エビと魚のすり身を揚げたものだろう、ザクザクとした食感と共に魚介ぎょかいの味わいを感じさた。

 垂らされたたっぷりのソースは溶けたチーズと混ざり合い、濃厚のうこうな味が舌と脳を刺激する。

 一緒に詰められている新鮮な野菜がしつこさを消し、後味をさっぱりとさせてくれるおかげで飽きさせない。

 一言でいえば、絶品だ。


「これは美味しいな! あとでみんなにも勧めないと」


 私の味覚がおかしいわけじゃないようで、バル坊も夢中でかぶりついている。

 噛みごたえのあるパンと具沢山の中身、食いでのある一品だったが、あっという間に平らげてしまった。

 口の周りのソースをペロリと舐め取り、ふくれた腹の心地よさに満足する。


「私の読み通り、新しい美食と出会えたねえ。これはサマナに帰る前に、あと二、三回は食べなきゃだね」

「ああ、今夜もう一度食べてもいいくらいだ。でも不思議だな、なんで客がいないんだろうな?」


 バル坊の疑問ぎもんはもっともだろう。

 奥まった場所にあり、立地りっちが良いとは言えないが、この味なら客が押し寄せてもおかしくないと思えるはずだ。


「料理店ってのはね、味が全てじゃないのさ。繁盛はんじょうするためには、色んな要素が絡み合うんだよ」


 バル坊はふうんと、さして興味はなさそうに返事をした。

 満足した私達は会計のため店員を呼ぼうとするが、逆に店員の方から駆け寄って話しかけられる。


「あの、すみません! お話が聞こえてしまったのですが……ぜひ聖獣せいじゅう様のお知恵を貸して頂けないでしょうか!?」


 深々と頭を下げる女性店員。

 私とバル坊は困惑し、思わず顔を見合わせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。