閑話 見定める目・三
その後もバルとチーヤーによる暗躍は続いていた。
話の流れでレギンが教会と国との軋轢を批判しようとしたのを止め。
夕食をご馳走になった際、グルーとムンゴの豪快な食べ方に驚く両親に「絶品すぎて無我夢中みたいですね!」と援護し。
酒の入ったカリーが品のない軽口を叩こうとしたので、バルが口を塞ぎチーヤーが別室に連れて行き。
全員の言動に神経を張り巡らせていたバルとチーヤーはヘトヘトになっていた。
「ご、ご馳走様でした……また明日、遊びに来させてもらいます」
「夜道には気をつけるんだぞ! 明日の冒険譚も楽しみにさせてもらうよ!」
日の沈んだバフタルを歩いていくバル達。
名残惜しそうに見送るラロを、両親は優しい目で見守っていた。
「私も今日のところはお暇させていただきます。それでは失礼いたします」
自室にとぼとぼと戻るチーヤー。
疲れの色が見えるその姿に、両親はふふっと笑みをこぼしていた。
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「そいッ!」
掛け声と共にバルの体は宙を舞い、ドサッと地面に打ち付けられる。
バルを投げ飛ばしたのはラロの父だ。
昼食後、食後の運動がてら実力を拝見したいと、家の庭で組手をしていたのだった。
「おいおい、マジかよ。全員ダメじゃねえか」
「僕……昼のスープを吐きそうです……」
「バルの父といい、平民の親は強いものなのか!?」
能力なしの素手同士という、冒険者には不慣れな条件ではあるものの、全員が背中に土をつけられていた。
教会勤めで辺境での宣教と慈善活動をしているという両親に、強さを想像していなかったバル達は、悔しさよりも驚愕が勝っていた。
「わはは! 辺境では風習やちょっとした誤解から揉め事になることも少なくないからな! 自衛くらいできなければ宣教などできんよ!」
自衛という水準を超えた腕前だったが、その理由にバル達は納得した。
「もう一本お願いします!」とめげずに食らいつくバル達に、父は感心したように頷いた。
「うむうむ、それでこそ邪を払えるようになるというもの。冒険者ではなく教会で働いてほしいものだ!」
そんな男達の横でも稽古が行われていた。
対峙するのはラロとその母。
木の竿を手に握り込み、眼前の相手にお互い集中している。
「やぁぁッ!」
ラロが踏み込みと同時に竿を突き出し、母の胴を狙う。
だがカツンッと軽い音を立て突きは弾かれてしまった。
体勢の崩れたラロの頭に、母が竿を振り下ろす。
「あぅッ!」
「力はさておき……腰が入っていないわね! そんなので魔物相手に戦えているの、ラロちゃん?」
槍術の使い手として、母はラロの何段も上の腕前だった。
すでに何度叩かれたか分からない頭を撫でながら、ラロは俯いてしまう。
「耕し、導き、邪を払う、どれも力がなきゃ成せないことよ! 宣教だってそう、力を見せなきゃ話すら聞いてもらえない時があるわ。それは夢だって同じ。私達を納得させたいなら、そんな半端じゃダメよ!」
「は、はい!」
愛娘を打ちつけることに母は罪悪感を抱いていたが、手は一切緩めなかった。
それほど、冒険者の道が甘くないものだと理解してほしかったのだ。
稽古場と化した家の庭。
汗水垂らし、荒い息を吐き出すバル達をチーヤーは見つめていた。
どこか懐かしむような目には、本人にも分からない様々な感情が入り混じっている。
(お嬢様の了承も得ずに暗躍したのは間違いだったかもしれませんね……私が何もせずとも、認められようと立派に励んでいらっしゃる)
自分の行動は彼女の努力を無下にする行いだったと、チーヤーは反省した。
チラリとバルに目を向けると、暗躍のことなど忘れて、楽しそうに組手に取り組んでいる。
ふうと息を吐き、夕食の買い出しのために腰を上げた。
(坊や達が帰ったら、久々に剣でも握りますか……)
それは単なる運動か、それとも。
若き熱に煽られ、両親の指導にもさらに熱が入っていくのだった。
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バル達がいた日中とは一転して、静まり返った家の中で両親は二人で酒を飲み交わしていた。
酒の肴は、土産として買ってきた各地の名産と、バル達の話題だ。
「なかなか骨のある子達だったな。我が子に見る目があって良かったよ」
「そうねぇ。ラロちゃんも、あんなに嫌いだった武術稽古にも熱心に取り組むようになっちゃって……」
愛娘の成長と、縁に恵まれたことに、二人は喜び安堵していた。
そして何がおかしいのか、くすくすと含み笑いを始める。
「しかし、チーヤーの奴……相変わらずラロのことになると甘いな。私達が本気で教会に連れ戻すかもと考えているのだろうか?」
「よほどあの子達を気に入っているのね。あんなに庇って……私、笑いそうになっちゃったわ」
二人は、チーヤーとバルの暗躍に気がついていた。
その上で何も言わず見守っていたのだ。
「でも、チーヤーも認めたなら安心よね。ラロちゃんの夢、私達も応援してあげなきゃ」
「私としては、まだ教会に従事してほしいのだがな。冒険者を引退した後でいい、跡を継いでくれないだろうか?」
「もう、いい加減諦めなさいよ。そういう諦めの悪いところを、ラロちゃんは引き継いじゃったのね」
呆れたようにグラスを傾ける母の横で、父は明日も鍛えがえのある若者をしごくことを楽しみにするのだった。




