閑話 見定める目・二
「いやはや。話には聞いておりましたが、実際に聖獣様にお目にかかれるとは」
「やめておくれよ聖獣様なんて。カリーさん、でいいんだよ」
「うちの娘はお手数かけてないでしょうか……」
「ラロちゃんにはいつも助けられてるよ。なんたって、うちの男達はがさつだからねえ」
ラロの両親は、聖獣カリーの話に聞き入っていた。
二人は熱心な信徒のため、神の使いと称される聖獣を前にして恐縮している。
その隙をつき、チーヤーは悟られぬよう自然な動作で部屋を抜け出した。
目配せに気がついたバルも、少し遅れて部屋を出る。
「いいかい、よくお聞き。間違ってもご両親に無礼な真似をするんじゃないよ」
「えっと……ラロの両親はそんなに厳しい方なんですか?」
廊下で声を落とし、ひそひそと話し合うバルとチーヤー。
厳しいのかと問われたチーヤーは静かに首を振った。
「普段は温厚なお方さ。でもね……お嬢様のこととなると途端に厳しくてね。冒険者活動に良くない印象を持たれたら、最悪は教会へ連れていかれるよ」
「それは……失礼をするつもりはありませんが……みんなにも知らせておいた方が良さそうですね」
バルの頭には、レギンとグルーの顔が浮かんでいた。
悪人ではないが誤解されやすく、しかもそれを気にしない二人は、何かと問題を起こしやすい。
事前に注意をしようとしたバルだったが、チーヤーがそれを止めた。
「やめときな。不自然な動きをして、ご両親に察せられかねない。あんたと私で、それとなく対処するよ」
「了解です。俺がチームを、チーヤーさんがご両親の対応をお願いします」
二人は密かに手を組み、ラロの夢を守るために動き始める。
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大きな鞄が机に置かれ、両親の二人はそそくさと中身を取り出し始めた。
テーブルに並べられていくのは、見慣れない品々ばかりだ。
「私達は仕事柄、様々な辺境へ赴くのだがね。いつもこうして、その土地の名産品を買ってくるのだよ」
「今回はラロちゃんのお友達もいることだし、多めにお土産を買ってきたのよ! 遠慮しないで受け取ってちょうだい!」
ずいっと押し付けるように差し出されたのは、木彫りの人形。
色鮮やかな模様が描かれているものの、その造形は異様だ。
人間の頭部に不釣り合いな二本の角が生え、目は縦に四つ刻まれ、足は山羊そのもの、両腕に獣の毛が植えつけられている。
「これは……まるで呪いの人──」
「ありがとうございます! 部屋に飾らせてもらいます。異国情緒を感じる品ですが、どういったものなんですか?」
レギンの言葉を察したバルは、大声で礼を言い遮った。
どんな物か分からないが、土産を呪いの人形などと言えば不興を買いかねないだろう。
「お、分かるかね。これは今回訪れた土地で、戦の神として恐れられている──」
笑みを浮かべ、両親は旅先で得たであろう知識を語り始めた。
話にラロが感心した素振りを見せると、両親の笑みは一段と深くなる。
ひとまず最初の危機は脱したと、バルとチーヤーは内心で安堵の息を漏らす。
視線を交わし、気を引き締め直すのだった。
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「そうかそうか! ラロがそんな活躍を!」
「ええ。ラロがいなければ、迷宮主の攻略は厳しいものになっていましたよ」
「ふふ。こうしてお友達の口から活躍を聞けるなんて感激だわ」
チーヤーが話をうまく冒険譚へ誘導し、バルがそれに乗ってラロの活躍ぶりを語っていた。
ラロは称賛され赤面しているが、愛娘の活躍を聞けた両親は上機嫌だ。
これで冒険者への印象も良くなるだろうと、チーヤーが安堵しかけたその時。
「いやぁ……あいつの攻撃はマジでヤバかったよな。今戦っても楽には勝てねえぜ」
「僕はまだ未挑戦ですが、しっかり準備して覚悟を決めて挑まなければなりませんね……」
「むむ、それほどまでに危険なものなのか……」
両親の顔が曇り始める。
強大な魔物を相手にしていると知り、娘の身を案じ始めたのだ。
バルが焦りを顔に滲ませ、見かねたチーヤーが助け舟を出した。
「お嬢様は後方での回復ですから、危険は少ないかと。それにこの坊や達、なかなかの才能の持ち主でございます。お嬢様の安全については、信頼して任せてよろしいかと」
「あら、あなたがそこまで評価するなんて珍しいわね。この子達のこと、よほど気に入っているのね」
「……素質を率直に評価しているだけに過ぎません」
素直じゃないチーヤーの態度に、両親は相変わらずだなと顔を綻ばせる。
そこから話題は、両親とチーヤーとの出会いの話へ移っていった。
チーヤーは面白くなさそうに眉をひそめたが、バルは目配せで感謝を伝える。
二人の暗躍が吉と出るか凶と出るか、それはまだ誰にも分からなかった。




