閑話 見定める目・一
家の前でギィと馬車が止まる音が聞こえ、にわかに騒がしくなり始める。
チーヤーはくゆらせていた煙草の灰を落とすと、腰を上げて出迎えの準備を整えた。
「チーヤーいるか! ラロのお友達はどこだ! 早く会わせなさい!」
「予定より遅れたけど、急いで仕事を片付けて帰ってきたのよ! まだ居るのよね!?」
ドタドタと玄関から雪崩込んで来た二人、ラロの両親だ。
チーヤーは騒々《そうぞう》しい二人の扱いに慣れているのか、落ち着いた様子で応対する。
「これはこれは旦那様、奥様、おかえりなさいませ。お嬢様とそのお友達なら、ただいま庭で訓練中でございます」
「おお! ようやく顔を合わせられるのだな!」
「あなた、行きましょう!」
荷物を放り出し、待ちきれないとばかりに庭へ向かう二人。
そんな様子もいつも通りだと、チーヤーはゆっくりと後を追った。
「……チーヤー。彼らは何をしているんだ?」
「変顔でもしているのかしら……最近の流行りなの? チーヤー」
庭の奇妙な光景を目にして、二人の足が止まっている。
視線の先には、帰宅した両親にも気がつかず、目を見開いて口を大きく開けるバルたちの姿があった。
困惑する二人に、チーヤーは答える。
「ああ、これは大声を出す訓練だそうで。なんでも仲間の一人が叫ぶ能力を訓練中とのことで、全員で模索しているのですよ。騒がしいと近所迷惑ですから、お嬢様の能力で消音しているんです」
レギンの新しい型『吠猿』。
形にはなったもののさらなる改善を目指し、全員で大声を上げて試行錯誤していたのだ。
もしラロが『是正宣光』で消音していなければ、バフタルに奇声が響き渡っていただろう。
光の帷に音を遮られ、二人の存在に気づいていなかったバル達だったが、ようやく気がついたようだ。
全員叫ぶのをやめると、光の帷が解かれる。
「お、お父さん、お母さん! いつのまに帰ってきたの!?」
「今帰ったばかりさ! お前に早く会いたくて、急いで仕事を終わらせてきたんだよ!」
ラロが顔をほころばせ、駆け寄る。
両親はラロと肩を抱き合い、娘との再会を喜んだ。
しばらくきつく抱きしめ合い、ようやく満足した様子の両親はバル達へ視線を向ける。
居住まいを正し、背筋を伸ばしたバルが口を開いた。
「初めまして、ラロさんとチームを組ませてもらっているバルと申します。お会いできて光栄です」
まずはバルが代表して礼儀正しく挨拶し、続いて他の者も挨拶していく。
ふむ、と頷き、両親は満足そうにそれを受け止めた。
チーヤーは内心でほっと息をつく。
(さて、どうなることやら。坊や達が気に入られればいいですが……もし反感を買うような真似をしてしまったら……)
両親はチームを組むことも、冒険者になること自体にも反対し始めるだろう。
溺愛する娘が危険の伴う冒険者になることに、二人は本心では快く思っていなかった。
ラロが懸命に夢を語り、チーヤーが陰で説得しなければ、サマナ学園に入学することすら叶わなかっただろう。
(お嬢様は、もはや坊や達以外と組むのを嫌がるでしょうね……やれやれ、少しだけ力を貸してやりますか)
ラロが悲しむことのないように、そして気に入りは始めたバル達が誤解を受けないように、チーヤーは裏で手を回すことを決めた。
バル達の将来を決める面接は、静かに幕を開けていたのだった。




