閑話 夜風の酔い
戦闘回が続きましたので、ここから数話ほど閑話を挟ませていただきます
バフタルでのエピソードとなります
お楽しみいただけますと幸いです!
俺達はおぼつかない足取りで、日の落ちた帰路を歩いている。
ナディ達とのわだかまりも解け、話し合いはそのまま宴会になり大いに盛り上がった。
途中でグルーが酒を飲めないという話題になり、そこから誰が一番酒に強いかという勝負にまで発展した。
普段から水代わりの酒を飲みはするが、飲み比べなどしたことがない。
吐き気とふらつく体、初めての悪酔いを体験しながら、俺はグルーに肩を貸してもらって歩いていた。
「おいおい……負けたくねえからって、飲みすぎだぜバル」
「始まった勝負を降りるわけにいかないだろ……というか、グルーも飲めよな」
「俺の体は酒なんて欲してねえんだよ。あんなもん飲んだら筋肉が縮んじまう」
俺とグルーの横で、レギンとムンゴが騒がしく声を張り上げている。
「我はなぁ! いつかキファルメ家の伝説に名を連ね! 子々孫々に至るまで語り継がれるのだ!」
「ははは! いいですね! じゃあ僕は、この国で一番の商人になりますよ!」
二人で将来の夢を叫び合い、肩を組んで流行りの歌を合唱している。
これだけ酒を飲んでいつも通りなのは、ラロだけだ。
ほんのり顔を赤らめているだけで、足取りも口調もいつも通り。
というか、今回の飲み比べの勝者は彼女だった。
「ちょっと飲みすぎちゃったね。ナディちゃん達、大丈夫かなぁ」
俺達はこの有様で、ナディ達も似たようなものだったのだが、それをちょっと飲みすぎた程度で済ませるラロに、俺は恐れおののいていた。
酒の心地よさも悪酔いの苦しさも楽しみながら歩いていると、ラロの家が見えてきた。
あとは彼女をチーヤーさんに任せ、俺達は宿屋へ帰るだけ。
そのつもりだった。
「ずいぶんと遅いご帰宅ですね。案じて帰りを待ってみれば……まさか、酔い帰りとはね」
「決闘だったんじゃなかったのかい? 心配して損したよ」
腕組みをしたチーヤーさんと、その肩に乗ったカリーが家の前で待ち構えていた。
決闘の結果も報せず、遅くまで待たせていたのだ、苦言を言われても仕方がない。
俺が代表して謝罪を口にしようとした時。
「さて。冷めてしまいましたが、腕によりをかけた料理はできていますよ。いまスープを温め直しましょう」
「え……?」
思わず気の抜けた返事をしてしまう。
するとチーヤーさんの眉がピクリと動き、細められた目が俺達を射抜いた。
「まさか……忘れていた、とでも? 勝ってくるからご馳走を用意して待っていてくれと、確かそんなようなことを言っていた気がしますが?」
言った。
決闘に向かう前、チーム全員で自信満々《じしんまんまん》にそう言っていた、なんならナディ達を連れてくる気だった。
戦いの興奮と宴会の盛り上がりで、全員忘れてしまっていた。
カリーが呆れたように溜め息を吐き、チーヤーさんはわなわなと震えはじめる。
「注文しておいて待たせ……その上、食べられないなどと言い出したら……私はあなた達の頭を潰──」
「食べます! 食べさせてください!」
膨れ上がるチーヤーさんの圧に、俺達は叫んだ。
酒場で飲み食いしていた俺達だったが、覚悟を決めて家の中へ入る。
(酔いが醒めるって……こういう感覚なんだな……)
翌日、俺達は食べ過ぎと二日酔いで、バフタル観光も訓練もできずに寝込むのだった。




