第88話 違えた約束と懸けた想い
「ナディ……ああ、あの子ですか」
「また面倒事に巻き込まれたのかい。まったく、留守番をしてて正解だったよ」
俺達は家に戻り、カリーとチーヤーさんに先ほどの出来事を説明した。
ラロの世話係であるチーヤーさんは、ナディのことを知っているようだ。
「しかしあの女はムカつくよな。言いたい放題言いやがってよ」
「思い出すだけでむかっ腹が立ちますね」
未だ怒りが収まらない様子のグルーとムンゴ、ラロは浮かない顔で俯いていた。
「な、ナディちゃんは……ただ私のことを心配しすぎてるだけなんだよ。少し過剰だったかもしれないけど……」
「それはどうでしょうか。あの子は独占欲が強くて視野も狭いところがありましたから、大方偏見をそのまま鵜呑みにしているのでしょう」
チーヤーさんが冷ややかに指摘する。
「偏見……そういえば山猿とか言われたな」
サマナ学園に対して良くない噂でもあるのだろうか?
俺が疑問に、チーヤーさんが説明をしてくれた。
「サマナ学園は主に優秀な冒険者や兵を養成するために設立されたが、バフタル学園は聖職者や騎士を育てる側面が強いからね。バフタルには、サマナを野蛮だと見下す者が少なからず存在するんだよ」
「なるほど……だから俺達がラロをこき使っていると思われたのか」
通りでこちらの言い分に耳を貸さなかったわけだ。
決闘で俺達のチームワークを見せれば誤解が解けるかと思ったが、色眼鏡を外すのは簡単ではなさそうだ。
「だが実力は本物だよ。気を引き締めて行かなきゃ、あっさり足をすくわれるだろうね」
「そんなに強えのか? 確かにいい装備は使ってたけどよ」
グルーの問いに、チーヤーさんは腕を組んで応える。
「バフタル学園の生徒の多くは、貴族や騎士、聖職者の家系だからね。幼少期から教育を受けているし、授業も対人戦に重きを置いていると聞いてる。こと対人戦の経験に関しては、向こうが一歩先を行ってるだろうさ」
サマナ学園の訓練は、その大半が対魔物を想定したものだ。
過酷な環境を踏破し、強靭な魔物の攻撃を避けて大きな一撃を当てることには長けているが、対人戦となると経験不足は否めない。
「私はこれから夕食の買い出しに行くよ。無様な姿を晒さないよう、しっかり作戦でも立てておくんだね」
そう言い残し、チーヤーさんは買い出しへと出かけていった。
「さて……作戦を立てたいところだが、相手が未知数すぎる。下手に作戦を組んでも、能力一つで瓦解する可能性が高い」
「ならどうすんだ? まさかぶっつけ本番ってわけにもいかねえだろ」
「大雑把な作戦をいくつか用意しておいて、相手の出方を見てから決めるのはどうだ?」
俺の提案に全員頷き、方針が決まった。
陣形や連携の組み合わせを話し合っていると、レギンが何かを思いついたように声を上げた。
「そうだ! あのナディという者の能力ならば、分かるのではないか? ラロとは友人だったのだろう?」
「え、えっと……うん……」
「一人でも能力が判明していれば、対策も立てやすいというものだ!」
レギンの案にムンゴとグルーも期待の目を向けるが、ラロは口ごもってしまう。
「……言いたくないんだね、ラロちゃん」
「は、はい……ごめんなさい……」
カリーが優しく問うと、ラロは頭を下げた。
無理もないだろう、決闘を行うことになったとはいえ、ラロにとってナディは友人。
勝つために能力をペラペラと喋り、策を練るような真似は、ラロにとって友人を裏切る行為だ。
「なら無理に言う必要はないさ。謝ることじゃないよ」
「すまぬ……我の配慮が足りなかったな」
俺が問題は無いと伝え、レギンも己の軽率さに頭を下げる。
するとラロは手を握りしめ、ぽつりと呟いた。
「ナディちゃんは……たぶん、私に怒っているんだと思う……」
俺達は口を挟まず、静かにラロの言葉を待った。
「小さい頃ね、二人でバフタル学園に入ろうねって約束していたんだ……でも、私は冒険者になりたくて……それならサマナ学園の方がいいってチーヤーさんに言われて……それで、喧嘩別れみたいになっちゃって……」
約束を破られ、自分とは違う道を選んだ幼馴染。
再会したラロがボロボロに見えたから、あそこまで感情的になっていのか。
「私……決闘で私達の強さを見せて、心配いらないよってナディちゃんに伝えたい。それに……約束を破っちゃったことも、ちゃんと謝りたい!」
今までにないほどの熱意と決意をラロに感じる。
その覚悟に押されるように、俺達にも火が灯った。
「決闘まで三日しかないが、それまでに二刀流をものにしないとだな」
「俺も『魄力』の精度を上げとかねえとな。少しでも威力を底上げしとくぜ」
「我も、訓練中の新しい型を完成させるとしよう」
「僕は新しい能力の組み合わせを試してみます!」
ラロの想いに答えるため、そして俺達の意地を見せるため、三日後に向け俺達は鍛え抜くのだった。




