第87話 再会が散らす火種
壁に飾られた見るからに鋭い剣、顔が映るほど磨き抜かれた盾、武骨だが機能美を感じさせる槍。
光を反射して輝く武器の数々を、俺は飽きずに眺め続ける。
ここはバフタルの武具屋、チーヤーさんにおすすめされた店だ。
「なかなか質がいいぜ。予備の武器でも買っていいかもな」
「そうだな……よし、これにするか。すみません、これを手に取りたいんですが」
俺は立てかけられた片手剣を一つ選び、店主に許可をとる。
素材は鋼、装飾のない両刃の片手剣だが、その簡素さが気に入った。
右手に握り込むと柄が吸い付くように馴染む、全体の釣り合いも悪くない。
安物ではあるが、練習用にはちょうどいいだろう。
「む? 右手に持っているが……まさか二刀流にする気か?」
「鋭いなレギン。ちょっと新しい戦い方を考えててな」
いつもは左手に剣を持ち、右手は投擲のために空けている。
だが『己力投写』を複数に込められるようになった今なら、今までとは違う戦い方ができるはずだ。
二刀流はその試みの一つ。
「に、二刀流かあ……バル君なら器用だし、すぐにコツを掴めそうだね」
代金を支払い、他に良さそうな物がないか物色していると、店の扉が開き複数の足音が聞こえてきた。
見るとそこには六人組の集団がいた、年は俺達と近く見える。
(冒険者には若いし、バフタルの学園の生徒か? 随分といい装備だな……)
彼らが身につけている武具には、真銀や黒金の輝きがあった。
さすがに全面ではなく要所の補強や塗布だが、それでも目が飛び出るような金額のはずだ。
「……ラロ? ラロじゃない! あなたいつの間に帰ってきてたのよ!」
「な、ナディちゃん……!」
俺が装備の豪華さに驚いていると、六人組の一人、長く暗い緑髪の少女がラロに話しかけた。
どうやら知り合いのようだ。
「ひ、久しぶりだね。今は進級休暇中なんだ、八日はこっちにいるんだよ」
「そっちの学園も休みなのね。私達もそうなのよ」
二人が再会を喜ぶ中、残された俺達は手持ち無沙汰になってしまった。
チラリと六人組に視線を向けると、そのうちの一人と目が合う。
「はじめまして、俺はバルって言います。バフタル学園の生徒さんですよね?」
「俺はカウ、よろしくな。その通りだが、もしかして君達はサマナの……?」
「ええ、サマナ学園の二つ星なんです」
軽い挨拶を交わしていると、突然ラロの方で金切声が上がった。
「ちょっとラロ! 何よこの手、ボロボロじゃない!」
「え、えっと、これは訓練で……」
ナディと呼ばれた少女は、ラロの手の荒れ具合に驚いていた。
「訓練って……あなたは後方で回復役でしょ!? なんでこんな擦り傷やマメだらけになってるのよ!」
「や、槍や投擲の訓練をしているんだよ。訓練のあと回復しちゃうと、体力がつかないから……どうしてもこうなっちゃうんだ」
ラロの説明を聞いたナディは、顔を強ばらせて俺達をキッと睨みつけてきた。
「あなた達がラロに無茶をさせているのね! やっぱり、サマナの連中は野蛮だって噂は本当なのね!」
「ちょっと待ってくれ。俺達は別に強制なんて──」
「黙りなさい! あなた達が頼りないから、ラロが無理をしてるんでしょ!」
俺に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくるナディ。
ラロに助けを求めて視線を向けるが、彼女はオロオロとして言葉が出ていない。
そして事態はさらに悪化していく。
「ふん! このような華奢な少女に無理強いをするとはな。サマナ学園は力だけの山猿という評判も、間違いではなさそうだ」
「あぁ? なんだてめぇは?」
六人組の一人の男が吐き捨てた悪態に、グルーが激怒した。
余計にこじれるからやめてほしいのだが、グルーは怒りを隠そうともせず男へ詰め寄る。
「そこまでだ……それ以上近づくなら、こちらも容赦はしない……」
「どけよ。喧嘩じゃ女には手を出さねえ、用があるのはそっちの野郎だ」
グルーの威圧に怯んだ男を庇うように、凛とした佇まいの女性が立ちはだかった。
グルーと正面から睨み合い、火花を散らしている。
レギンとムンゴも眉をひそめ、いつでも動けるよう身構えていた。
「そうだわ! ねえラロ、サマナ学園なんて辞めてバフタルに来なさいよ!」
「え……?」
「実力の低い人と組んでいたって危険でしょ? 私達が守ってあげるから、うちのチームに入りなさいよ!」
ナディはラロの手を握り締め、優しく諭すように話しかける。
だがラロは首を横に振った。
「ナディちゃん……私は守られたいわけじゃないし、みんなは弱くなんてないよ」
「嘘つかないでよ! あんな安物の剣で満足してるような人が、強いわけないじゃない!」
ナディが指さしたのは、俺が買ったばかりの剣だ。
さすがにここまで好き勝手に言われると不快感を覚える。
俺が前に出ようとして──
「やめてよナディちゃん! それ以上仲間を馬鹿にするなら、私だって怒るよ!」
俺達もナディも目を丸くする。
ラロが怒りを剥き出しにして声を張り上げるなど、見たことがなかった。
「ナディ……もうやめろ。お前少しおかしいぞ、熱くなりすぎだ」
俺と話していたカウが制止に入る。
これでようやく収まるかと思ったが、ナディは唇をかみしめて震えている。
「決闘よ……」
「は?」
「そんなに強いって言うなら、私達と勝負しなさいよ! あんた達がいかに貧弱か、思い知らせてあげるわ!」
突拍子もなく一方的な発言に、皆が驚き呆れた顔を浮かべる。
ナディ自身もおかしな事を言っている自覚があるのだろう、顔を赤くして拳を握りしめている。
「いいよ、やろう。条件は決めているのか?」
俺の即断に、全員さらに驚愕した。
「そ、それは……三日後の午後三時、北門を出た先の草原で全員よ! ちゃんと装備を整えて来なさいよね!」
「わかった。みんなこの条件でいいよな?」
展開についていけない仲間は、呆然としたまま生返事で頷いた。
それを確認して、ナディは仲間に引きずられるように店を去っていった。
「バルよ……なぜ今の決闘受けたのだ? あのような手合い、無視しておけばよかろうものを」
「いや俺にはわかるぜ。あそこまで好き勝手に言われちゃあ、男がすたるってもんだ」
「み、みんなごめんね……私のせいでこんなことになっちゃって……」
責任もないのに申し訳なさそうにするラロ、疑問を抱くレギン、早くも武者震いをしているグルー、状況に追いつけていないムンゴ。
「勝手に受けたのは悪かった。でも気にならないか? あいつらの実力」
「それは……確かにな」
一触即発の空気になった時、あいつらは全員が臨戦態勢をとっていた。
そこには口先だけじゃない、相応の修練と場数を踏んできた者の雰囲気があった。
「俺達の実力も見せてやろうぜ。そうだろ、ラロ?」
「う、うん……!」
はたして彼らは上等な装備に似合う実力があるのか、俺は今から胸が高鳴っていた。
「お前ら店ん中でいつまで騒いでやがるんだ! 用がないなら出ていきやがれ!」
店主の怒鳴り声に、俺達は慌てて武器屋を出るのだった。




