表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/114

第86話 白亜の街と積み上げた肉体


 俺達はれる馬車の中で他愛たあいのない雑談ざつだんきょうじていた。

 車内からは馬車を引く六足の魔物の独特な蹄音ていおんが聞こえる。


「レギン様! バフタルが見えてきましたよ!」


 御者ぎょしゃの声にうながされ、窓から外を覗き込む。

 丘から見下ろす先には以前と変わらない、そびええ立つ防壁と白亜はくあの街並みが広がっていた。


「おお! あれがバフタルか! 綺麗な街じゃねえか!」

「王城も凄いですね! 王様の威厳いげんを感じますよ!」


 双子都市ソブリン。

 迷宮を中心に栄えたサマナと、大河を中心に交易で栄えるバフタル。

 グルーとムンゴは、サマナとはまた違う景観に興奮している。


「またあの長い検問けんもんに並ばなきゃいけないのか……思い出すだけで気が滅入るな」

「お、お昼の混雑時だから、前よりも並びそうだね……」


 バフタルには様々な物資が運び込まれるため、検問所けんもんじょには商人達が長蛇ちょうだの列を作っている。

 身分の確認と積まれた荷物の点検を行うため、進みは遅々《ちち》として進まない。

 俺とラロがげんなりしていると、レギンが得意気な顔で口を開いた。


「それならば、懸念けねんする必要はないぞ! 我が同行していれば貴族用の通用門を利用できるからな。簡易的かんいてきな検査だけで済む、並ぶ必要などないのだよ」

「本当か! それは助かるな」


 気の遠くなる待ち時間を知っている俺、カリー、ラロは胸を撫でおろした。

 

 検問所では、公爵家嫡男であるレギンと聖獣のカリーに驚かれる一騒動もあったが、俺達はほとんど待つこともなくバフタルへ入ることができた。



 ----------



 手入れの行き届いた庭からは、煙草たばこの煙がただよってくる。

 庭の椅子に一人腰掛けて煙をくゆらせているのは、はち切れんばかりの筋肉を持った女性、チーヤーさんだ。

 彼女はこちらに気がつき、灰皿に灰を落とした。


「ただいまチーヤーさん! 今回は仲間がみんな一緒なんだよ!」

「おかえりなさいお嬢様。これまたぞろぞろと、賑やかになりそうですね……」


 チーヤーさんは口では文句を言っているものの、その顔には笑みが浮かんでいる。


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「まだまだ病気になるような歳じゃないよ。あんたも元気そうで何よりだ、お嬢様を悲しませるんじゃないよ」


 仲間達の紹介も済ませ、俺達はラロの実家へと入る。

 居間は広いがさすがに全員揃うと少し手狭に感じてしまう。


「ところで、あんた達泊まる場所は確保してあるのかい? うちに全員泊まるのは無理だよ」

「来る前に宿屋の部屋を取ってあります。ここに泊まるのはラロとカリーだけですよ」

「なら安心だね。夕食は食べに来るといい、腕によりをかけて作ってやるよ」


 俺とチーヤーさんが話している間、グルー、レギン、ムンゴの三人は、何やらチーヤーさんを注視していた。


「一つうかがいたいのだが、チーヤー殿は元冒険者で、しかも銀級だったとか?」

「ああそうだよ。とは言っても、なりたてで引退したからね。現役の銀級ほどの実力はないさ」

「ご謙遜けんそんを! その銀級に至ることがどれほど困難なことか。是非ぜひとも、冒険譚ぼうけんたんを聞かせてはくれないだろうか」


 銀級という高位冒険者が、どれほどの修羅場しゅらばをくぐり抜けてきたのか気になっていたようだ。

 村でカーンさんにも聞いたことがあったが、あの人は秘密主義ひみつしゅぎで話してはくれなかった。

 チーヤーさんは武勇ぶゆうを語るのは嫌いではないようで、ニヤリと笑うと話し始めた。



 -----------



「ぐぎぎッ……!」


 グルーが歯を食いしばり、顔を真っ赤にしながら力を振り絞っている。

 握り込んだ相手の腕を押し倒そうとしているのだが、対するチーヤーさんは余裕の表情だ。

 冒険譚ぼうけんたんを一通り聞き終えた後、力自慢のグルーがチーヤーさんに腕相撲を挑んだのだ。

 一分ほど奮闘ふんとうしていたグルーだったがついに力尽き、腕がパタリとテーブルに倒された。


「く、くそ……女に力負けする日が来るなんて……」

「まだまだ未熟みじゅくだね。あとで良い鍛錬方法たんれんほうほうを教えてやるよ」

「次は僕と一勝負お願いできますか!」


 続いてムンゴが名乗りを上げ、善戦したものの負けてしまう。

 互いの力を認め合った三人は、それから筋力鍛錬の話題で盛り上がり始めた。


「あの二人でも歯が立たぬとは。高位冒険者というのは鍛え抜かれているのだな……」

「いや力だけじゃないと思うよ。ただの腕相撲だけど、全身を連動させての体重移動、相手の手を引き込んで力を出させなくしたり、技術や体の使い方も段違いだよ」


 最近になって分かってきたことだが、何気ない所作しょさにもそれまでつちかってきたものが現れる。

 重心の位置、視線の配り方、息遣いや脱力。

 父さんもカーンさんも、ただ歩くだけでも真っ直ぐ芯が通っていた、それはチーヤーさんも同じだ。


「まだまだ……我らは経験けいけん研鑽けんさんも足りぬか。これから三つ星に進級するが、名ばかりにならぬよう益々精進ますますしょうじんせねばな」

「そうだな。もし進級も卒業も出来なかったら、格好がつかないからな」

「そこの二人! あんた達も、男なら挑戦してきな!」


 結局俺とレギンも腕相撲で勝負することになり、その日は手が痛くなるほど叩きつけられるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ