閑話 日向の世話日和
バル達は朝早くから訓練に出る。
そのため朝食は、味わっているとは思えないほどの速度で平らげてしまう。
忙しなく、もったいないことだ。
メエンが作った焼きたてのパンは、硬さはあるが噛めば噛むほど旨みが出る。
スープに浸せばなお美味く、ジャムとの相性もいい。
(あの食べ方じゃ、この味は楽しめていないだろうねえ……)
朝露に濡れた窓からの景色を眺めながら、ゆっくりと食事を味わっていく。
傍から見ればただの怠慢や自堕落に映るかもしれないが、私にとっては有意義な時間なのだ。
食事を終え、トカゲの小さな歩幅で用事へと歩き出す。
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「なになに……なるほどね。そりゃタカトのやつには私から言っておくよ」
話し相手は鷹の聖獣バージ。
タカトと共に狩りや巡回を行う村の守り手だが、最近タカトの行動に不満があったらしく、愚痴をこぼしている。
メエンも能力で動物と話せるため、当然バージとも会話はできるのだが……
(やれやれ、村の聖獣達はメエンを崇拝しちまってるからねえ……お陰で愚痴の聞き役に私が回らなきゃいけないんだから面倒なものだよ)
聖獣の言い分をひと通り聞き終え、次の用事にのそりと移動する。
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「そんな心配はいらないよ。レギン坊があんたを村から無理やり連れ出したりするものかい。そもそも、告白自体が勘違いだったんだからねえ」
今度の相手は、バルの幼なじみエマだ。
勘違いとはいえレギンの告白を断った彼女は、何か報復があるのではと怯えていた。
貴族の横暴などほとんどは本の中の話だが、辺境の村娘が大貴族から求婚されれば妄想が膨らむのも無理はない。
「レギン坊はね、今はすっかり傲慢さも抜けて、たまに自分が貴族だってことを忘れているくらいさ。お馬鹿だけど、愚かなことをする奴じゃない。安心おし」
レギンの人柄を伝え説得することで、エマの被害妄想もようやく収まったようだ。
(やれやれ。親にもバル坊にも相談しにくいからって、私に相談かい。頼られるってのも面倒なものだよ)
文句を言いつつも、本心では嫌いではない。
だからこそよく相談を持ちかけられるのだろうが、一息ついてまた次の用事へ歩き出す。
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「なるほどねえ。バル坊の家族に気に入られたいってわけかい」
遠回しな相談の意図をはっきり言い当てると、ラロは赤面した。
「それなら、今日は一緒に夕飯でも作ったらどうだい? 男連中が多くて大変そうだからね。手伝いながら楽しく会話すれば、自然と距離も縮まるってもんさ」
「な、なるほど……! そうしてみます。いつもありがとうございます、カリーさん!」
ラロはさっそく訓練を切り上げ、張り切って家へと向かった。
その顔にはやる気と期待が満ちている。
(やれやれ。ま、あの子の気立てなら、メエンもポラちゃんもすぐに気に入るだろう。恋愛相談の相手も楽じゃないよ)
訓練を一瞥した後、ラロを追うように家へと歩き出す。
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「グルー坊が驚かしてくるだって? そりゃ何かの間違いじゃないかい?」
家に着くなり相談してきたのは、バルの弟ローゾ。
深刻な表情で、これまでの出来事を話し始める。
「そりゃあ、あんたと仲良くなりたいのさ。ただグルー坊は不器用だからね、接し方に悩んでるだけだよ」
話の内容は、思わず吹き出してしまうような空回りの連続だった。
くすくすと笑いながら伝えてやるが、ローゾはまだ納得がいかない様子だ。
「あいつは面倒見もいいし、頼れる奴さ。それにバル坊に負けず劣らず強い。きっとあんたの良い兄貴になってくれるよ」
「ほ、本当かなあ……」
まだ疑心暗鬼のようだが、強いという言葉に興味を惹かれたらしい。
(やれやれ、グルー坊はお馬鹿さんだねえ。無理に飾らず、いつも通りにしていればいいものを……分かってないねえ)
ローゾの相手をしているうちに、台所からはいい匂いが漂ってきた。
つまみ食いをするため、急いで向かう。
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ガチャリと扉が開くと、外から冷気が流れ込んできた。
寒さにぶるりと体を震わせる。
「おかえりあんた達。寒いから早く扉を閉めておくれ」
訓練を終えて帰ってきたバル達は、テーブルの上でだらりと寝そべっている私を見やった。
「カリー……朝もそこにいなかったか? 日向ぼっこばかりしてないで、少しは運動しろよ」
「馬鹿を言うんじゃないよ。トカゲにとって日光浴がどれだけ重要なものか……私は寒さに弱いんだからねえ」
バルは「こんな時だけトカゲ扱いかよ」と呆れたように息を吐く。
カリーの忙しない一日は、本人しか知る由もない。




