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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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閑話 二人の兄のはかりごと


「ローゾと仲良くなりたい、だって?」

「ああ……そうなんだよ。頼むバル! お前にしか頼めねえんだ!」


 午前の訓練終わりの自由時間。

 見張りもねてレギンの昼食について行こうとした俺を、グルーが呼び止めて頼み込んできた。


「ポラのやつは、もう家族として馴染なじんでるみてえなんだ。それはいいことなんだけどよ……どうもローゾは、俺のことを怖がってるっていうか、けてる気がすんだよな……」

「まあお前のいかつい顔と体なら、大抵たいていの子供は怖がるだろ。今さら気にするなよ」

「おいバル! 俺は本気でなやんでんだぜ!?」


 軽い冗談のつもりだったが、グルーは思った以上に真剣なようだ。

 普段の豪傑ごうけつさが嘘のように落ち込んでいる。


「仕方ないんじゃないか? 去年家族になったばかりで、お前と顔を合わせるのは一年ぶりだろ。ローゾの年なら人見知りもするし、時間が解決してくれるって」

「でもよ……せっかく家族になったんだぜ? やっぱり早く仲良くなりたいじゃねえか。俺だけけられるのはさみしいぜ……」


 大柄おおがらな体を丸めて、似合にあわずえない顔をするグルー。

 親友で兄でもあるグルーのため、俺は一肌脱ぐことにした。


「わかったよ。それじゃあ、昼飯でも食いながらローゾと仲良くなるための作戦会議といこうか」

「本当か!? やっぱりお前は頼りになるぜ。ありがとなバル!」



 ----------

 


 作戦その一、食べ物で釣る

 

 ローゾは食べ盛りだ。

 好き嫌いもなく、土産みやげの菓子も大喜びで食べていた。

 なら菓子で誘い出し、一緒に食べながら距離をちぢめる。

 庭先で一人、木の棒を剣にして遊んでいるローゾ、グルーは菓子を持ちながら近づいていく。


「よ、よおローゾ。すげえ美味い菓子があるんだがよ……ちょっとこっちに来て、一緒に食わねえか?」


 不自然な作り笑顔で顔をらせるグルー。

 ローゾは持っていた木の棒を放り投げ、一目散いちもくさんに家の中へと逃げ込んだ。


「……ダメじゃねえかバル……」

人攫ひとさらいみたいだったな。笑顔は逆効果だったか……」



 ---------



 作戦その二、勉強を教える


 昼食が終わると、ローゾはいつも居間で母さんから勉強を教わっている。

 そこでローゾがつまずいているところをグルーが颯爽さっそうと教えれば、頼れるお兄ちゃんと尊敬そんけいされるはずだ。


「うーん……」


 母さんが紙に書いた算術問題を前に、ローゾは居間で一人頭をひねっている。


「よおローゾ、分からないところでもあんのか? グルー兄ちゃんに任せてみな!」


 訓練終わりをよそおい、できるだけ自然に俺とグルーが居間に入る。

 グルーは意気揚々《いきようよう》と紙を取り、問題に目を通した。

 だが動きがピタリと止まる。


「ん? これは確か……ええと、ここをこうして……?」

「……わかんないの?」

「い、いや! ちょっと待て、今すぐ教えてやるからよ!」


 問題用紙をにぎりしめたまま硬直こうちょくしているグルー。

 れてない頭脳労働に、みるみるうちに顔が赤くなっていく。

 俺はたすぶねを出すため、肩越しに問題覗き込んだ。


「ああここを習ってたのか。それならここを先に計算して──」


 母さんと学園で何度も習っていたとこだったため、俺にはすんなり解けた。

 順序を追って、できるだけ分かりやすく解説していく。


「なるほど! そうすれば答えが出るんだね!」

「そうそう。よく出来たなローゾ」

「ありがとうバル兄ちゃん! やっぱりバル兄ちゃんは凄いや!」


 熱心に頑張るローゾを温かく見守っていると、無言のグルーに外へ引きずり出された。


「お前が尊敬そんけいされてどうすんだよ!!」

「……悪い、お前の苦手な分野ぶんやでいったのが間違いだった」


 その後も俺達は次々と作戦を実行じっこうした。


 作戦その三、森で狩ってきた獲物を見せて強さアピール。

 作戦その四、グルーの手料理で胃袋を掴む。

 作戦その五、ポラちゃんと俺からグルーは凄いやつだと吹き込む。 

 だがその六も七も八も、すべてが裏目に出て失敗に終わった。


「三日間も頑張ったのに、まともに会話すらできねえ……」

「空回りして失敗するか、逆に怖がらせてしまうかだったからな……どうすれば話してくれるんだ……」


 俺は次の作戦を考えるが、グルーは限界にたっしたようだ。


「があぁぁ! むしゃくしゃするぜ! おいバル、組手くみてしようぜ!」

「は? ちょっと待て、急に何言っ──」


 言うより早く、グルーが殴りかかって来た。

 鬱憤うっぷんまると、運動や戦闘で発散はっさんしようとするグルーの悪いくせだ。

 とはいえ、逃げるのも負けるのもしゃくさわる。

 俺は組手に付き合うことにした。



 ----------



「おりゃあッ!!」


 苛立いらだちにまかせ、ざつに突き出されたグルーの拳。

 俺はそれを見切り、つかんで投げ飛ばそうとする。


「くッ!?」


 動かない。

 まるで根の張った木を相手にしているかのような感覚。

 腰を落としたグルーの体は、俺の力を飲み込んでみせた。


「らあぁぁ!!」


 逆につかみあげられ、俺の体は放り投げられる。

 空中で体勢たいせいととのえ、ドサッと受身をとって着地した。


「よっしゃあ! 今のはそのまま地面に叩きつけてりゃ俺の勝ちだったな!」

「くそ……ざつな突きは、俺の投げを誘ってたのか……」


 負けたのは悔しいが、汗だくになるまで体を動かしたことで、グルーの顔は晴れやかになっていた。

 俺が一息ついていると、背後から小さな足音が近づいてくる。


「すごいや! バル兄ちゃんもグルー兄ちゃんも、二人ともすごいよ!」


 庭で派手はで組手くみてをしていたため、家の中からローゾが見ていたらしい。

 ローゾは目を輝かせ、興奮こうふんした様子ようすでグルーに駆け寄る。


「ねえグルー兄ちゃん! 俺にも戦い方を教えてよ!」

「に、兄ちゃん……! おう任せろ! グルー兄ちゃんがローゾを鍛えてやる!」


(なんだ……最初から小細工せず、俺達の訓練を見せてやればよかったのか)


 兄と呼ばれ、話しかけてもらえたグルーは、嬉しそうに色々と教えている。

 俺は服についた土を払いながら、その光景を見守った。


「剣ならバルの方が上かもしれねえが、素手なら兄ちゃんの方が強いからな! まずは拳の握り方から教えてやるよ!」

「えっ、バル兄ちゃんより強いの!?」

「おいグルー。俺達の勝敗、そこまで大差ないだろ!」


 二人が仲良くなれたのは嬉しいが、俺だって尊敬そんけいされる兄でいたい。

 この後、どちらが格好いい兄か争いが始まるのだった。

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