閑話 二人の兄のはかりごと
「ローゾと仲良くなりたい、だって?」
「ああ……そうなんだよ。頼むバル! お前にしか頼めねえんだ!」
午前の訓練終わりの自由時間。
見張りも兼ねてレギンの昼食について行こうとした俺を、グルーが呼び止めて頼み込んできた。
「ポラのやつは、もう家族として馴染んでるみてえなんだ。それはいいことなんだけどよ……どうもローゾは、俺のことを怖がってるっていうか、避けてる気がすんだよな……」
「まあお前のいかつい顔と体なら、大抵の子供は怖がるだろ。今さら気にするなよ」
「おいバル! 俺は本気で悩んでんだぜ!?」
軽い冗談のつもりだったが、グルーは思った以上に真剣なようだ。
普段の豪傑さが嘘のように落ち込んでいる。
「仕方ないんじゃないか? 去年家族になったばかりで、お前と顔を合わせるのは一年ぶりだろ。ローゾの年なら人見知りもするし、時間が解決してくれるって」
「でもよ……せっかく家族になったんだぜ? やっぱり早く仲良くなりたいじゃねえか。俺だけ避けられるのは寂しいぜ……」
大柄な体を丸めて、似合わず冴えない顔をするグルー。
親友で兄でもあるグルーのため、俺は一肌脱ぐことにした。
「わかったよ。それじゃあ、昼飯でも食いながらローゾと仲良くなるための作戦会議といこうか」
「本当か!? やっぱりお前は頼りになるぜ。ありがとなバル!」
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作戦その一、食べ物で釣る
ローゾは食べ盛りだ。
好き嫌いもなく、土産の菓子も大喜びで食べていた。
なら菓子で誘い出し、一緒に食べながら距離を縮める。
庭先で一人、木の棒を剣にして遊んでいるローゾ、グルーは菓子を持ちながら近づいていく。
「よ、よおローゾ。すげえ美味い菓子があるんだがよ……ちょっとこっちに来て、一緒に食わねえか?」
不自然な作り笑顔で顔を引き攣らせるグルー。
ローゾは持っていた木の棒を放り投げ、一目散に家の中へと逃げ込んだ。
「……ダメじゃねえかバル……」
「人攫いみたいだったな。笑顔は逆効果だったか……」
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作戦その二、勉強を教える
昼食が終わると、ローゾはいつも居間で母さんから勉強を教わっている。
そこでローゾが躓いているところをグルーが颯爽と教えれば、頼れるお兄ちゃんと尊敬されるはずだ。
「うーん……」
母さんが紙に書いた算術問題を前に、ローゾは居間で一人頭をひねっている。
「よおローゾ、分からないところでもあんのか? グルー兄ちゃんに任せてみな!」
訓練終わりを装い、できるだけ自然に俺とグルーが居間に入る。
グルーは意気揚々《いきようよう》と紙を取り、問題に目を通した。
だが動きがピタリと止まる。
「ん? これは確か……ええと、ここをこうして……?」
「……わかんないの?」
「い、いや! ちょっと待て、今すぐ教えてやるからよ!」
問題用紙を握りしめたまま硬直しているグルー。
慣れてない頭脳労働に、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
俺は助け舟を出すため、肩越しに問題覗き込んだ。
「ああここを習ってたのか。それならここを先に計算して──」
母さんと学園で何度も習っていたとこだったため、俺にはすんなり解けた。
順序を追って、できるだけ分かりやすく解説していく。
「なるほど! そうすれば答えが出るんだね!」
「そうそう。よく出来たなローゾ」
「ありがとうバル兄ちゃん! やっぱりバル兄ちゃんは凄いや!」
熱心に頑張るローゾを温かく見守っていると、無言のグルーに外へ引きずり出された。
「お前が尊敬されてどうすんだよ!!」
「……悪い、お前の苦手な分野でいったのが間違いだった」
その後も俺達は次々と作戦を実行した。
作戦その三、森で狩ってきた獲物を見せて強さアピール。
作戦その四、グルーの手料理で胃袋を掴む。
作戦その五、ポラちゃんと俺からグルーは凄いやつだと吹き込む。
だがその六も七も八も、すべてが裏目に出て失敗に終わった。
「三日間も頑張ったのに、まともに会話すらできねえ……」
「空回りして失敗するか、逆に怖がらせてしまうかだったからな……どうすれば話してくれるんだ……」
俺は次の作戦を考えるが、グルーは限界に達したようだ。
「があぁぁ! むしゃくしゃするぜ! おいバル、組手しようぜ!」
「は? ちょっと待て、急に何言っ──」
言うより早く、グルーが殴りかかって来た。
鬱憤が溜まると、運動や戦闘で発散しようとするグルーの悪い癖だ。
とはいえ、逃げるのも負けるのも癪に障る。
俺は組手に付き合うことにした。
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「おりゃあッ!!」
苛立ちに任せ、雑に突き出されたグルーの拳。
俺はそれを見切り、掴んで投げ飛ばそうとする。
「くッ!?」
動かない。
まるで根の張った木を相手にしているかのような感覚。
腰を落としたグルーの体は、俺の力を飲み込んでみせた。
「らあぁぁ!!」
逆に掴みあげられ、俺の体は放り投げられる。
空中で体勢を整え、ドサッと受身をとって着地した。
「よっしゃあ! 今のはそのまま地面に叩きつけてりゃ俺の勝ちだったな!」
「くそ……雑な突きは、俺の投げを誘ってたのか……」
負けたのは悔しいが、汗だくになるまで体を動かしたことで、グルーの顔は晴れやかになっていた。
俺が一息ついていると、背後から小さな足音が近づいてくる。
「すごいや! バル兄ちゃんもグルー兄ちゃんも、二人ともすごいよ!」
庭で派手に組手をしていたため、家の中からローゾが見ていたらしい。
ローゾは目を輝かせ、興奮した様子でグルーに駆け寄る。
「ねえグルー兄ちゃん! 俺にも戦い方を教えてよ!」
「に、兄ちゃん……! おう任せろ! グルー兄ちゃんがローゾを鍛えてやる!」
(なんだ……最初から小細工せず、俺達の訓練を見せてやればよかったのか)
兄と呼ばれ、話しかけてもらえたグルーは、嬉しそうに色々と教えている。
俺は服についた土を払いながら、その光景を見守った。
「剣ならバルの方が上かもしれねえが、素手なら兄ちゃんの方が強いからな! まずは拳の握り方から教えてやるよ!」
「えっ、バル兄ちゃんより強いの!?」
「おいグルー。俺達の勝敗、そこまで大差ないだろ!」
二人が仲良くなれたのは嬉しいが、俺だって尊敬される兄でいたい。
この後、どちらが格好いい兄か争いが始まるのだった。




