閑話 昼下がりの一皿・2
材料を買い込み、ポッダーウェイルを作る準備はできた。
ただ待っているのも退屈だということで、レギンとムンゴもエマに教わりながら料理に参加することに。
「まずは小麦粉とお湯、塩を混ぜて生地を作るの。力を入れて、しっかり練ってください」
「これは楽しいな! 幼少の頃の泥遊びを思い出すぞ!」
「食べ物を泥に例えるのはやめてくださいよ……」
カーンはその横で、レシピをメモに書き留めている。
「生地がまとまったら、これを薄く伸ばしていきます。少しくらいなら破れてもいいから、できるだけ薄く広げてね」
「む、これは意外と難しいな……なぜムンゴは手際よく出来ているのだ?」
「俺はよく自分で夕食を作りますからね。こういうのは経験の差ですよ」
レギンの生地は、破れて穴だらけになったがそのまま次の工程へと進む。
エマの両親が、緑色のドロドロとしたペーストを運んでくる。
「次は伸ばした生地に、茹でた豆をすり潰したソースを塗るの。均等にたっぷりと塗ってね」
「熱ッ! カーン、このソースを冷やしてくれ!」
「私の能力は温度調整のためにあるのではないのですが……」
ぶつぶつと文句を言いつつも、精密なコントロールで冷やすカーン。
「ソースを塗ったら、次は好きな具材を細かく刻んで乗せていくの。乗せるものは家によって全然違うけど、うちでは豚の背脂の塩漬けに、鶏皮、その日に余っている野菜を乗せるかな」
「ほうほう。ならば、ここにある食材をすべて乗せようではないか!」
「レギンさん絶対に入れすぎですって! 破れても知りませんよ!」
買ってきた食材を所狭しと並べるレギン。
彩り豊かな食材が、高く生地の上に敷き詰められた。
「あとはこれをぐるぐる巻いて長い棒状にしたら、それを渦巻き状に丸めるの。それをフライパンでこんがり焼けば完成だよ!」
「ああっ、穴から具材が溢れ出してしまった……なぜこんなことに……」
「だから言ったじゃないですか!」
一つ多少不格好にはなったものの、完成した物を焼いていく。
たっぷりの油で焼き始めると、弾けるような音と、先ほどの香ばしい匂いが部屋に充満した。
レギンはそれを興味深そうに眺めている。
「ずいぶんたっぷりと油を使うのだな。この油は村で作られたものなのか?」
「うちの村は豆をたくさん育てていますから。豆油は安く手に入るんです。おばあちゃんから聞いた話だと、この料理も油を絞ったあとの豆カスを美味しく食べるために作られたものらしいですよ」
料理にも生まれた歴史があるものなのだと、レギンは感心した。
たっぷりの豆油で揚げるように焼かれたポッダーウェイルが、テーブルへ並べられ湯気をたたせる。
「うむ、これだ! この匂いこそ求めていたものだ。では頂くとしよう!」
「いただきます!」
ナイフを入れると、サクッという小気味よい音がなり。
中からは蒸気とともにトロリとした具材の旨みがソースとなって溢れる。
たまらずにそれを大きく切り分けて口へと運び込んだ。
「────美味いッ! なんだこれは、なぜ国都に広まっていないのだ!?」
「ほ、本当に美味しいですね! これはいくらでもいけちゃいますよ!」
幾重にも折り重なった生地は、外がサクサクとパイのように軽く、内側はもっちりとして食感のグラデーションを生み出している。
すり潰された豆の素朴な味と、溶け出した背脂が混ざり合い、ほどよい塩加減のソースへと変貌していた。
細かく刻まれた野菜、鶏皮、チーズ、ごちゃ混ぜに詰め込まれた具材も不思議と喧嘩せず、見事な調和を保っている。
朝食と夕食はバルの家で、昼食は村の食堂で済ませていたレギンは疑問を口にした。
「なぜ村の食堂ではこれを出さんのだ? これほど美味いのであれば、村の名物になろうに!」
「そ、そんなに美味しいですか? これはあくまで家庭料理ですから、わざわざ食堂でお金を払って食べるものじゃないんですよ。誰も注文しないと思います」
「ならばなぜ、バルの家では出さなかったのだ? もっと早くに教えてほしかったぞ!」
「あー……メエンさんもタカトさんも、外から村にやってきた人だから、この料理を知らないのかもしれませんね。今度バルの家に遊びに行ったときにでも教えてあげようかな」
夢中で食べ進め、あっという間に平らげてしまった二人。
名残惜しそうに空になった皿を見つめていたレギンは、エマに向かって声をかけた。
「素晴らしい料理だった。……エマ殿、このポッダーウェイル、明日も我に作ってはくれぬだろうか?」
「……へ?」
エマと、彼女の両親は素っ頓狂な声を上げた。
エマの顔は耳まで真っ赤に染まっていき──
----------
レギンとムンゴは、午後の訓練へと向かっていた。
レギンは目に見えて落ち込んでおり、ムンゴが苦笑しながら慰めている。
「まさか……この村ではポッダーウェイルを作ってくれと言うのが、告白に等しい意味を持つとはな……」
「家ごとに具材の違う家庭料理って言ってましたもんね。毎日お前の家の味を食べさせてくれ、って意味になっちゃうんですね。知らなかったんですから仕方ありませんよ」
意図せずプロポーズをし、そしてフラれたレギン。
まさか休みに来た農村で、心に傷を負うことになるとは夢にも思ってなかった。
「ムンゴよ……我は出会って間もない女性に求婚を迫るような、そんな軽薄な男に見えるだろうか?」
「見えますね。というか、前に同じようなことしてフラれてましたよね」
「……これも、美男であるがゆえの悲しき宿命か……」
「人の話ちゃんと聞いてます?」




