閑話 ポラの小さな望み
いつも読んでいただきありがとうございます!
ここから数話ほど閑話が続きます。
主に村の日常を書こうと思っています。
本筋には関係ありませんが、楽しんでいただけると嬉しいです!
私はポラ・イフナイル、いまとても幸せです。
平和な村では、物取りに怯える必要もありません。
家族も村の人もみんな優しくて、誰かと食べ物を取り合うこともない。
いま着ている服はお下がりじゃなくて、私の物。
それに勉強だって教えてもらえます。
いまこれほど恵まれているのも、グルーお兄ちゃんと、迎え入れてくれた人達のおかげです。
これ以上何かを望めば、バチが当たるのではないか。
そう思ってしまうほど充実してます。
……けれど、いま私にはどうしても欲しいものが一つだけあります。
「能力はいつ手に入れたか、だって?」
父のタカトさん、母のメエンさん、そして弟のローゾ。
家族でかこむ楽しい夕食の時間、私の質問にお父さんは昔を懐かしむような顔をしました。
「俺は遊びの最中だったな。木の棒を振り回して騎士ごっこをしていたら、突然体が光って目覚めたんだ。……そのせいで、一緒に遊んでいた友達に大怪我したがな」
「私は庭で野良猫のお世話をしている時だったわ。どこからか話し声が聞こえると思ったら、猫や鳥達と喋れるようになっていたのよ」
「そう……なんですね……」
村のみなさんにも聞いてみましたが、特に願っていたわけでもなく手に入れたようでした。
それも私より小さな頃に……。
「あの……私は、もしかしたら能力がないのでしょうか?」
「なるほど……自分だけ能力に目覚めないのを気にしていたんだな?」
お父さんの言葉に、私は小さく首を動かして頷きます。
「言われてみれば、ポラちゃんくらいの年齢なら目覚めていてもおかしくないわよねえ。本人もこうして欲しがっているのに、どうして発現しないのかしら」
「……これは、あくまで俺の持論なんだがな」
お母さんが不思議そうに小首を傾げると、お父さんは私にチラリと目を向けて口を開きました。
「能力の発現には、本人の願いが必要なんじゃないかと思っている。ポラちゃんには、その願いが少し足りないんじゃないか」
「あら? でもポラちゃんは、こうして能力を欲しがっているじゃない?」
お母さんの疑問に、お父さんは優しげに私を見つめました。
「ポラちゃん。君はどうして能力が欲しいんだ? そんな焦る必要もないと思うんだが」
視線が私に集まり恥ずかしくなって、手元のスープを見つめながらぽつりと答えました。
「えっと……私に何か能力があれば、少しでも助けになれるんじゃないかって……」
「まあ! 本当にいい子ねえ、ポラちゃん」
お母さんに頭を撫でられて、私はますます顔が熱くなりました。
お父さんは、やっぱりなと小さく呟いて納得した様子です。
「それだよ。君の動機は、あくまで誰かのためだろう? 強くなりたいとか動物と話したいとか、そういう自分のための欲がないから、発現のきっかけがないんじゃないかな」
「自分のための……欲……」
こんなに満ち足りて幸せなのに、これ以上望むものなんてあるのでしょうか。
私には十分すぎるのに。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ。ポラちゃんが家事をお手伝いしてくれるだけで、私達は十分に助かっているわ。あなたが笑って暮らしてくれるだけでいいのよ」
「母さんの言う通りだ。能力を持つことで人生が大きく変わってしまうこともある。誰かのためではなく、自分がなにをしたいのかじっくり考えるといい」
「はい、そうしてみます!」
二人の言葉はあまりにも温かくて、私は笑顔で頷きました。
どうしてこの人達は、こんなに優しいんでしょう。
実の娘でもない私のことを、心の底から気遣ってくれているのが伝わってきて胸が温かくなります。
「僕はね! バル兄ちゃんみたいに強くなりたいんだ!」
それまで黙ってスープをすすっていたローゾが、元気よく声を上げました。
「そうか! やはりローゾも男だな。しかし父さんではなく、バルのようにか……」
「もう、ローゾまで冒険者になっちゃったら、お母さんは寂しくて泣いちゃうわよ……」
いつか世界を旅するんだと、屈託のない言葉で夢を語るローゾ。
大きな夢を少し羨ましく思いながら、その話を聞きました。
そんな楽しい夕食の時間も終わり、私は寝床に入って静かに未来のことを考えます。
(自分のために欲しいものかあ……)
力が強くなれば荷運びをもっと手伝える。
もし植物を成長させるような能力なら、農作物の実りが増えて村のみんなが喜んでくれる。
でもそれはお父さんの言う通り、やっぱり誰かのための願い。
考えれば考えるほど、自分の本当の望みが何なのか分からなくなってしまいます。
(こんなに幸せなのに、これ以上望むものなんて……あ、でもせめて……この幸せが壊れずに続いてくれたらいいな……)
そう心の中で祈りながら、私は眠りへ沈んでいく。
寝息を立てる彼女の体が、月夜の中で淡く光を放ち始めたことには、誰も気がつくことはなかった。




