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ディグニティ・ストライド  作者: 果報寝待


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第85話 明日へ紡ぐ鍛錬


 扉を開けると、出来上がった料理の匂いと母さんの手伝いをしているポラとローゾが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、遅かったわね。……あら」


 俺らの姿を見た母さん達の顔がひきつる。

 それもそのはず、俺、グルー、レギン、ムンゴの四人は全身傷だらけの満身創痍まんしんそうい

 ラロにいたっては、杖に体重を預けなければ歩けないほどの疲労困憊ひろうこんぱいだ。

 

 あの後、戦いの興奮こうふんが冷めやらぬ父さんとカーンさんは、その勢いのまま俺達への訓練へと突入した。

 月明かりがたよりの闇の中、二人を同時に相手にするという地獄の特訓だ。

 痛みに体を慣らすためとして容赦ようしゃなく滅多打めったうちにされ、ラロは高速で動き回る二人を相手に能力の阻害そがい維持いじし続けさせられた。


「あぁ……冷えた体にスープがしみるな」

「温かさがこんなにもありがたいものだとは……」


 極寒ごっかんの中で酷使こくしされて芯まで冷え切った体に、母さんの温かい手料理が染み込んでいく。


「ずいぶんと過酷な訓練をしてきたみたいだねえ。私は残って正解だったよ」

「……カリーも少しは鍛えたらどうだ? 村に帰ってきてから、家から出ていないだろ」

 

 村に戻ってからのカリーは、食事の時以外は日向ぼっこをして寝ているだけだ。

 俺達が地獄を味わってきたというのに、目の前でぐうたらされると、どうしても恨めしくなってしまう。


「私が訓練したところで何にもなりゃしないよ。体を動かしたって、魔物を倒せるようになるわけじゃないからねえ」

「……太るぞカリー」

「バル坊! あんたまた余計なことを言ったね!」


 俺達が夕食と他愛たあいない会話を楽しんでいる中、父さんは珍しく俺達とは別の席だ。

 用意した少し離れたテーブルで、カーンさんと酒をわしている。


「まったく、最近の若者というものはいけませんな……すぐにこうを焦る。基礎すらまともに出来ていない身でありながら、すぐに奥義だの秘技だのを教わりたがる。私の時代であれば、破門はもんものでございますよ」

「まったくだな。意味を考えることそのものが修行だというのに、これは何の意味があるんだとか、もっと効率よくやれないのかだとか、何にでも理屈を求めたがる……」


 聞こえてくる話の内容は、どうやら若手に対する愚痴ぐちだ。


「バルよ……ひょっとしてあれは、我らのことを言っているのではないか?」

「……教える側同士、いろいろと溜まっていたものがあったんだろうな……」


 師達の会話に居心地の悪さを感じ、俺は目の前の美味い食事に集中することにした。



 --------



「『己力投写こりょくとうしゃ』!」


 地面を踏み込むと同時に、自分の体を前へ押し出す。

 そして構えた黒剣にも力を注ぎ込み、振り抜く。


 ガギンッ!!


 高速移動の重さを乗せて繰り出された一撃は、迎え撃った父さんの木剣を真っ二つに断ち切った。


「木剣では受け流しきれなかったか……今まで以上に威力が上がったな、バル」


 村での修行を始めて数日。

 移動と攻撃の両方に『己力投写こりょくとうしゃ』を同時発動する新技を、俺はようやく形にすることができていた。


「でも、まだまだ制御せいぎょが足りてないや。いまのだと反動が大きすぎる……」

「い、いま回復するね!」


 今まで以上の剣撃けんげきを生み出せるようにはなったが、移動の加速と剣を当てたさいの衝撃、二倍の反動が関節や筋肉に痛みを残していた。

 ラロがすぐに光で回復してくれる。


「ふむ……正面からぶつかるのではなく、すれ違いざまに振り抜く形でやるのがいいかもな。移動しながらの投擲も、いまのうちに練習しておいた方がいいだろう」

「なるほど……確かにそうだね。色々と試してみるよ」


 俺とラロが父さんから指導を受ける横では、カーンさんと残る三人が乱戦を繰り広げていた。


「我は『大剣振たいけんふるいし大蟻おおあり』!」

「遅い! それでは大剣の重さを活かせておりませんよ!」


 レギン必殺の剣だったが、カーンさんには軌道きどうを見切られて受け流されている。


残響傷ざんきょうしょう鉄拳てっけん』!」


 間髪入かんはついれずに放たれた、三つの緑色の巨拳。

 しかし一瞬にして斬り落とされ、すきを狙っていたグルーは逆にカーンさんの手に触れられてしまった。


「『褫奪盈満ちだつえいまん』! あなたは少々動きが雑すぎますね」


 カーンさんに一瞬で体温を奪われ、グルーはどさりと倒れた。


洞同体どうどうたい『鉄・て──」

「あなたは能力の発動が遅すぎる!」


 死角からカーンさんを狙ったムンゴだったが、能力を切り替えるよりも早く滅多打めったうちにされて倒れる。

 技量も年季ねんきも違いすぎる。

 三人で挑んでいるというのに歯が立っていない。

 俺達には、まだまだ乗り越えるべき課題が山積みだった。


「今日はここまでにしておくか。明日の昼には村をつんだろ? 疲れを残してはいけないからな」


 父さんは訓練を締めくくろうとしたが、俺は首を振った。


「いやもっと続けたいよ。次に戻ってこれるのは一年後なんだ。少しでも力をつけておきたいんだけど……だめかな?」

「いい心意気だぞバル。望み通り、立てなくなるまで徹底的に扱いてやる!」

「そ、そこまでは言ってな──」


 家に帰る頃には、俺は手を貸してもらわないと立てないほど扱かれた。 

 旅立ちの前日だというのに、自ら地獄に飛び込んだ軽率さを俺は後悔したのだった。

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