かいだん話
大学のサークルで、怖い話大会をしたときのことだ。夏休み。湿り気を帯びた夜の、ただの暇つぶしだった。
順番に、怪談が回ってくる。
心霊、都市伝説、出所の知れない噂話。
そんな手垢のついた話ばかりが続いていた。
「次、俺でいい?」
そう言って、あいつが口を開いた。
内容は、ある事件の話だった。
一人暮らしの部屋に侵入した犯人が、家主を殺し、遺体を隠す。けれど、警察はどこを探しても見つけられない。
「でもさ」
あいつは、暗がりの中で少しだけ笑った。
「見つかってないだけで、まだそこに“ある”んだよね」
誰かが、半分冗談みたいに聞いた。
「どこに?」
「とうだい下暗し」
少しだけ間があって、こう続けた。
「まあ、ただの怪談話だから」
それだけ言って、あいつは話を終えた。
みんなは適当に笑って、別の話題に移る。その夜のことも、私はそのまま忘れかけていた。
数日後。
テレビで、ある事件のニュースが流れた。行方不明だった家主の遺体が見つかったらしい。
アナウンサーが最後にこう付け加えた。
「捜査関係者によりますと、遺体は自宅内で発見されたとのことです」
ネット記事の片隅には、何度も踏みつけられたような痕があったとだけ書かれていた。
私は、あいつの言葉を思い出す。
それ以来、私は2階に上がるのが怖くなった。
【解説】
あいつが語った“かいだん話”は、ニュースで報じられた事件とあまりにも似すぎていました。「とうだい下暗し」という言葉は、遺体が隠されていた“場所そのもの” を指しています。




