第七話 謁見
真っ白な王座に、ガッシリとした男が座っている。
スーペルブス=アッロガンス=ヴァルメア。ヴァルメアの王、その人である。
私の従えた軍警が、謁見の許可を貰う。
「王よ、救世主様が、謁見したいと申しています」
「救世主だと? どんな者だ」
「神より賜りし白髪を持った、若い女性でございます」
「……よろしい。今一度、救世主とやらを見てやろう」
王は顎を持ち上げ、見下ろしている。
王宮衛兵が扉を開け、私達七人は王の間へと入った。
形式として、膝をついておく。
「……おい、お前、エイブラムじゃないか?」
近衛騎士の一人が、思わずと言った風に声を上げる。
「何? エイブラムだと? 元銀狼隊の?」
王も問いかける。
「左様にございます。おい、お前。そうだよな?」
「……そうだが」
「やっぱりな。 覚えているよな? 俺の事。元銀狼隊 隊長の、ガルドンだ」
「あぁ、覚えてる。久方ぶりだな、ガルドン殿」
「あぁ、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「もちろん。……ワシのことはいい。アリアの話を聞いてくれるか」
「あぁ。だが、救世主とはどういうことだ?」
私は立ち上がり、一歩前へ出た。
「私から話しましょう。私こそが芽詩アリア、救世主にございます」
「……ほう」
心臓が落ち着かない。だが、ここで王座を貰えば、建国ができる。理想の神の国まで、あと少しだ。そう思って奮い立たせた。
「……私は、神の声を聞きました」
「……」
「人々に罪の意識を与えよ、と。私は、戦争を行っていることに対するものだと解釈しました」
「……では、戦争をやめよと申すのか?」
少し荒っぽい声。王なだけに圧があり、私は体を固める。
息を吐き、リラックス。
「いえ、それだけではありません。私は神の国を作ります。戦争をなくします」
「なっ……お前、何を無礼なことを言う!? おい、エイブラム! なんてヤツを連れてきたんだ!!」
「時期に分かる。少し黙ってろ」
ガルドンが喚く。
少し荒れるな。
「……ですから、貴女方にも、罪の意識を与えましょう」
「無礼な!! お前達、捕らえろ!!」
王が叫ぶ。
捕まる寸前、私は詠唱する。
「“神よ、なぜ私を生み給うた”」
その声には王の間によく響き、一瞬の空白。
そして、阿鼻叫喚。
「うわああぁあ!?!」
三者三様に叫んでいる。叫び声が、私の胸を裂く。顔をしかめる。だけど、耐えないと。これが私の使命だから。
目は逸らさない。私は己の罪を確かに見ている。
「ぐぬ……っ」
王も呻いている。だが、その声は小さい。仮にも王ということか。
叫び声が落ち着いてきた頃。
「皆さん、戦争に対する罪の意識を持ちましたね。私は救世主であり、新たな国の女王となります。ですから、その王座、譲ってくださいますか?」
王は唸った。
「……我とて、罪の意識を持っていなかったわけではない。だがな、お前は勘違いをしている。戦争は我が仕掛けているわけではない。帝国から仕掛けられるのだ。我らが戦わねば、民は蹂躙されるのだ」
力を受けても、まだ屈しないか。流石王だ、並の精神力じゃない。
そして、事情は分かった。ならば……
「では、帝国すら私が従えましょう」
「……だが、王位は譲れんぞ」
「いえ、譲って頂きます。私が王にならなければ、理想の神の国が作れません」
「だがな!!」
王は声を荒らげる。
そこに、赤い光が走った。
「しつけぇぞオッサン!!! 主が譲れっつったんだから譲れ!!!」
レーザだ。
彼はすかさずダガーを抜き、隙をついて王の首をかき切った。
ガルドンすらも、反応できない速さで。
「えっ!?!」
私は驚きの声を上げる。
「主に楯突いてんじゃねぇー!!! オレは罪を償うんだ!!!」
「ちょっと待って、何してるの!?!」
レーザは真っ赤な目を光らせて、王を何度も刺す。
「やめろ!!!」
慌ててガルドンが捕え、王から離す。
レーザは暴れ続ける。
「お前、やめんか!!」
エイブラムも叱責する。
「主が王にならねぇと、オレは罪を償えねぇんだよ!!」
レーザは必死の様相だった。今にも泣きそうだ。
一体どうしちゃったんだ!?
私はレーザに駆け寄る。
「だからって殺したら、元も子もないでしょ!? レーザ!! 駄目だよ!!」
「あ、主……」
「……だが、アリア様の意見が通りやすくなったな。よくやった、レーザ」
「ジュリオス! そうだよなぁ!?」
「ジュリオスまで……!」
私は困惑で泣きそうだった。だって。
「こ、こんなの……ただの暴力じゃない……」
私はしとしとと涙を流す。
「主? 泣いてるのか?」
「こんな、こんなことしたいわけじゃなかったの……」
私は王の亡骸に手を添えた。
「……お前、何を甘えたことを言っている? 王になるとはそういうことだぞ」
ガルドンが、冷たい声を放つ。
「甘えだよ!! 綺麗事だよ!! それでも、私は、血を流したくなかったの!!」
「……帝国相手にはそうはいかないぞ。だが……」
ガルドンは私の肩に手を置く。
「皇帝を殺す罪、俺が引き受ける。俺も、お前の奇跡で罪を知ったのだ」
「……どうしても、皇帝は、殺さないといけないの?」
私は声を震わせる。
「国を乗っ取るには、仕方ないことだ」
「……」
私は沈黙した。
ジュリオスが、もう片方の肩に手を置く。
「やろう、アリア様。理想の国のために」
私は……頷いた。
「……分かった。でも、無駄な殺生はしないように」
最後に、一粒涙を零して、立ち上がる。
「ここに、神の国『アリアージュ』の建国を宣言します」
私ははっきりと、そう告げた。




