第十一話 アリアージュ広域連合
私達はサニエルの死体を持って帝都へ向かった。
検問に止められ、ジュリオスが対応する。
「皇帝サニエルは、罪の意識により我らが救世主の前で自害した。今日から帝国は、アリアージュのものとなる。通せ」
兵士は震え上がり、私達を通してくれた。
明らかに異国の馬車が堂々と帝都の真ん中を通るので、民達は恐れる目でそれを見つめる。
同じように、黄金宮に入る。
皇帝を失った黄金宮は、静まり返っていた。
「アリア様、ここが黄金の間です。あそこの玉座が、皇帝サニエルの座っていたもの。しかし今は、貴方の玉座です」
「……うん」
「あの悪趣味な黄金を削ぎ落とし、白亜の椅子としましょうか?」
「……そうだね。金とか、別に好きじゃないし」
ジュリオスが話しかけてくれるが、生憎あまり会話の気分ではなかった。
サニエルの首の、筋肉を突き刺す感覚。流れた血のべとりとした感触。胃の違和感。何より、人を救うはずの私が、人を殺めたという事実。それらがまだ残っていた。
帝国の将軍達を呼びつけ、私は玉座に座る。私の趣味に合わない金色が、人を殺して支配下に置いたという事実を際立たせていて、本当に気分が悪かった。
聖律卿、ジュリオスが話し出す。
「皇帝は罪に焼かれて死んだ。貴公らも同じ道を歩むか、あるいは救世主に忠誠を誓い、過去の罪を精算するか。よく考えて選べ」
冷酷な声が間に響く。
「従う者には赦しを、抗うものには神の裁きを与えよう」
私は声の震えを隠しながら、無心でそう告げた。
「……降伏します」
将軍の何人は降伏を宣言する。
そして、一人、剣を抜いた。
「俺は抗うぞ」
若い男だ。
その目は真剣そのもの。
私は目を細めて、手を向けた。
「では、神より裁きを。“神よ、なぜ私を生み給うた”」
「ぐっ、があぁああぁ!?!」
将軍達が畏怖の視線を向ける。
「……許して」
小さく呟いた声は、誰にも聞こえていないだろうか。角膜に張った涙は、見えていないだろうか。
私の中で、確かな罪の意識が膨らんでいた。
「アリアージュの属国となれば、その罪は償えるよ。どうする?」
「……降伏、します」
「うん、懸命な判断だ。本日より、帝国は、『アリアージュ広域連合』とする」
「はっ……」
こうして、帝国はアリアージュ広域連合となった。
まず、聖律卿ジュリオスより、掲示板などに公式文書を公開した。
「皇帝サニエルは神の前で自らの罪を認め、その命を捧げて悔い改めた。救世主アリア様は、その哀れな魂を救い、残された民を導くために立ち上がられた」
支配者が変わったことを示した。
次に、輔弼卿エイブラムより、帝国の莫大な軍資金を「復興資金」として開放し、戦争で荒れた村々に食糧と資材を届けた。
「これは救世主アリア様からの慈悲だ。有難く受け取れ」
「ありがとうございます!!」
アリアが君臨したことで、民はお腹いっぱい食べられ、温かい布団の中で眠れるようになった。
この活動は、アリアへの忠誠心を養った。
玉座は白に塗り替えるが、その時、私は職人に指示する。
「内側に、赤色を仕込んでくれ。……これは、私の罪の証だ」
光に当たると、微かに透ける赤。私は、自分の犯した罪を決して忘れたりはしない。……忘れようとした所で、あの感覚は消えはしないが。
皇宮に国民を集め、バルコニーから演説する。
「貴方達は、戦争をする国の国民という、罪人でした。だが、安心してほしい。救世主たる私、芽詩アリアの元で属国の民として働けば、その罪は償える。その罪は、私がこの白のマントの内に抱えましょう。そして、私の支配下に入ったからには、戦争に怯える必要はありません。平和を享受し、幸せに暮らしましょう」
私の背後から白い光が輝き、国民達は思わず跪いた。
花吹雪を散らす。太陽すらも温かく、神秘的にバルコニーを包んだ。
「最後に、国民の皆様へ、神から奇跡を賜ります。……“神よ、なぜ私を生み給うた”」
いつもの十分の一くらいの出力で、国民達に力を行使する。
国民達は己の罪を自覚し、涙を流した。
これをしてしてしまったのが、いけなかったのだろうか。罪の意識に溺れ、罪を償うことの中毒になってしまった民が現れたのだった……。




