第九話 建国祭
建国祭の準備が急ぎ行われ、議会の日から三日間、それは行われた。
王宮の備蓄を解放し、民にはパンと、豆と芋と豚肉のスープが振る舞われた。
白狼隊に警備をされながら、王都を凱旋する。
新しく誂えた白い服を着て、ダイヤモンドとプラチナで出来た王冠を被る。
白のマントをたなびかせると、眩しい陽光が反射した。
「救世主様〜!!」
歓喜の声が上がる。
エールの香りがどこからかして、温かい料理の香りも混じる。
驕りはない。
私は、これから救い続ける民達の姿を、しっかりと目に焼き付けた。
皆、笑顔で迎えてくれた。あぁ、エイブラムと会った日の私へ。私は人を笑顔にできたよ。今日はこれを日記に書くことにしよう。
花屋の前を通ると、おもむろに店主が近づいてくる。
「救世主様に、これを」
跪く彼から、そう言って渡されたのは、白い百合の花束だった。
「花言葉は、純潔、無垢、威厳でございます。救世主様にぴったりかと」
「……ありがとう。確かに受け取ったよ」
純潔だなんて、そんな。私は罪に塗れた人間だ。今だって、後悔を皆に植え付けたこと、王を殺したことの罪悪感は拭えない。……だが、この白い百合に恥じないように、生きたいと思った。
城に戻り、食事を取る。
「アリア殿の髪は美しいな。神から賜ったとか」
「……うん、そうなんだ。これは、私が救世主である証なんだよ」
この見た目は、皆から評判が良かった。初めて見た時はゾッと鳥肌を立てたものだが、見た目で救世主だと分かるというのは有難いことだった。
「貴重なワインも、美味しいね。どこ産だっけ?」
「湖畔の街、ルナリスの最上級品だ、アリア。
ちなみに、このワインの葡萄を育てる土壌を整えたのは、実は今回恩赦を受けた者たちの先祖らしい。まさに『罪が実りに変わる』ことを象徴するお酒だな」
エイブラムが教えてくれた。
「湖の清らかな水が、アリア様の清廉さを映し出しているようで、美しいですね」
「……そうだね、ジュリオス」
ルナリスか。月を反射する美しい湖の街だと、聞いたことがある。
ワインの味は上品で、飲むと心が落ち着く、繊細な味をしている。
聖律卿になったジュリオスは、前より上品になったな。存分にその優秀さを振るってほしい。
ワインは高級品なので、安物でも滅多に飲まないが、今日は飲むことができた。
「……私なんかが、飲んでていいのかな」
ポツリと、零れてしまった。
「……アリア殿。今回の建国で、貴方の罪も、精算されたのではないか?」
「……そんなことないよ。私は許す役目であって、許される役目じゃない」
「……そうか。だが、貴方はこれから、沢山の民を救うだろう。これは、その祝福なのだ。有難く飲めばいい」
「……そうだね。ありがとう、ガルドン」
私は重たい息を吐いて、もう一口、ワインを飲んだ。
少し、苦かった。
そこに、影狼隊のカイウスが、黒い髪を靡かせて来る。
「……報告です。帝国が、アリアージュの建国と前王の死を嗅ぎつけました。近々、『弔問』と称した使者が、大規模な兵を引き連れて国境を越える構えです」
「……そう。遂に、始まるんだね」
私は帝国のある方を見据えた。
「いかがなさいますか?」
「……私が、帝王と会談する。手紙を出そう」
「承知しました」
私は席を立つ。
「……宴も、終わりか」
ガルドンも立ち上がる。
「うん。でも、帝国さえ止めれば、平和が訪れるから。もう少しだよ」
「……そうだな。もうひと踏ん張りだ」
レーザと、ジュリオスも立ち上がる。
「オレらがついてるぜ!!」
「アリア様なら、この世界を変えられます」
二人の信じる目に、少し後ろめたさを感じながら。
「……行こう」
私達は、帝国へ向かった。




