6-2 閃き
× × ×
考える時間をください。
僕は大統領の誘いを断りきれなかった。
新政府傘下の新たな魔法学校を設立する。僕が校長を任される。
明らかに千載一遇の好機だ。
早くも僕の脳内には青写真が浮かんでいる。
まずは政府命令で新大陸各地の役所に『満腹にならない人』を探すように通達し、見つけ次第名簿に記載しておく。
次にそのうち年少者を十名ほど新学校に呼び寄せ、新学校の一期生とする。
彼らには三年かけてじっくりと魔法を習得させる。そして卒業した段階で教師を任せる。
後は同じことの繰り返しだ。
教師を増やし、生徒を呼び寄せ、教師を増やし、生徒を呼び寄せ……新大陸全体で魔法使いを拡大再生産する。
名簿の名前が尽きた頃には幾千の魔法使いが、僕の下につくことになる。これはとんでもないことだ。例の「破滅」をもたらす未来に対する抑止力になりうる。
基本的な学校の運営方針は先達の模倣で構わない。
魔法書はジーナの口述を元に印刷すればいい。
魔法使いに食べさせる穀物は新政府に用意させる。
紛争の収束に伴い、今後新大陸の開拓が順調に進んでいけば、現状はともかく将来的に供給不足に陥ることは無いはずだ。
問題は育て上げた魔法使いの統制だろう。
理事長ですら卒業生に対する学費の取り立てに苦労している。
僕の実力では数千人の魔法使いを従わせるに能わない。
もしも新学校計画が頓挫し、全世界に素行不良の超能力者をまき散らす結果に終わったなら。
世界各地で魔法使いが大暴れしたら。
製造責任者の僕はとんだ大犯罪者となってしまう。
そうならないためにはどうすればいいだろう。
愛国心に訴える?
古式ゆかしく家族を人質を取る?
いっそのこと。非暴力的な魔法だけ取り扱うことにしようか。
そもそも官立学校なのだから卒業生は当然新政府の要請に応えることが求められる。大統領が何のために魔法使いを欲しがっているのか、そこに答えがある。
荒れ地を改良するつもりならスコップを持った人足のほうが役に立つ。
岩山を破壊するなら火薬を積んだほうが効率が良い。
魔法使いでなければ出来ないことは実のところ限られている。
例えば、空を飛ぶとか。
僕は閃いてしまった。
早速、カミンスキ商会の長に話を持ちかけてみる。
「シルヴィアさん。新しい魔法学校の件だけど」
「なになにウチらも一枚噛んでくれって? しょうがないなあ~」
「飛行魔法だけ教えるのはどうかな?」
「なにそれつまんねぇ~」
白髪の眠り姫はわざとらしく舌を出してくる。
不評だった。
僕自身、魔法教育を受けた者として彼女の気持ちはわからないでもない。たしかにつまらない。
「そりゃウチだって仕事で飛び回ってるけどさ~。飛ぶだけなら魔法使いとは呼べないじゃん」
「国家飛空士学校に改称するか」
「だっせぇ~」
彼女は天を仰いでから、僕の右肩あたりに目を向ける。
「絶対無いわ〜。ジーナちゃんも言ってやってよ……って居ないんだった」
「きっと大西洋の向こうでクシャミしてるよ」
「なんで居ないの? まさか伯爵ぅ。振られちゃった~?」
「色々あったもんで」
僕は言葉を濁しておく。
付き合いの長い双子たちには伝えても構わないのだが。やはり産まれてから話したほうが予後が良いだろう。
この世界では出産時の死亡率がまだまだ高い。子供の頃、叔母の赤子が死産したこともあった。
縁起でもない話だな。本題に戻ろう。
「それで国家飛空士学校の件なんだけど……」
「マジでそんな名前にするわけ? ファニョン=カミンスキ記念魔法学校にしない?」
「しない。たしかに君の言うとおり面白くない学校だと思う。ただ新政府が求める人材は間違いなく陸上の飛行要員、海上の風使い要員だからね」
「そんなの国家忠犬養成所じゃん」
平然と酷いことを言われてしまった。
おまけに事実だから訂正できない。ぶっちゃけ公立学校なんぞ多かれ少なかれそんなものだ。
「とにかく科目を絞り込んで短期間で即戦力を輩出する。その上でもっと魔法を学びたい生徒は、僕たちの母校に進学させたら良い。これなら選択肢があって良い感じだろ?」
「う~ん。そのへんも含めてさぁ、今度理事長と相談してみる?」
「スジは通したほうがよろしいでしょうな」
シルヴィアさんに同調する形で、奥の事務所で帳簿を整理していた事務長のマリナート氏が呟いた。
我らが眠り姫も商売人の血筋だが、あちらは長らく豪商の下で仕事をこなしてきた番頭だ。言葉の重みが違う。
全く。忠言耳に逆らうとは良く言ったものだ。
出来ることなら、商売敵になるかもしれない状況で理事長と顔を合わせたくないのだが。
僕は「破滅」の情報収集を兼ねて、一年ぶりに母校に戻ることにした。
次回は6/24(水)に公開します。




