4-3 ニューバストン独立戦争
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切欠は搾取だった。
奥州大陸の戦争が泥沼化する中、資金繰りに困った各国政府は植民地の住民に新たな税を課した。
海の王者・バストン連合王国も例外ではなかった。
連合王国は長年にわたり新大陸の植民地に『人頭税』を課してきた。
開拓地では本国同様の詳細な税務調査など望めない。よって単純な税制が好ましいとされた。
その点で人頭税は単純明快。全労働者が同じ金額を納税する仕組みである。収入の有無を問わず強制的に徴収される。
金持ちも。地主も。貧乏人も。平等にお金を取られた。
植民地の住民たちは大変な苦労を強いられた。
人頭税の金額は年々上がり続けた。自営農家ですら収入の大半を奪われた。父祖が手に入れた土地を売り払い、他人の土地で耕作を行う『小作人』に没落する者が続出した(対照的に金持ちは多くの土地と小作人を手に入れた)。
加えて開拓地の村落では物々交換が主流だった。農民は毎年都市部まで出向き、収穫物・私財を貨幣に換金する必要に迫られた。
次第に共同体が納税を代行する村請制度が発達したが、村長を務める大地主が配下の小作人の収穫物を法外な安値で強制的に買い取るなど、腐敗と搾取の温床となった。
要するに。庶民は働いても奪われるばかりの仕組みだった。
植民地政府は徴収した人頭税を本国に送金した。
そして税金を払えなかった貧乏人・浮浪者の類を内陸部の荒地に送り込み、新たな開拓地建設に従事させた。
都市部の市場で売られた収穫物(小麦・トマト・トウモロコシなど)は本国の商人たちが安値で買い取った。それらは奥州の国際市場で売り捌かれた。
仮想敵国より国力で劣る連合王国にとって、新大陸の植民地は貴重な収入源だった。
そんな連合王国と植民地に、戦争の火花が降りかかった。
一七八七年のライム市民革命に端を発する争乱は拡大の一途を辿り、現時点(一七九三年)ではもはや世界大戦に近い状況となっていた。
連合王国は莫大な戦費を植民地住民に対する「更なる搾取」で補おうとした。
二年前。
ニューバストン植民地の勅任総督・ウェーカー子爵は全住民に『呼吸税』の新設を布告した。
従来の人頭税では納税対象者に含まれなかった子供・老人にも一定額の納税を求める制度だった。
一年前。
ニューバストン植民地の勅任総督・ノースチン男爵は全住民に『排泄税』の新設を布告した。
一日二万回の肺呼吸に対して納税を課した『呼吸税』に対し、本国の貴族院から「犬猫は脱税していいのか?」との指摘が入ったことで考案された新税だった。住宅内での全排泄行為に税金がかけられた。
今年の春。
ニューバストン植民地の勅任総督・アンジー王女は全住民に『食事税』『飲酒税』『印紙税』『祈祷税』『歩行税』『結婚税』『出産税』『葬式税』『茶税』『揚げ物税』の新設を布告した。
反乱が始まった。
新大陸の東海岸で民兵隊の挙兵が相次いだ。
我慢の限界が訪れていた。あちこちの開拓地で植民地政府の代官が追い出された。悪徳地主が殺された。
住民たちは人頭税の支払いを拒み、都市部の市場に作物を流さなくなった。植民地の経済システムが崩壊した。
総督・アンジー王女はニューブルームホルフ市の総督府に籠城した。
彼女は本国に救援を求めた。
しかしながら。すでにバストン連合王国の主力部隊は奥州大陸に出払っていた。援軍を約束する郵便船は一向に来ない。
「うぬぬ。ならば。妾が愚民どもを成敗してくれようぞ!」
十七歳の王女は植民地政府の将兵をかき集め、三個連隊(約五千人)の軍勢で本拠地から打って出た。
意外にも彼女には将才があったらしい。
レイクステール市、ニューフィッシャリーズ市、ガーデニア州において反乱側の民兵隊を打ち負かした。
さらに一部の先住民部族を味方につける手管も見せた。
これに対し、反乱側の市民たちは内陸部で『独立評議会』を結成し、一応の組織体制を整えた。
そして彼らはライム革命政府に救援を求めた。
すぐ北にあるヌーベルライム植民地ではなく、ライム本国の革命家たちに「同志になりたい」と伺いを立てたらしい。
ライム革命政府はただちに援軍を約束した。だが、これは口約束でしかなかった。
当時のライム共和国に海外遠征の余力など残っていなかった。もはや革命政府は首都近郊を抑えるのみで、各地方は反乱勢力・外国勢力に占領されていた。外港が無ければ海に出ることすら適わないのである。
それでも。
ニューバストンの市民たちは後詰の到来を信じた。
彼らは悪徳王女を打ち倒すべく、絶望的な戦いに挑もうとしていた──。




