冒険者ギルドの受付(1)
受付二人以外は誰もいなかったギルドに、王城から騎士がやってくる。
「申し訳ございません。未だご依頼いただいた件の受注報告はございません」
二人が立ち上がり、依頼主の代理である騎士達に深々と一礼する。
「そうか。それは非常に残念だ」
そう言いつつもいつもであれはブツブツ文句を言って帰るのだが、今日に限って何故か騎士達が受付の中に入り込んでくる。
身の危険を感じつつある二人だが、一受付に対処できる事はなく……
「うっ、なんで私達がこんな……」
「リトア、大丈夫?」
彼女達の首の後ろには、赤い紋章が浮かんでいる。
いつぞやの怪しい商人の男……闇の奴隷商の一人を引き連れてきた騎士達によって、強制的に奴隷に落とされたのだ。
「こうでもしなければ、ギルドが機能しなくなっては困るのでな。恨むのであれば、ギルド総本部の無能ぶりを恨んでくれ」
この言葉だけを残して、騎士達と闇の奴隷商の男は去っていく。
危機的状況になれば混乱から赤の紋章をつけやすくなるために未だこのナスカ王国に残っていた男は、全く成果が出せなかった事から、今回の報酬を得てそろそろ潮時だと闇に紛れて出国するが、騎士達も馬鹿ではない。
このような悪逆非道の行いを触れ回られては困るので、おそらく逃げるだろうと予測して街道に張り込んでおり、その凶行によって男はその生涯を終える。
「これで報酬も手に入るとは、おいしい仕事だったな、ガンマ」
もう近衛騎士とは何なのか……契約によって縛られて逃げられない事もあり、すっかり騎士としての気概もなくなっているので、何でも有りの無法者になっている。
幸か不幸か一般人がほとんどいなくなっているナスカ王国なので、周囲に影響が少ない事だけが救いだろう。
いつSランク魔獣の脅威にさらされるかわからないまま生活しているナスカ王国の住民達だが、別の脅威が顕在化してしまう。
食料・資源不足だ。
商人は来ず、酪農・農業を行う人材も出国し、冒険者による資源の入手もなくなってしまったので国家存続の危機である以上、なりふり構わず再びギルドを通して支援の依頼を出す。
支援と言っても商人の護衛をして入国し、食料・資材販売を行ってもらうという依頼であり、訪れた商人にも報酬を出す事になっている。
今の所ナスカ王国に魔獣が襲い掛かったと言う情報は一切ないので、Sランク魔獣におびえていた商人達も今であれば割の良い取引ができると判断している者は少なくないのだが、護衛の立ち位置になる冒険者はそうではない。
商人とは異なって常に命の危険と直面して活動している冒険者であれば、最強Aランカー二人が同時に消息不明となっている以上、自分達が同じ状況になってしまっては絶対に逃げられないと知っているからだ。
その依頼は、ゼリア王国のギルドにも入っている。
「お待ちしておりました、クロイツ様。今日は少しお話がありますので、よろしいでしょうか?」
「んぁ?珍しいな。いいぞ」
ギルドの奥に案内されるクロイツ。
「よく来てくれた、クロイツ殿。私はこのゼリア帝国のギルドマスターをしているメバリアだ。ま、座ってくれないか」
そこに待っていたのはギルドマスターであり、左目を眼帯で隠している体格の良い女性。
クロイツを見る目はどことなく優しさに満ち溢れているのだが……どう見ても冒険者上がりだろうと言う雰囲気をさらけ出しており、眼帯のしていない方の眼光はその黒い瞳も相まって相当深く……心の奥底まで覗かれているようだ。
「実は、クロイツ殿の故郷だが、非常に良くない状態だ。“深淵の森”から出てきたSランク魔獣であるポイズナックに二人のAランカーが手も足も出ずに死亡したと報告を受けている。良く調べればハロルドは赤の紋章持ちで、その主はドレア王子。その王子が死亡したと言っているらしいので、こちらは確実だ。一方のミーシャは同時に戦闘してハロルドと共に行方不明であり、同じ末路である……らしい」
現役時代も相当慎重な人物であったのか、市中に出回っている噂だけを鵜呑みにするのではなく、ある程度の裏をとって確実な事と推測の域を出ない事を明確に区別している。
「で、そのギルド職員がどうやら赤の紋章持ちにされたようなのだ。これは私も信じられないが、ギルド総本部ではナスカ王国への職員派遣を見送っており、逆にナスカ王国側は職員がいなくなれば依頼の受発注ができない……まぁ、そう言う事だ。これはどう見てもギルド本部の怠慢による犠牲だが、誰も命が奪われる可能性の高い所に働きに行きたい人物はいないだろうから、やむを得ない部分もある」
未だに続く、ギルドマスターであるメバリアの話を黙って聞いているクロイツ。
「私も本部を悪く言う権利はない。行けと言われても行きたくない気持ちがあるからな。で、本題だ。今回ナスカ王国からは“深淵の森”の対処依頼の他に、住民が逃げ出して商人も来ない事から食料すらなくなっているらしく、販売してくれる商人の護衛依頼も来ている。商人は多少のリスクはあっても金と言う者もいるのだが、危険に対して敏感な冒険者は誰も護衛を受けてくれない」
「あ~、その護衛を受けろって事か?」
「その通りなのだが……」




