リサとリージョ(5)
クロイツに呼ばれたポチは立ち上がり、リージョの前に移動する。
『は~い。リサ様の弟弟子になるんだね?よろしく。僕はクロイツ様の眷属のポチ。このダンジョンの移動は僕が管理しているから、出たいときは声をかけてね。帰りは、入り口に入ったところで待ってくれれば、すぐここに送るから』
「……わ、わかった。ポチ殿。よろしく頼む。では、行ってきます、師匠!」
ダンジョン入り口付近でクロイツを監視している各国の間者、特に“爆炎のハロルド”が侵攻を諦めた為に、色々と諸問題を抱えて焦っているナスカ王国が多く配備している間者を無効化しに向かうリージョ。
「やはりこの術は転移。ダンジョン内の転移であれば……いや、師匠の力からすればダンジョンの一つや二つ支配していても不思議ではないな。フフフ、“白套のリサ”があれほどなのも納得だ。自分も気合を入れなくては。もうすぐですよ、父さん、母さん」
ダンジョン入り口に瞬時に送り届けられて外に出て、空を見ながら呟くリージョ。
リージョの呟きからもわかる通り、残念ながらクロイツの予想通りに闇の奴隷商に攫われた両親は逃亡しようとして死んだ事は既にリージョは掴んでおり、空を見ながらその両親に復讐の決意を伝えていたのだ。
ダンジョンを支配する手法や実績は聞いた事は一切ないが、今目の前で体感した事実からクロイツは確実にダンジョンを制御していると判断したリージョは、その呟きの後に周囲に隠れているつもりの有象無象を無効化する為に動き出す。
既に二つ名“無音のリージョ”が示す通り、気配遮断を行ってダンジョンの外に出ているリージョの存在に気が付いている間者はおらず、一部の者達は寛いでいるほどだ。
「今の私では、どの国家所属なのかまでは選別できませんね」
相変わらず小声で呟きつつも、この場にいる全ての者達を排除するべく動き出す。
方針としては師匠に言われた通りに無効化する程度で、ある程度の痛みを与えておけば良いだろうと判断した。
「12人ですか……そのどれもが未熟」
間者の中には食事をしている者すらいるので、このレベルであれば誰一人として取り逃がす事はないだろうと判断して入り口に近い場所にいる者から順番に軽く対処し、以降この付近でコソコソした行動が出来ないように指導する事にしたリージョ。
正直始末できない以上は相当力を抜く必要があり、その調整に最も神経を使わされていた。
「こ、これが……やはり師匠は凄い!」
クロイツとしては、ダンジョン出入口が血で汚れるのが嫌な事や間者とは言え本当に罪もない人もいるだろう事、そもそも監視の間者を邪魔だとも何とも思っていなかった。
弟子になれて喜んでいるのか、血気盛んなリージョを遊ばせておくのもどうかと思って始末しないように対処しろと命じただけであり、リージョとしては想定もしていなかった部分で苦戦して自分の未熟さを思い知らされる事になり、クロイツは全く意図していなかったのだが、より一層尊敬される事になっていた。
「力の強弱……なるほど。確かに場合によっては今後の戦いで超長期戦もあり得ますね。その時に常に全力では力が持たない。そこに気が付くように指導して頂けたのですね。流石は師匠!」
リージョもリサに似て、クロイツを良い方向にしか捉えられないようになりつつある。
そんな意図は全くなかったクロイツだが、ポチの配下である狼の魔獣がその様子を観察してポチを介してクロイツに報告しており、クロイツ側もリージョの実力を改めて確認する事が出来ていた。
「あいつ、リサを除けば他のAランカーの中で最強なんじゃねーの?一人戦闘狂?ねじがぶっ飛んでいる者がいるみてーだが、そいつにも恐らく無傷で勝てるだろうな」
『リージョ様の気配遮断が通じた時点で、誰も勝てないでしょ?クロイツ様。』
「そりゃそうだな!」
下層でクロイツとポチがのんびり話している時、ダンジョン入り口にはきれいに並んで正座させられている性別も年齢もまちまちの人々がいる。
「お前達、ここは知っての通りSランカーであるクロイツ様の所有物。用があるのであればこそこそせずに堂々と声をかけるように」
黒い外套にすっぽり覆われている“無音のリージョ”の事を知っている者はあまりいないのだが、相当な強者である事はわかる。
この後、特段クロイツが望んだわけではないのだが、ダンジョン近辺で間者を見る事はなくなっていた。




