リサとリージョ(3)
クロイツはダンジョンに入ると即ポチによって転移してもらうのだが、後を追って侵入できる強者は今のところは存在していない。
あのAランカーであり戦闘狂で有名な“爆炎のハロルド”でさえ、数分程度で撤退を余儀なくされているダンジョンと言う噂がギルド経由でナスカ王国からゼリア帝国にまで流れているおかげか、誰も侵入する事ができないのだ。
「は~ぁ♪いつまで続くの、この状況っと」
どうせ見張られていたり待ち伏せされたりするのであれば、殺意ビンビンの者や何かしらの秘密を暴いて弱みを握ろうとやっきになっている者ではなく、美人なお姉さんが良いのに!と思っているクロイツ。
「お待たせしました。いつものですよ。おまけで大盛にしています!」
そんな事を思っている最中に食事が運ばれてきたので、持ってきてくれた顔なじみになっている看板娘に声をかけてデートにでも誘うかと立ち上がろうとしたのだが、眉をひそめて浮かした腰を落とす。
クロイツの目の前に徐に座ったのは存在感が薄い黒い外套を羽織った男、“無音のリージョ”だ。
「せっかく俺が勇気を振り絞って看板娘に声をかけようとしたのに、邪魔をするとは良い度胸だな!」
これだけの事で少々殺気立つクロイツだが、原因は彼女欲しい病による発作であり、声をかけるのを意図的に邪魔されたと思っている。
「ま、待ってくれ。俺はあんたの弟子から紹介を受けたものだ。手紙を渡すように言われている」
そう言って、厚さは二センチになろうかという手紙らしき物を慌ててクロイツに差し出すリージョ。
「これが、手紙?いや、リサらしいっちゃリサらしいか」
本気の殺気ではないために、すぐにその気配は霧散して分厚い手紙らしき紙の束を受け取るクロイツの頬は自然と緩んでいる。
リサからの直筆の手紙なのだからうれしいに決まっているが、その姿を見ているリージョは二人の確かな絆を見た気がした。
書く方も書く方だが、読む方も読む方で、想像できない速度で読破したらしく、すぐに目の前に座っているリージョに視線を移したクロイツ。
「確かにリサからの手紙、受け取った。で?弟子になりてーって事らしいし、その理由も書いてあった。俺に言わせりゃー、今の強さで十分だと思うが?」
「そうは言っても、あいつらの情報が何一つ掴めない」
「今の俺でも掴めてねーぞ?敵が動かなけりゃー掴みようがねーからな」
事実を述べてはいるのだが、この会話だけであればクロイツはリージョの弟子入りを断ろうとしているように聞こえるし、事実リージョはそのように感じて少々不安になっている。
「お前の能力もわかっている。その力で調査ができない以上、それ以上の力を得ても新たな情報は得られねーぞ。向こうが動いていねーからな。違うか?」
初対面なのに能力すら明らかになっていると念を押されて気圧されたのか、言葉使いもおとなしくなってしまうリージョだが、諦めきれないと言う事はだれの目から見ても明らかだ。
リサからの手紙にはリージョは信頼に値すると書かれており、弟子を完全に信頼しているクロイツはその部分に疑いを持っていなかったのだが、どこまで本気か試したかったのだ。
「そ、それはその通りですが」
「……なぜそれ程力を望む?確かにあいつらを潰す目的は俺達と同じのようだが、それだけじゃなさそうだな。違うか?」
「……その通りです。実は……」
「待て。ここじゃあまずいのはいくら何でもわかるだろう?慌てるな。少しは落ち着け!Aランカーなんだからな」
「うっ、その通りです」
周囲の間者達の前で暴露する内容ではないので、共に食事をしてリサについての話を聞いた後に別の場所で具体的な話をする事にした二人。
「そうか、リサはそんなに大きくなっているのか!ハハハ、早く会いてーな。で、どれほどの強さになっている?」
「それは……悔しいですが、正直今の私では手も足も出ないほどですよ」
「フハハハハ、そうかそうか。相当強くなっているみてーじゃねーか。Sランク間近という噂は聞いちゃーいるが、実際に実力のあるやつがその目で見た感想を聞くと信憑性がグッと上がるからな。楽しみだ!」
「確かに昇格に必要な事は、残すは目に見えた実績のみでしょうから、そう遠くない未来にSランカーとして名乗りを上げるでしょうね」
師弟は似ると言うが正にその通りだと思いつつも、このまま自分が弟子になれれば、この二人、クロイツとリサのように隙間なく話し続けるようになるのだろうか……自分のキャラではないのだが……と思いつつ相槌を打っているリージョ。
「良し、んじゃー行くか」
ようやく話も食事も終わり、クロイツの後に続くリージョは門を普通に出て街道に向かうと、突然脇道にそれる。
追手を撒こうとしている事は理解できるが、自分達の実力であればそこまでせず共問題ないはずだと思いつつも、クロイツに続くリージョだ。




