リサとリージョ(2)
最後のAランカーである“無音のリージョ”が大好きな師匠を手放しで褒めたのだから、リサが興奮してしまうのも仕方がない。
「ありがとうございます!!そうなのですよ。その通りです。わかりますか!!流石ですね。師匠の素晴らしさをわかってしまいますか。フフフ、ですが、リージョさんが思っている以上に師匠はすごいのですよ!!何が凄いって……」
リージョがクロイツを褒めた瞬間に炸裂する“師匠大好き病”。
豹変したリサを見て、いつ息継ぎをしているのだろうかと思いつつも何も口を挟む隙を与えてもらえないリージョ。
さすがはAランカーだけあって態度には出さずに落ち着いてはいるのだが、もうかれこれ30分以上流れるように話し続けており、今なお勢いが増して話す速さも上がり続けているリサを見て、いいかげんに止めなくてはならないと決意し、思い切ってスッと手を挙げる。
「……で師匠は素晴らしくって……どうされました?質問ですか?」
ここでようやく流れが一旦切れたのでようやく本題を伝えられると思い、再び同じ状況に陥らないうちに一気に告げる。
「私にも、クロイツ様を紹介いただけないだろうか」
リージョはどうしても強くなりたいと思っている。
今の時点でほぼ最強のAランカーに上り詰めている存在だが、それでも闇の奴隷商の全貌は掴めていない。
結局力不足と言う結論になり、自分より見た目明らかに年下でありながらもAランク最強であるリサの師匠で、史上初のSランカーであるクロイツに教えを乞う事が最善と判断したのだ。
「えっと……私では決められませんので、ゼリア帝国に行かれては如何でしょうか?」
「確かに、クロイツ様はゼリア帝国のギルドで活動しているとの情報は得ているが……突然話しかけて対応してもらえるのだろうか」
「あっ、もちろん私からお手紙を書きます。フフフ、師匠に直接渡していただけるお手紙!気合が入りますね!」
師匠に手紙を書ける喜びが溢れているリサを見て、自分の事をすっかり忘れ去られているのではないかと不安になるリージョ。
「……その、申し訳ないが、私の紹介も書いていただけるとありがたいのだが」
「……も、もちろんです。大丈夫ですよ!」
この短い時間で明らかに忘れていたような態度だが、お願いする立場のリージョは不安そうな表情を浮かべる事しかできない。
「じゃあ、早速書くので少しだけ待っていてください!!フフフ、師匠、喜んでくれるかな?ロロの事も沢山書くね!」
「キャン、キャン!!」
いつの間にか現れた魔獣に驚く事よりも、リサの言葉を聞いて自分の事を忘れないかますます不安になるリージョだ。
「できました。きちんとリージョさんの事も書いてありますので、安心してくださいね!私はSランクになるまで師匠には会えませんから、よろしくお願いします!」
「それは……大変な道のりだろうが、頑張ってくれ。手紙は確かに預かった。では、志を共にする仲間よ、また会おう。紹介、感謝する!」
そう言いつつ闇に紛れて消えていくリージョ。
実はリサにはその姿はしっかりと見えていたりするのだが、余計な事は言わない。
「ふ~、流石はAランカー最強。俺の隠密も意味がない……か。逆にそこまで鍛えた師匠であればどこまで自分の力が伸ばせるのか楽しみだが……なぜこれほど分厚い手紙になるのか」
リージョの収納袋の中にしまっているのは、厚み二センチにもなろうかという程の手紙。
これだけの量を短時間で書き上げた事も驚きだが、この厚みの中に自分の事はどれだけ書かれているのか不安になっている。
正直かなりの不安を覚えつつも、最後のAランカーであるリージョはクロイツが住んでいるダンジョンのあるゼリア帝国に向かって移動する。
そのゼリア帝国では、時折フラっとギルドに現れて超高難易度の依頼をあっさりと解決するSランカーであるクロイツの存在は広く知れ渡っている。
彼はゼリア帝国の王族の誘いには一切乗らない孤高の存在であると同時に、そのクロイツを師と仰ぎ異常に慕っている弟子であり、間もなくSランカーとの呼び声が高いリサの事も併せて知れ渡っているので、誰もクロイツに声をかけようとする強者の女性は存在しなかった。
クロイツの願いとは異なり、身近にいる手の届かない憧れとして遠くから眺める……そんな存在になっていたのだ。
「ようこそお越しくださいました。いつのものですか?クロイツ様!」
「あぁ、頼むよ」
ギルドの依頼を受ける際にはゼリア帝国の城下町の食堂に必ず立ち寄るので、顔なじみになっている。
いつものメニューを頼んで食事をしているのだが、この場でも以前警告をしたのを忘れたのか、相変わらず周囲に王族や貴族達から差し向けられている間者達で溢れている。
当人達はばれていないと思って行動しているのだろうが、クロイツから見ればあきれるほど稚拙な対応だ。
この頃になると、徐々にクロイツが普段はダンジョン近くで目撃されていると認識されてしまっており、もう隠す事もないので訂正する事も否定する事もしていない。




