リサの対応
王命を伝えに来た騎士を一切相手にしない“白套のリサ”を見て、周囲の冒険者はここぞとばかりに騎士二人を小バカにする。
「ざまぁ見ろってんだ。さすがはAランカー最強!“白套のリサ”だぜ。痺れるねー。それに引き換え、無様な騎士様だ!」
「ハハハ、あんまり本当の事を言ってやるな。プルプル震えて泣きながらおうちに帰っちまうかもしれないぞ!」
自分達に対峙している冒険者達も笑い出しており、ここまでコケにされては流石に堪える事ができずに反射的に抜剣してしまうベータとガンマ。
目の前の冒険者二人も同じく反射的に少し距離をとって警戒しているが、当のリサは一切の変化が見られない。
「……はっ、そこのクズ二人よりも反応が悪いとは、御大層な名前だけか?Aランカーのリサ」
「この程度がAランカー。やはり冒険者はお里が知れるな。それに、その師匠であるS
ランカーのクロイツ。出来損ないで元とは言え我が国の王子だったが、それが師匠とは猶更程度が知れると言う……」
……カランカラン……
騎士二人の暴言が突然止まり、二人が手にしていた剣が二つに折れて床に落ちる音だけがギルドに響く。
「よく聞こえませんでしたね。もう一度お願いできますか?」
ゆらりと立ち上がるリサの目には怒りの炎が宿っており、リサを中心としてとてつもない殺気が漏れているので、分け隔てなく誰もが震える以外の動きができない。
特に殺気を重点的に向けられている騎士二人の近くにいる冒険者二人も、とばっちりではあるのだが、全身から汗を噴き出してガタガタ震えながらもこう思っている。
『こ、このバカ二人、特大の地雷を踏み抜きやがった!』
『俺達を巻き添えにするんじゃねーよ!』
冒険者を始めとして、リサに接した事がある人々なら誰しもが知っている事……リサに対してクロイツの話をしてしまうと、良い話だろうが悪い話だろうが非常に面倒くさくなると言う事実。
この場にいる冒険者達は悪い話をここまで面と向かってリサに対して伝えた所を見た事がないので、巻き添えを食って声すら出せずに震えている。
フードを被ったままなので表情は見えないが、ツカツカとベータとガンマの所に歩み寄って身長差から二人を見上げるリサ。
周囲の冒険者以上に殺気を受けている騎士二人は、恐怖だけに支配されてしまって何も考えられないし、無意識下でカチカチ歯を鳴らすだけで言葉を発する事もできない。
「どうしました?もう一度聞かせてください。私の大切な師匠の事。その口からもう一度!」
……バンッ……
騎士二人が死を受け入れざるを得ないと感じた時、再びギルドの扉が開く。
「おうおう、良いじゃねーか。流石は“白套のリサ”!どうだ?俺と一戦してみねーか?俺の事は知っているだろう?同じAランカーのハロルドだ」
「待て!ハロルド。こんな事になると思って来てみれば、予想通り過ぎて冒険者の質が心配になるな」
「本当よね。もう少しスマートに行動できないのかしら?」
現れたのはミーシャとハロルドを伴ったドレアであり、その音に反応したリサは扉方面に意識を向ける事で少しだけ冷静になる事ができたので、結果的に少々殺気は収まり、後から入ってきた三人以外は誰しもが腰を抜かしている。
「またあなたですか。私は専属にはなりませんよ?」
一度は王城で専属になるように言われているリサは、最初に釘を刺しておく。
「そうではない。そこのベータが伝えていただろう?王命によるポイズナックの討伐。まさかAランカーが逃げるわけはないよな?」
「……逃げるも何も、依頼を受ける謂れがありませんね。Aランカーが必要であれば、お抱えの二人を向かわせれば良いでしょう?師匠の故郷のために働こうという気は過去には少しありましたが、もうそんな気はありませんし。まぁ、これ以上あなたと話していると攻撃してしまいそうなので失礼しますね」
王族を攻撃するかもしれない……と平然と本人の前で言い放ちつつも、注文してしまった分のお金を机に置くと、リサはギルドから姿を消す。
「あなたが黙るなんて、珍しいのね?ハロルド」
普段であれば、後を追ってでも戦闘に持ち込むハロルドが何も言わなかった事に驚いているミーシャ。
「あ?あぁ、近くに来て漸くわかったぜ。アレは次元が違う。人のふりをした正真正銘のバケモンだ。お前もわかっているだろう?」
「……確かにそうね。本当の化け物よ」
多少自分より強い者であっても好んで戦闘するハロルドだが、命は惜しい。
別格の存在にケンカを売るほど馬鹿ではないので、リサの本当の実力の一端を肌で感じてしまい、戦闘を強要できなくなってしまったのだ。
「であれば、猶更この作戦は成功させなくてはならないだろうが!」
ようやく手に入れた懐刀が腑抜けた事を言っているので、何としてもリサを始末せんと作戦を実行すべくギルドから飛び出て強制的に任務に就かせようとするドレアだが、もう外にはリサの姿はどこにも見当たらなかった。




