クロイツのとある一日
赤い紋章のAランカーハロルドがナスカ王国を出国してから9日が経過していた頃、ダンジョン下層では……
「なぁ、ポチ。人生って不条理だよな?」
『突然どうしちゃったのですか?クロイツ様。何か変な物でも食べました?』
いつもの通り、下層の崖の上でポチと共にのんびりしているクロイツ。
「ば、バカ言うな。わかってねーな。良いか?人生って言うのはな……バランスがとれるようになっているんだよ。良い事をすれば、その分の徳が溜まっていつかは返って来るし、逆もまた然り」
ポチには少々難しい話なので必死であくびを噛み殺しながらも、形上は耳を傾けている。
「でな?俺は相当今迄に善行を行って来たわけだ。見返りを求めている訳じゃねーけどさ?一人。そう、一人で良いから彼女になってくれても良さそうな話だろ?あいつ等、無駄に仲良くしやがって。チクショウ。良しっ、こうなったら村中片っ端から声をかけてやろうか?」
魔獣であるポチには全く分からない話であり感情なので、どのように返事をすれば良いのかも分からずに非常に悩んでいる。
結局、あまりこの話題は好ましくなさそうだと言う事しか分からないので、絶対に食いつく話題に脈絡も無しに誘導する。
『クロイツ様。リサ様、元気かな?』
「ん?あぁ、そうだな。って、狼から何か聞いてねーの?」
遠く離れていても意思疎通が出来る様にと、クロイツとリサにはポチが準備した狼の魔獣であるロロを付き従えるようにしていたが、複雑な内容は伝える事が出来ずにいた。
結局ポチがリサについているロロに確認し、断片的な情報をクロイツに伝える事になっていたので、当初の目的である互いの意思疎通は達成できていない。
「まっ、あいつももうすぐSランカーに成れそうだからな。楽しみだ。どれだけ強くなったか、立派になったか、しっかりと見て褒めてやらねーとな」
クロイツがリサの話をする時には本当に優しい表情になるので、その顔を見ているだけでとても幸せな気持ちになれるポチ。
「もう別れてからどのくらいになるんだっけ?」
『四年は経っているよ、クロイツ様!』
クロイツも18歳になり立派な青年……今はダラダラしているが、一応立派な青年になっており、リサも14歳。
「そうか。リサは14歳か。どれ程変わったか……きっとリサはこの村を見て驚くんじゃねーか?」
『随分と大きくなったので、きっと喜んでくれると思うよ!僕もリサ様に早く会いたいな~!!』
微笑みながら話してくれているクロイツを嬉しそうに見ているポチだが、実は一階層に侵入者が来ている事はダンジョンマスターである為にわかっている。
わかってはいるのだが、ポチにとってみれば他と比べれば少々強い男が来た程度の事なので、今幸せそうにリサの話をしているクロイツに話す事はないと判断していた。
3階層に進む事が出来れば、軽く話を振る程度で十分だろうと言う認識だ。
「ハハハハハ、良いぜ!こんな場所があったなんて、最高だ!」
二つ名“爆炎のハロルド”の名が示す通りに爆炎をまき散らしながら全力で進んでおり、入った直後から出て来る魔獣の強さに歓喜しているハロルドの言葉とは裏腹に戦局は極めて良くない。
1階層に侵入して数分も経過していないが、結構なダメージを負っている程だ。
「こいつは、チッ、今の俺じゃあ無理だな」
戦闘狂と言われているが、引き際は知っているハロルド。
そうでなくてはAランカーになるまで生き残れてはいないのだが、キッチリと実力と脅威を冷静に判断してあっさりと撤退する。
『なぁ~んだ』
「ん?なんだポチ?どうかしたか?」
長くこのダンジョンを管理しているポチだが、クロイツを除くと歴代の数少ない侵入者の中でも今回の侵入者であるハロルドは結構強かったので少しだけ期待していたのに、大きく裏切られた為、思わず声が出てしまった。
『何でもないよ、クロイツ様!』
慌てて取り繕っている間にハロルドが何とかダンジョンを脱出した事だけは感知したポチは、取り繕うようにフワフワの尻尾で未だにリサの事を嬉しそうに語っているクロイツの体を撫でている。
「あ~、早くSランカーになったリサを褒めてやりてーな!」
『僕も~!!』
今日もダンジョンは平和だ。




