ドレアの動きとナスカ王国の王族
Aランカーである“爆炎のハロルド”が、Sランカーのクロイツと戦闘を行うために出国した後の王城。
「これであいつを始末出来れば良いのだが」
「“白套のリサ”の実力は本物ですが、その師匠であるクロイツのSランクが妥当かは分かりませんわ。あの戦闘狂が倒せれば良いですし、倒せなければそれなりの準備をすれば宜しいのでは?」
遠距離にいようが、奴隷が死亡すれば主はその事実は分かる。
契約が強制的に切れるからだ。
その機能を使って状況を把握する事で、場合によっては戦力を整えておけば良いとアドバイスするミーシャ。
「……その通りだな。ま、焦らず行くさ。そもそもハロルドを俺が支配しているとはわかり様がないからな。クロイツの目が此方に向く事はないだろう。その間に……しっかりと準備してやるさ」
ようやく手に入れた赤の紋章を持つ男がAランカーであり、さっさとクロイツと戦いに向かってしまうと言う急展開を受けて少々疲れたドレアは、ミーシャと共に食事をしてこの日の活動を終える。
翌日、改めて戦力を集めるために配下の騎士に奴隷購入の指示を出すのだが、やはり赤の紋章は見つからずに……ハロルドを購入した怪しい男と直接交渉する事になった。
騎士の護衛と共にミーシャも引き連れて、ボロボロの小屋の中に入って行くドレア。
「ようこそお越しくださいました。次期国王陛下ドレア様」
「……フン。わかっているではないか。そこまで知っているのであれば、俺の希望もわかっているな?」
持ち上げられて悪い気がしないドレアだが、甘く見せる事はなく交渉を始める。
「当然でございます……と言いたい所なのですが、まさかこれほど早くお越しいただけるとは思っておらず、良い商品が準備できておりません。何分品薄でございまして」
結局この日は無駄足になってしまうのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃の王城では……
「本当に予想通り。あの兄がSランカーにここまで早く至るとは思っていなかったけれど、早めに追い出しておいて正解ですね。残るは、頭がスカスカの兄。こっちであれば私の思い通りに好きに動かせるもの。そうでしょう?」
「その通りです」
抑揚のない声の第一王女……クロイツの妹であり、既に国王のように振舞って行動しているドレアの双子の妹であるリーナ・ナスカの問いかけに答えているのは、正式には未だ国王でありリーナの父であるヨド・ナスカだ。
その瞳に力はなく、横に座っている母であるレべリア・ナスカも同じような表情だ。
「そろそろ兄に王位を移譲する事にしましょうか?多少バカで使い辛いけれど、あの程度であればクロイツに比べれば制御するのは容易いですからね」
「わかりました」
「その後二人には隠居して頂きますが、あなた方の価値はもう何もないので、“深淵の森”で行方不明になっていただきますね」
「「はい」」
死ぬ為に実の娘から“深淵の森”に行けと言われているのだが、二人は拒否する様子を一切見せないのには理由がある。
「フフフ、このスキルに気が付いたときは愕然としましたが、今思えば相当使えるスキルですね。あなた方二人が作った組織も全て移譲して頂きます。そもそも最近は私が組織を動かしていますから、運営は全く問題ありません。安心してくださいね」
リーナが持つスキルの名前は<傀儡>で、対象に長きにわたって使用し続ける事でその人物を自由自在に動かせる恐ろしいスキルだが、それに加えて<鑑定>も持っている。
このナスカ王国では女性は国王になる事は出来ない為にリーナは王位継承権を持っていなかったのだが、やはり王族として野心はあるので、次期国王とされていたクロイツの出来は良さそうに見えなかった事から何の気なしにクロイツを鑑定した結果、何も情報を得られなかった。
その為に当時からクロイツを脅威とみなしていた。
そこから長い時間をかけて両親を完全に傀儡の支配下とし、その間にクロイツを追い出すように傀儡を使用しつつもドレアに命じ、家族だけではなく騎士や民からの評判を落として目論見通りにクロイツを追い出した。
いよいよドレアを国王として就任させて裏から支配しようと動き始めようとしたのだが、やはり気になるのは長兄であり脅威と認識していたクロイツの存在。
史上初のSランカーとなり、その名を轟かせている。
「やはりあの時追い出して正解だったわね。でも脅威である事は変わらない。私の立ち位置は秘匿しなくてはなりませんね」
国王になるドレアを裏から操り、両親がひた隠しにしていた組織の全てを乗っ取った事を……
「わかりましたね?クロイツの情報、リサの情報は安全と思われる範囲で情報収集し、逐一私に報告しなさい」
「はっ」
そこには、闇の奴隷商幹部であるリベラ王国ギルド受付のミューテルがやり取りをしていたのと同じ、黒尽くめの男が存在していた。




