ドレアの動き(3)
王城に帰れば新たにドレアの血をハロルドの赤の紋章に垂らして契約の上書を行う事になるのだが、現在の主が許可の元血液を付着させてこの行為を行えば、新たなる主が認定される。
仮に主がいない場合は、血液を垂らした時点で当人が拒否しても主認定されてしまう悪魔の紋章なのだ。
「今後とも御贔屓にお願いします。御用がおありの時にはこの建屋に手紙でも置いて頂ければ、こちらからご連絡致します」
「……念のため聞くが、他の赤の紋章はいるのか?」
「いいえ、残念ながら。ですが、ハロルドだけで一騎当千。お客様は良いお買い物をなさりました。では、私はこれで失礼します」
思いがけない最高戦力が手に入ったドレアは王城で狂喜乱舞し、同格が赤の紋章落ちしているのを見てミーシャは今の自分の立ち位置が正しいのか、安全なのか、漠然とした不安を感じていた。
まさかのAランカーが赤の紋章を付けられているのだから……今まで最強を自負しており、ある意味人生を謳歌していたのだが、それでも奴隷になってしまう可能性がある事を目の当たりにしたのだ。
そんな動揺をよそに当の本人はさっぱりしたもので、紋章があろうが気に入らなければ自爆覚悟で道連れにすると平気で公言しているのだが、その話を聞いて殊更ドレアの機嫌は良くなる。
「良いぞ、その気概。気に入った。肩慣らしに、最近魔獣が鬱陶しくなってきている深淵の森で運動するか?」
「お?話が分かる奴だな。流石は王族だ。今から行っても良いのか?」
深淵の森と聞いても尻込みするどころか獰猛な笑みを浮かべているのだから、期待以上の戦力を手に入れられた事に喜ぶドレア。
王都方面に向かおうとしている魔獣を始末していた王城に住んでいた時代のクロイツのように、深淵の森に侵入して魔獣を狩り始める。
クロイツと違う所と言えば、見境なく攻撃して攻撃範囲から外れた魔獣は相手にしないと言う事で、元より王都を守るつもりは一切無い立ち振る舞いであるために一部の魔獣が王都に向かってしまっている。
少し前に鳥型のAランク魔獣をリサが仕留めており、今はBランク以下の魔獣しかいない“深淵の森”の浅い位置。
「く、ハ、ハロルド!!こっちの魔獣を始末しろ!!早く!」
少々離れた位置から見守っていた主であるドレアの命令には逆らえず、止む無く戻って数体始末するハロルド。
ミーシャとは異なり魔法による攻撃であり、遠距離攻撃の為か一切の負傷無く周辺の魔獣を始末する事が出来ている。
相手によっては魔法が効きにくい魔獣もいるので必ずしもミーシャよりも強いと言う事ではないが、今回の魔獣に対しては相当有利に戦闘を進める事が出来たと言う事だ。
「よ、良くやった。だが、次からはもう少し丁寧に頼むぞ!」
「心には留めておくぜ」
とても赤の紋章を持つ奴隷とは思えない態度だが、Aランカーの名にふさわしく相当強い事だけは間違いないので、思う所はあれども口にはしないドレア。
「こんなんじゃぁ、肩慣らしにもなりゃしない。期待外れも良い所だ。もっと奥に行っても良いか?」
主であるドレアが黙っているので本能の赴くままに欲望を口にするハロルドだが、当然その余波を食らって魔獣が王都に向かう可能性が高いので許可する事は出来ない。
「いや、ダメだ」
「けち臭せー。仕方がない。王城に戻ってミーシャと戦ってみるか?」
このまま放置してはいかれた戦闘狂によって本当に自らの戦力をダメにされかねないと思い、少し前に仕入れた情報を公開して矛先を変更させる。
「ハロルド。お前も知っているだろうが、俺には兄がいる。どれ程の汚い手段を使ったかは分からないが、Sランカーのクロイツだ。で、その弟子であるリサもこのナスカ王国で召し抱えてやろうと思ったが、断られた経緯がある。クロイツに至っては所在がつかめていなかったのだが、少し前に我が国に到着した冒険者が見たと言うのだ」
冒険者でなくとも相当有名になっている史上初のSランカーの名前を出すと、ドレアの予想通りに激しく食いつくハロルド。
「おいおい、そんなご馳走があったのかよ!どこにいるんだ?早速行こうぜ!!いやー俺はラッキーだ。赤の紋章を付けられた時は正直少々落ち込んだが、良い主人に恵まれたぜ!良し、行くぞ!!」
「落ち着けハロルド。目撃された場所はここからだと少々遠くてな。それも街道から外れた所にあるらしい。最低でも馬車で10日は必要だ」
「猶更早く行かないとならないぜ!」
もう何を言っても止められないと思い、渋々王城に戻って準備を始める事を許可する。
「悪いけど、私はパスよ」
何が楽しくて今の優雅な生活を放棄してまでSランカーに喧嘩を売るのか分からないミーシャの反応は予想通りであり、そもそも弟子のリサの強さを目の当たりにしているので、正直絶対に勝てないと踏んでおり、王城内でヌクヌクと過ごす事にしていた。
「良いぜ。獲物を横取りされる可能性が無くなるからな」
両Aランカーが納得した上で、主であるドレアを王城に残して戦闘狂だけがさっさと王城を後にする。




