ドレアの動き(2)
一般奴隷の中に戦闘奴隷も存在するが、戦闘で死亡または重症を負った場合は補償の対象になる。
一方の赤の紋章の奴隷はその保証対象に含まれないので、主となる側には非常に重宝されているのが実情だ。
あからさまに国家として奴隷を大量購入し始めているので、当然諸外国からは理由を問われる。
兄であるSランカーのクロイツと弟子であるAランカーのリサに対抗するためと素直に言っては、この大陸に存在している高ランクの魔獣に対する脅威に対応できる最大戦力二人を敵に回すと言っている事と同義であり、その戦力を失う事を良しとしない各国に対して素直に伝える事は不可能。
ドレアは、唯一疑われないであろう隣接している深淵の森の対処と言い張る。
この大陸では、最近クロイツがSランクの魔獣を討伐した事で幻のSランカーになった事は有名だ。
逆に言うとSランク魔獣の存在が確定した事で深淵の森にも同レベル以上の脅威となる魔獣が存在している可能性が高いと言う事であり、万全の対処をすると言えば他国からしてみれば納得できる事だったのだ。
実際に公になっていないSランク魔獣という存在も多数あり、命からがら逃げだした冒険者からのつたない情報で仮登録されてはいるのだが、いかんせん正確な情報がないので、仮の登録にとどめられている。
そんな事から、大陸中で有名な魔獣の巣窟と言われている“深淵の森”対策と言い張る事にした。
「ドレア様、とある奴隷商に赴いた際に赤の紋章を扱っていると言う者から接触がありました。その、正直怪しいので一旦保留としておりますが、後日とある場所で再度会う事になっております」
赤の紋章を扱っていると言う時点で違法集団の集まりだが、今のドレア達にしてみればいつクロイツやリサが攻めてくるかわからないので、一刻も早く赤の紋章を集めたかった。
あれだけ騎士を含めた王城の者達があからさまに赤の紋章を購入しようとすれば、当然闇の奴隷商にその情報が入る。
流石にナスカ国王との太いパイプがない組織のとある支部としては、現状クロイツやリサの影響で活動ができていない状態において、これはチャンスだと考える。
「良いだろう。舐められるのは厳禁だが、ある程度金銭的な譲歩は許す。直接交渉して赤の紋章で戦闘力が高い者を複数仕入れろ!」
「御意!」
ドレアから指示を受けた騎士は奴隷商に向かうのではなく、接触してきた男が指定した店に向かう。
「ここか。あからさまだな」
人通りが極めて少ない通りに面したボロボロの建屋を見て、苦い顔をする騎士。
どこをどう見ても犯罪者が屯しているように見える建屋だが、そもそも赤の紋章を扱っている時点で犯罪者である事から、騎士はドレアの命令を遂行するために気を取り直して中に入る。
「ようこそお越しくださいました。お待ちしておりましたよ。戦闘用の赤の紋章、とっておきがございます。ですが、相当お値段が張りますよ?」
「わかっている。だが、相応の戦力があるかは確認させてもらうぞ」
「当然ですね。ですが、恐らくその必要はないと思いますよ」
相当自信満々な男の後を付いて行く騎士は、とある部屋に入ると男の言っていた事に納得してしまう。
とても強制奴隷、赤の紋章を持つ者とは思えない程尊大な態度で椅子に座っているその男は、黒目黒髪で数々の魔道具らしき装飾品を付けている。
「なぜ、この男が……」
「当然そうなるでしょうね。まぁ、噂はご存じでしょうが、この男が戦闘する際には周囲の事を完全に無視して本来は味方であるはずの冒険者を平気で巻き添えにしますからね。相当多くの冒険者に恨まれていたみたいですよ。それで……酒に眠り薬を入れられて眠らされ、多数の冒険者による攻撃で弱り切った所に紋章を入れた……と言う訳です」
赤の紋章を持つ男を販売しようとしている闇の奴隷商の男が、目の前にいる尊大な態度の男についてこう説明した。
「チッ。俺も焼きが回ったぜ。まぁ良い。どうせ紋章があろうが、気に入らなければ自爆覚悟で道連れだ。で?アンタは騎士みたいだが、しっかり戦闘させてくれるのか?」
どう見ても好戦的なこの男は、例え奴隷の紋章があっても従順ではない事は明らかだが、噂通りであれば戦闘させておけば満足するらしいので騎士は購入する事に決めた。
「で、いくらだ?」
「流石お目が高い。ですが、ご存じの通りAランカー“爆炎のハロルド”ですから、こんな所になります」
何と赤の紋章を背負わされていたのは、リサやミーシャに並ぶAランカーであったのだ。
「くっ、足元を見やがって。わかった。持っていけ!」
どこかで情報が漏れていたのではないかと思う程に、ドレアから渡されていた金額ピッタリを要求してきた闇の奴隷商の男に対して支払いを済ませると、自らの手を少々切って血を垂らす。
「こちらです」
奴隷商の男の指示の通りに、Aランカー“爆炎のハロルド”の首筋に垂らして新たな主になる。




