リサの冒険(クロイツの故郷ナスカ王国へ6)
リサとしては、ギルドへの不信感は一先ず心のうちにしまっているので普通に対応するが、受付は内心相当怯えつつも魔獣買い取りの処理を行う。
「ありがとうございます。えっと、収納袋……で宜しいでしょうか?」
「そうですね。相当大きいので、ここでは出せません」
リサ程のレベルの冒険者であればかなり大容量の収納袋を持っているのが普通なので、外套の中、見えない位置に装備しているのだろうと判断していた受付。
「では、申し訳ありませんが移動して頂いても宜しいでしょうか?」
そう言いつつも普通に対応してくれているリサに安心して、今度は少々気楽に移動を始める受付。
到着したのは、建屋の中にある大きな部屋。
そこで、数人の男達の野太い声が聞こえている。
「おい、そこに置くんじゃねーよ!」
「わかってんよ。って、その素材はこっちだ、バカ!」
納品された魔獣の解体を行う場所で、大きな魔獣、訳アリの魔獣や素材は直接ここに納品される事になっている。
「こちらで出していただいても宜しいでしょうか?」
このシステムは何処のギルドでも同じである為にリサも慣れたもので、収納袋を取り出して魔獣を出す。
道中邪魔になる物、危険な物だけを適当にロロと共に仕留めてきたので数は数体しかないが、どれもかなりの大きさで、美味しいグロナスだけはこの場では出さない。
一部の危険な魔獣については、その魔獣が存在しているのが深淵の森とは気が付かずにその気配から自発的に向かって始末していたに過ぎない。
その中の一体、巨大な鳥型の魔獣に受付の視線は注がれる。
「流石はリサ様で……え?リサ様、コレ……はどちらで?」
「ここに出したのは、全てここに来るまでに仕留めた物ですよ。その鳥は、確かあっちの森で仕留めましたね」
何故受付がこれ程動揺しているか分からないリサは、コテンと首をかしげている。
少し前に脅し過ぎたのかとちょっとだけ反省したのだが、どうやら受付の表情が明るくなってきている事からそうではないらしいと思い始める。
「リサ様、ありがとうございます!!これで大勢の冒険者が救われます!ありがとうございます!」
ここで漸くこのギルドで話題になっていたAランクの魔獣が、この目の前の鳥型の魔獣であると言う事に考えが至るリサ。
「そこまで感謝して頂かなくとも結構です。依頼が出ていると分かって始末したわけではありませんし、師匠の故郷を守れたのは弟子としても嬉しいですので」
“白套のリサ”の師匠の故郷がここナスカ王国であると言っているのだが、そこには意識が向かず、只々最大の脅威が消え去ってくれた事に感激する受付。
リサも、自分がロゼッタに絡まれていた時の対応には思う所はあったが、冒険者達が命を懸けて師匠の故郷を守ろうとしていた所は正直嬉しかったので、直接感謝の意を示されて嫌な気持ちはしていない。
その結果はあっという間にギルド中に知れ渡り、何時も以上の喧騒がギルドを包む。
「やったぜ!これなら俺達だけで対処が可能だ!」
「あぁ、噂は伊達じゃねーな。流石は“白套のリサ”!」
未だ魔獣の納品場所にいるリサも身体能力からギルドからの声は良く聞こえているのだが、突然叫び声が聞こえると一瞬で静寂が訪れる。
「テメーら、うるせーぞ!!」
そう、ロロに良いようにやられて醜態を曝け出していたロゼッタが復活し、ギルドに入ってきたのだ。
相変わらずリサのいる解体場は喧騒に包まれているので、この場にいる者達はギルドの受付がある場所の状態は分からない。
そんな中、リサは黙って成り行きを見守っている……いや、聞いている。
再びロゼッタの愚行を見て見ぬふりをするのか、立ち上がるのか……を。
「……ロゼッタ。もう俺達はお前には屈しない。言いたい事は言わせてもらうぜ」
「そうだ。“白套のリサ”の活躍で命が助かる可能性が高くなったんだからな。これから長くここで生活できるんなら、今立ち上がらないと何時まで経ってもお前の好き勝手されるからな」
意図したわけではないのだが、リサが望んだとおりに冒険者達は理不尽に立ち向かう事にしたらしい。
「あん?以前俺に手も足も出なかった奴が、偉そうにしやがって。無様な姿を忘れたのか?纏めてぶっ潰すぞ!」
「確かに俺や他の連中も以前お前に負けた事がある。だが、この場にいるのは俺だけじゃない。これだけのメンバーを相手にできるのか?」
漸くこの場には自分の味方は一人もいないと理解したロゼッタは、慌ててギルドを走り去っていく。
その気配を察知したリサは、ロロにあるお願いをした。
意識を取り戻したロゼッタはギルドにいた冒険者を恫喝したが、その場にいた冒険者全員が立ち上がって反旗を翻したその後……このギルドだけではなく、どこを探してもロゼッタの姿を確認できた者は誰一人としていなかった。
その時にリサがロロにしたお願いとは、ロゼッタを強制的に深淵の森に連れて行き、自分が書いた手紙を渡す事だ。
その手紙にはこう書かれていた。
<散々その力を無駄に使っていたロゼッタ殿。今後は少しでもナスカ王国に貢献出来る様にサポートいたします。これを読んでいる頃、あなたは常にナスカ王国を苦しめている魔獣が発生している深淵の森にいるでしょう。そう深い場所ではないので、東に進めばロゼッタ殿程度の足でも一日ほどで森を出る事が出来ますよ。その間に、数体魔獣を倒せば無事に帰れます。健闘を祈ります!>
彼の実力で、深淵の森の中で一日の距離を無事に移動できるわけがなかったのだ……




