リサの冒険(クロイツの故郷ナスカ王国へ5)
「舐めやがって、死ねや!この犬っころ!!」
Bランカーらしく、一気にロロに肉薄して目にもとまらぬ連撃を繰り出すロゼッタだが、その連撃は全て空を切る。
「アハハハ、やっぱり相手にならないじゃないですか!口だけは立派なくせに、実力は……本当に残念ですね」
ロゼッタが、見た目可愛らしい犬に見える魔獣に対して全力で攻撃する姿を見て凍り付く、この場についてきた冒険者やギルド職員をよそに、想定通りと笑い出すリサ。
それもそのはず。
ロロは連撃を瞬時に避けると、ロゼッタの肩に乗って片足を上げて粗相をしたのだ。
まるでロゼッタは道端にある木と同じだと言わんばかりに。
正直、ロロが連撃を避ける所を視認できたのはリサ以外にはいない。
ロロがいた何もない場所にロゼッタが連撃を繰り出している所で、激しく動いているロゼッタの肩に悠々と現れ、片足を上げていても安定した状態で粗相をしたロロ。
その美しく放物線を描いた水分がロゼッタの目に入る。
「うわ、なんだ!クソ、目くらましの水魔法か?犬っころの分際で!ふざけやがって、舐めるなよ!」
視界を塞がれたままだが、大きくバックステップして距離をとれる所は流石Bランカーだが……
「アハハハ、水魔法!水魔法!!確かに水ですよね!!」
誰一人として笑えない状況の中、リサだけは涙を流しながらお腹を抱えて笑い転げている。
「テメー、何笑って……」
目を服でこすり視界を確保した所で、不用心にもリサの声が聞こえる方に振り向くロゼッタ。
そのおかげか漸く肩にロロが乗っており、片足を上げた状態で未だ放水している事に気が付いた。
「……このクソ犬!!!ぶっ殺してやるぁ~!!!!」
ロロを手でつかんで放り投げようとするのだが、その手がロロに届く前にかき消える。
最早周囲が見えない程怒り狂っているロゼッタ。
顔は真っ赤で、目はこれ以上ない程に血走っているままに対戦相手であるロロの姿を必死で探す。
「そこか!くたばれ!!」
「キャン!」
座って後ろ足で耳を搔いているロロを見て更に激昂するロゼッタだが、ロロの可愛らしい声と共に発せられた風魔法によって吹き飛ばされて無様に地面に大の字になり、ピクリとも動かなくなった。
あまりにもあっけない結末に、リサは予定通りとばかりに口を開き、他の者達は茫然としている。
「あ~、面白かった。これだけ笑ったのは師匠と別れてから初めてかしら?ちょっと悔しいですが、想像を超えてあまりにも面白かったから、ここで許してあげますね。また笑わせて下さい。行こう、ロロ!」
「キャン!」
誰しもがこのあり得ない惨劇に動けない状態ではあるのだが、リサとロロはさっさとこの広場から消える。
「あれが“白套のリサ”……とんでもない強さだ」
誰が呟いたか、その実力の一端を直接この至近距離で見させられ、Aランカー最強の噂は伊達ではないと誰しもが思い知った。
あの強い犬……実際は狼の魔獣だが、その魔獣を難なく従えているのだから、主であるリサの強さは推して知るべし。
「あの力が有れば、今回の魔獣騒ぎも対処して頂けるのではないですか?」
漸く我に返った受付が、自分の上司にこう告げていた。
「確かに、Aランカー最強は伊達ではない事は嫌と言う程思い知ったさ。ただ、我々に対する第一印象が悪くなりすぎている。果たして我らの依頼を“はいそうですか”と受けてくれるかどうか……」
いつの間にか冒険者も解散していたので受付達もギルドに戻ると、人はいるのにあり得ない程静かになっているギルド。
あれ程衝撃的な現場を見たせいかと思っていたのだが、そこに未だに“白套のリサ”がいる事に気が付いた受付。
動揺を表に出さないように気を付けながらもギルドマスターに連絡をしようとしたのだが……“白套のリサ”と目が合った挙句に近づいてくるのだから、硬い笑顔を浮かべたまま意を決っして対応する。
「い、如何致しましたでしょうか、リサ様」
「大した事じゃないですが、ここに来る途中でいくつかの魔獣を仕留めたので、買い取って頂きたいのです」
さっきのトラブル関連で話しかけてきたのではない事に安堵した受付は、ホッと胸をなでおろしていつも通りの対応を始める。




