リサの冒険(ドルドイとの出会い2)
この場に来るまで気配察知によって何人かの冒険者の気配を感じていたリサは、独り言のように他の冒険者の存在について狼の魔獣に呟きつつも、薬草を採り続けている。
自前の収納袋ではなく納品用の収納袋として別途ギルドより支給されているので、容量は非常に小さいが、そこにポイポイと収納している。
やがて収納袋に入らなくなったのでダンジョンから出るために上層階に向かうのだが、フードを被ったままの表情が少しだけ歪む。
いつも通りに気配察知を使って上層階に向かっていたのだが、とある単独で行動している冒険者が魔獣と戦闘しており、どう見ても敗戦濃厚である気配を感じたからだ。
師匠であれば一も二もなく助けるはず……と思い、一気にその場に向けて移動するリサ。
身体強化、環境適応、体術を駆使して瞬時に対象の冒険者がいる場所に到着すると、戦闘相手になっている魔獣の頭部を移動時の勢いのまま拳で粉砕する。
冒険者は必死で魔獣の魔法を耐え続けていたので魔法攻撃が無くなった途端に膝をついて荒い息をしており、既にこれ以上動く事が出来ずにこのまま死ぬ未来しか見えていなかった冒険者に対し、リサは優しく語り掛ける。
一応師匠が自分にしてくれたように、冒険者が不安にならないように優しく笑顔で接しているつもりだ。
「もう大丈夫ですよ。少し休んだら、私と共にダンジョンから抜けましょう」
「……助かった……って、おい!あんたまさか!!数年前にナスカ王国の深淵の森で、俺を助けてくれた兄ちゃんじゃねーか?」
「いいえ。私はナスカ王国には行ったことはありませんが……一応私は女ですし。どうしてそのように思ったのですか?」
「違うのか?いや、実はな、昔あんたみたいに真っ白な外套をすっぽりかぶった兄ちゃんに、同じような状況から助けて貰った事があるんだよ」
この話を聞いて、ピンとくるリサ。
流石は“師匠大好き病”を患っているだけはある。
「それは、きっと……いいえ、ほぼ間違いなく私の師匠ですね。ちょっとぶっきらぼうな話し方では無かったですか?」
「そうそう。そうなんだよ!俺がお礼を言い切る前に消えちまってな。その時倒した魔獣も全部俺にくれるって言うんだ。だが、不思議な兄ちゃんだったぜ?あれだけの強さなのに冒険者登録はしてねーと言うし、御伽噺の収納や転移魔法について興味津々な様子で聞いてくるしな」
安堵からか心に余裕が出たのか、思い出し笑いをしながら冒険者は語りだしていた。
助けた冒険者の話の中で最後の魔法の話を聞いた瞬間に、その人物は間違いなく師匠の事だと確信したリサは、頬が緩む。
一応フードを被っているので表情は冒険者の男には見えないが……
「そうか、あんたがそれ程の強さだって事は、あの兄ちゃんの弟子であれば頷けるな。師弟に揃って助けられちまった俺も立つ瀬がねーな」
「そんな事はお気になさらずに。もっと師匠について教えて下さい!さっ、これを飲んでから熱く語り合いましょう」
興奮気味のリサの勢いに負け、無条件で差し出されたハイポーションを一気に飲み干す冒険者。
「おいおい!これ…ポーションじゃねーな?ハイポーションか?そんなスゲー物…俺は何も返せねーよ」
自分の体が一気に楽になったので、明らかに上位のポーションである事を察知した冒険者ドルドイ。
「いえいえ。この程度、師匠のお話しを聞かせて頂けるのであれば何と言う事はありませんよ」
「本当かよ!?まぁ、もう飲んじまったしな。それに、申し訳ねーが俺には自由になる金がねーんだ。代わりにはなるかは分からねーが、兄ちゃんの事は喜んで話させてもらうぜ。と言っても、短い時間しか接触してねーから、期待外れかもしれないがな」
こうして復活したドルドイと共に上層に向かって歩く、リサと狼の魔獣。
相当名前が売れている“白套のリサ”だが、この冒険者ドルドイは何やら明確な目的があってダンジョンにかなりの頻度で潜っているらしく、周囲の噂には一切耳を貸していなかった。
その結果、目の前にリサが現れてもAランカーである“白套のリサ”だとは分からなかったのだ。
実際にドルドイがリサの外套を見てクロイツと勘違いしたのだが、クロイツがこの男を救出した際に羽織っていたのは外套と言う立派な物ではなく、洗濯直前のシーツであったと言う事実は闇の中に葬られている。
リサがドルドイの移動速度に合わせているので、互いに自己紹介も終わらせてクロイツの話で盛り上がりつつも漸く地上に到着する二人。
「今回は本当にすまなかったな。あ~、俺は今回の依頼は失敗だな」
「えっと、ドルドイさんは……失礼ですが、その……」
言い辛そうにしているリサを見て、Bランカーであるドルドイも何が言いたいのかは理解できている。
「はは、わかっているって。実力を越した獲物をなんで狙っているか……だろ?」
その問いに、申し訳なさそうにコクリと頷くリサ。




