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クロイツの新たな生活(1)

 既にある程度長い付き合いになっている、ギルド受付のミューテルから声を掛けられる。


 出会った当初とは異なり短かった金髪もポニーテールにしており、その金色の目で見つめながらクロイツの想いを言い当てる。


「あぁ、そんなトコだ」


 リサは、ダンジョンに挨拶に行くと同時に異国ではあるがこのギルドにも挨拶に来ていたらしく、既にこの国にはいない事はギルドの全員が知っている。


 冒険者の間でも噂になっている程だ。


「で、すまねーが、何か良い依頼はあるか?」


 普段であれば適当にボードから依頼を見繕うのだが、今のクロイツにはそこまでの気力は無かった。


 カスカスの気力を振り絞って依頼を受けようとしているのだ。


 漸くギルドに顔を出してくれたBランカーながら別格の強さを誇っているクロイツに出せる依頼を探すべく、溜まっていた依頼書を手元で確認するミューテル。


 かつてのクロイツであればミューテルの雰囲気に“彼女欲しい病”が発病して今すぐにでも食事に誘っていたのだろうが、そんな気力は一切ない。


「これなんていかがでしょうか?」


 ボケーっとミューテルの動きを見ていたクロイツは、やがて目の前に出された依頼書を何となく(・・・・)見る。


 クロイツの視界には適正ランクが大きく赤字で書かれており、どう見てもSランクと書かれているのが見える。


「おいおい、俺がボケーッとしているからドサクサに紛れてあり得ねー依頼を受けさせようって魂胆か?それとも、俺に早く死んでほしいのか?」


「何を言っているのですか?クロイツ様の実力はもう疑いようがりません。ですから、是非これをお願いします!少々塩漬けなのですよ!」


 グイグイ来る受付だが、適正ランクがSであれば塩漬けになるのは当然だ。

 この世界にSランカーはいないのだから……


 あまりの推しに、渋々内容を見るクロイツ。


 クロイツにとってみればどのような内容でも関係ないのだが、一応Sランクの依頼はどのような内容なのかを確認しておこうと思ったのだ。


 その内容は、未確認魔獣の調査と可能であれば始末と書かれている。


 目撃された場所は相当離れている場所で街道からも大きく外れており、それ故に人族に対して害はないだろうと、半ば強制的に安心材料を見つけて放置されていた。


「なんでこんな場所に目撃情報が有るんだよ。それに、どうせならリサと一緒の時に出してくれりゃー良いじゃねーか!」


 一人小声で文句を言うクロイツだが、依頼は受ける事にした。


「わかったよ。この依頼受けてやるぜ」


 報酬としても虹金貨5枚(5,000万円)とかなりの額が提示されているので、さぼっていた分を取り戻すべく受諾する。


「ありがとうございます、クロイツ様。では何時頃向かわれますか?」


「これから行く。俺は調査結果を報告する能力はねーから、始末する事になる。討伐証明はどの部分だ?」


 報告書を書く気力もなければ能力もないので、討伐一択のクロイツ。


「良く分からない魔獣なので何とも言えませんが、どこでも良いと思います。鑑定術で未確認の魔獣とわかれば問題ありませんので」


「そうか、わかった。行ってくる」


 ぶっきらぼうにそう告げるとギルドを出て城下町を後にし、目撃情報のあった方面に向かう。


 人目のあるうちは徒歩だが、やがて人気が無くなると街道から外れて転移する。


「あいつか……」


 依頼書に手書きで書かれていた姿にそっくりな魔獣を、転移直後のこの時点で補足しているクロイツ。


 昆虫の様な外観だが異常に大きく、一本の手は鎌の様な形で、もう一本の手はかなり堅そうだが針のような形をしている。


 昆虫の外観である為に手は二本だけではなく、複数本の手や足が存在する。


「うぇ、なんか気持ち悪りぃーな。近接は勘弁だぜ」


 膨大な魔力、異能を持っていたとしても得手不得手はある。


 いつもであれば収納魔法一択だが、あれ程巨大であれば収納魔法を使用するには近接する必要があるので、今回は収納魔法で攻撃する事は避ける事にした。


 徐に収納魔法から適当に購入していた短剣を取り出すと、短剣の周囲を魔力で覆い強化して、全力で投げつけた。


 クロイツのあり得ない能力で補強され、且つあり得ない速度と威力で投げられた短剣は、その存在を気取られない内に目標である昆虫型の魔獣の蟀谷に突き刺さり貫通する。


 奇麗に短剣の形の穴が開き、そこから少し経って緑の体液が噴き出すと同時に魔獣は大きな音を立てて、周囲の木をなぎ倒しながら崩れる。


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