リサとの別れ(2)
たとえそれが演技であったとしても、やはり可愛い弟子の旅立ちは明るいものにしたかったのだ。
「あっ、でも師匠!今日は、頭を撫でて下さい。師匠成分を注入する事で、これから私は何があっても頑張れますから!」
そう言って、そっとクロイツに抱き着くリサ。
「そうだな、可愛い弟子の旅立ちだ。その位はしてやるさ」
クロイツからはリサの表情は見えないし、敢えて気配察知を行っていない。
悲しそうな表情をしている場合、自分の決心が鈍るかもしれないと思っていたからだ。
抱き着いているリサを優しく受け止め、右手で奇麗な黒髪をそっと優しく撫でてやる。
リサの抱き着く強さが増すが、クロイツにとってみれば痛みも感じなければ、骨が軋むような事はない。
当然、これはクロイツ限定で出来る事だ。
何時まで経っても離さないリサだが、漸く抱き着く力が弱くなった。
「師匠!本当に今までありがとうございました。決心が鈍るといけないので、師匠成分が満タンなうちにダンジョンに挨拶に行って、その足で旅に出ます!本当に、本当にありがとうございました。必ず近いうちにSランクになって逢いに行きますから!あ!そうだ!!えっと、できればそれまで独り身でいて頂けると嬉しいです。それじゃあ!」
言いたいだけ言うと、リサは全力で狼の魔獣を抱えてこの場から消えた。
「頑張れよ、リサ!でも、最後のは無用な心配だぜ?俺だって……今でもそうだが、好きで独り身でいる訳ねーじゃんか?誰も寄ってこねーんだよ!!来たと思ったらこの間みてーなロクデナシばかり。お前も一緒にいたから知っているだろ?最後の最後に傷を抉りやがって~!!流石は愛弟子だぜ!」
努めて明るく振舞うクロイツ。
優しい表情のままクロイツの視線は未だリサの去った方向に向いていた。
「キャンキャン」
足元には、ポチから渡されている小型の狼の魔獣。
まるで、寂しくないよ!とでも言いたげに優しく吠えている。
「フッ。大丈夫だよ。それと、リサも大丈夫。きっと直ぐに会えるぜ!」
漸くリサが去って行った方向から視線を外し、狼の魔獣を抱き上げて撫でているクロイツの頬には、涙が流れていた。
悩みに悩んでリサの為と思って決心したとは言え、今迄共にいた明るい存在が消えると喪失感が大きいクロイツ。
本来の家族には冷たくされ、弟妹に命を狙われていた環境から救ってくれたリサがいなくなったのだから、想像以上ダメージを受けている。
「まさか、俺にとってリサがこれ程の存在になっていたとはな。わかっちゃいたが、寂しいぜ」
ポチが代理で管理しているダンジョンの中にある、村が見下ろせる崖の上で、寝そべりながら呟くクロイツ。
『クロイツ様。そんなに寂しいなら、ずっとリサ様といれば良かったのに』
その後ろにはポチがいて、尻尾で優しくクロイツを撫でている。
「俺もそう思った事は何度もあるさ。だが、ずーっと俺だけと生活するんじゃ、本当にリサがしたい事が見つけられねーだろ?正直かなり寂しいが、リサの成長の為だ。師匠としてここは我慢しねーと仕方がねーよ」
ポチには今ひとつわからない感情だが、これ以上言っても仕方がない事だと割り切る。
しかしクロイツはここ数日村に行くわけでもなく、只々無気力にこの崖の上でボケーッとしているだけ。
村への物資供給は人化が出来る高位の魔獣が代行できるから良いものの、先立つ物が無くなってきている。
このダンジョンの鉱石を持ち込む事もアリだが、前回クロイツが試したところ、余りにも希少で価値が高すぎる事が判明してその後の調査を煙に巻くのに一苦労したので、実施できていない。
他の手段としては、この村と別階層のミュラ達が作っている作物を販売する方法もあるのだが、それでは新たに奴隷商から赤い紋章を持つ人を購入する金額には至らない。
結局はクロイツが冒険者稼業で稼ぐしかないのだが、あり得ない程の大きな損失感によって動けないでいた。
クロイツは前世について今一つ良く分からないが、この世界でつまはじきにされていた中でできた、信頼できる弟子であり妹。
繰り返しになるが、その弟子のためにした事とは言え、あの明るい上に可愛らしい存在が突然いなくなった事でここまでダメージを受けているのだ。
だが何時までもこのままでは弟子に笑われると思い、漸く重い腰を上げる。
「悪かったな、ポチ。ちょっくら依頼でも受けて来るぜ!」
『全然問題ないよ。行ってらっしゃい!』
1階層まで転移で送ってもらい、ダンジョンの外に出てトボトボとリベラ王国のギルドに向かう。
もう周囲の警戒も何もあったものではないが、この周囲には危険な魔獣はいなかったのが幸いして無事に転移した後、何とか王都に到着する事が出来ている。
「あら、クロイツ様。久しぶりですね。やっぱりリサ様がいないと調子が出ませんか?」




