救出後
食事中にクロイツは一旦リサに断って席を外し、収納魔法で捕らえているミュラを出して尋問する。
雷魔法によるダメージは、会話ができる程度までクロイツの支援魔法に含まれる回復魔法で回復されている。
「うっ、まさかここまでとは……見かけに騙された。組織の注意を聞いていれば……」
「どうでも良いんだよ、そんな事は。テメーは聞かれた事だけに答えりゃ良いんだ!」
かなり脅し、時には物理的に恐怖を与えて尋問を続けるクロイツ。
結果的にミュラから得られた情報によれば、荷馬車の中の硬貨は違法であると知りつつも、扱いを雑に出来る奴隷を欲している人々から前金で貰っていたものであるとの事であった為に全て没収し、前回のブサ村で没収した財産の一部も併せて、今回救出した人々の為に活用する事にしていたクロイツ。
どう活用するか……までは、正直一気に五人も救出できると思っていなかったので、未だ思い浮かんでいない。
この五人が組織にとって多いのか少ないのかは不明だが、クロイツにとっては一人二人を想定していたので、思った以上に組織は人を積極的に攫っている事が理解できた。
彼女達は残念ながら家族は惨殺されていると五人全員が言い切ったので、戻る場所もないのだ。
例え無事に自宅に戻ったとしても再び何時同じような状況になるかもわからないし、首には決して消えない奴隷紋で、色は強制性を示す赤が刻まれている。
契約者がいなくとも良い扱いがなされないのは目に見えているし、悪意ある第三者が主のいない者の赤の紋章に自らの血液を付ければ自動的に主に設定されてしまうのだ。
その事実を分かっているのか、食事の時だけほんの少し明るくなっていた彼女達の表情も、食後は再び暗い影を浮かべていた。
まさか闇の奴隷商が騎士にまで浸食しているとは思っていなかったクロイツは、安易に他人に彼女達を渡す事は悪手だと思い、未だ悩み続けている。
「師匠、どうしましたか?」
各自がある程度一か所に固まって休憩している場所に戻ると、護衛として残っていたリサがクロイツのその表情を見て心配そうな表情に変わる。
弟子であり可愛い妹にこのような表情をさせてしまった事を大きく恥じ、クロイツは頭を振る。
「いや、何でも……ってわけじゃねーが、思った以上に闇の奴隷商は深い所まで浸食していた事が分かったからな。まさか騎士までとはな。わかっているとは思うが、当然今後ギルドも信頼できねーぞ」
「確かに……悲しいですけれど、そうですね」
「で、今後について考えていたわけだ」
「……であれば師匠、ここは一気に巨大な屋敷を購入しては如何でしょうか?」
リサとしては、半ば強引に拠点を作ってしまえばクロイツと共にずーっと共に生活が出来るのではないかと言う希望もあった。
「確かに暫くは良いかもしれねーな。だがよ?あっちの組織を甘く見る事は出来ねーぞ?」
クロイツは、ミュラが懐に隠し持っていた書簡をリサに見せる。
リサは、過去にブサ村の村民から指示を書面で渡される事も多々あったので、文字の読み書きは出来る様になっている。
この書簡、ミュラを収納魔法の中で捕縛していた為に所持品一覧が全て丸裸になっていたので、その書簡だけを別途取り出したのだ。
その書簡を読み進めるリサは、バッと顔を上げてクロイツを見る。
「な?だから俺がギルドも信頼できねーと言ったんだ」
その内容は、クロイツとリサが闇の奴隷商の支部であるブサ村に壊滅的な被害を与えた事は事実であり、組織にとって目下最大の脅威となっている事と共に、そのクロイツとリサが昨日から一週間リベラ王国周辺の調査を行う事が記載されていた。
ギルドにいた冒険者からの情報漏洩か、ギルド職員からの漏洩かは分からないが、昨日伝えた情報が既に組織に漏れていた事になる。
恐らくミュラが言っていた、事情があって暫くこの村に来られなかったが、短い期間だけ活動できると言っていたのはこの事だと判断したクロイツは、既に冒険者仲間を含むギルドも疑いの対象に入っている。
「この書簡の入手経路は聞いたのですか?」
「あぁ、もちろん厳しく追及したが、どこぞの従魔が運んで来たんだと」
魔獣を使役して活動させる事はよくある事で、闇の奴隷商の本部も同様の事をしているようだ。
これではいくらクロイツの力をもってしても追跡のしようがないので、しばらく悩んだクロイツは決断する。
「こうなりゃ、ダンジョンの一つでも手に入れて、そこの奥に隠れるか?」
この世界で誰一人としてダンジョン最下層まで辿り着いた者はいない。
今までの歴史上そのような記録もなく、現在も誰一人としてその偉業を達成できていないのだが、あっさりとクロイツは制覇すると言っている。
冒険者、国家、騎士、誰もがこの言葉を聞けば何の冗談かと鼻で笑ってくるか、頭が壊れたと思われるかの二択だが、“師匠大好き病”のリサは違う。
「し、師匠!流石すぎます!!是非お供させて下さい!!!ダメと言っても付いて行きますから!」




