ダンジョンにて(6)
『ねぇ、アロッサーラが言っていた人って、黒目・黒髪の人かな?』
今回囮に使われて死ぬ未来しかなかった五人の赤の紋章達はダンジョン最下層で休んでいるのだが、突然龍からこのような事を聞かれたアロッサーラは少し戸惑う。
「突然どうしたのですか?確かにクロイツ様は黒目・黒髪ですが。あれ?風貌を龍さんにお話しした事ありましたっけ?」
クロイツ達の行いや人柄は話したのだが、見かけについてはリサとリージョと異なり特徴的な事がないクロイツの事は話していないはずだと思っているアロッサーラ。
『うん、実はね?僕のダンジョンを凄い勢いで攻略している人がいて、その人が黒目・黒髪なんだよね。このままだとダンジョンのダメージが大きくなるから、アロッサーラが言っていた人ではなくて普通の侵入者だったら、僕が対処しなくちゃいけないと思って』
「え?そうなのですか?まさか本物のクロイツ様が私達を救出しに来てくださったのでしょうか?であれば、誤解を解く必要がありますね。私をその方の近くに連れて行っていただけますか?」
『それは良いけど、僕も行くよ?もしクロイツって言う人じゃなくて単純な侵入者だったら危ないからね』
「フフ、本当に龍さんは変わっていませんよね。ありがとうございます。では皆さん、私達は所用が出来ましたのでここで少しお待ちください」
仮にこの状況で管理者である龍が敗北した場合にどうなるのか等わかる訳も無く、状況について行けずに上手く反応できない四人を残し、龍の力でクロイツの進行方向のかなり前の位置に転移する龍とアロッサーラ。
「ん?よっしゃ!見つけた……が」
突如として気配を掴んだクロイツは恐らく何らかのダンジョンの機能によって気配が掴めなかったのだろうと考えたのは一瞬で、対象であるアロッサーラの近くに強大な気配、このダンジョンの管理者である幼龍であるが、その気配を掴んだので転移でこの場に連れて来られたのだろうと判断した。
「チッ、どうすっか。ひょっとしたら管理者に攻撃をした場合、アロッサーラに対して害がある契約がされているかもしれねーしな」
ダンジョン管理者の能力を詳しく知らない、知るつもりのなかったクロイツは、アロッサーラが置かれている状況が分からないのでどう救出するべきかを考えつつも、残りの四人の気配を慎重に探している。
「四人の気配を掴めねーって事は、違う階層にいる可能性が高いのか?」
自分の気配はダンジョン管理者であれば掴まれているとわかっているクロイツは、余計な事はせずに最短距離でアロッサーラの気配を感じている方向に向かう。
「ん?なんだ?」
その経路上の全ての魔獣が道を開ける気配を察知したクロイツは混乱する。
可能性としては、自分のようにダンジョン管理者を屈服させて権限を奪う等の状況があるのだが、アロッサーラの戦力では絶対に不可能である事は分かっているので、この状況が全く理解できなかった。
やがて悲痛の人であるアロッサーラにもクロイツが見え、以前店に来たそっくりさんと全く同じ風貌だが、このダンジョンに平気で侵入できるのはSランカーであるクロイツをおいて他にいないので、本人であると確信の上で事情を説明する。
間違っても大恩人である龍に対して攻撃を仕掛けてもらっては困るからだ。
「クロイツ様!こちらの龍さんが守ってくださったので私は、私達は無事です。龍さんは敵ではありません!詳しくお話をさせて頂きたいのです!」
実際に龍からは殺気や攻撃の兆候が一切見られない事から、とりあえずはアロッサーラ達の安全は確保できているのだろうと判断したクロイツは立ち止まる。
これは龍に対して即攻撃する事は無いと知ってもらうための行動であり、龍も正確にその意図を感じ取って自分の状況を話し始める。
『僕は、このダンジョンの管理者をしている龍だよ。このアロッサーラを始めとした、人族の愚かな行動によって赤の紋章に落とされた人達と過ごしていたんだよ。今回突然そのうちの一人の懐かしい気配を感じたから、一緒に行動していた四人を助けたんだ。で、アロッサーラ達を監視していた人族は始末しちゃったけど……大丈夫だったかな?』
実際にクロイツを目の前にしてその圧倒的な力の差を理解してしまった龍は、同族である人族を始末してしまった事を激しく後悔していたのだが、その心配は不要であったと理解して安堵する。
「いや、そいつらは完全に敵、俺の敵でもあったはずだから何も問題ねーな。寧ろ、五人を救ってくれた事、感謝する」
深く頭を下げるどう見ても遥かに格上の存在であるクロイツを見て、龍は慌てる。
『ぼ、僕は家族とその友達を守っただけだよ。だから、何も問題ないよ』
「そうか、そう言ってくれると助かるぜ」
こうして互いが同じ価値観を持っていると理解できた龍とクロイツは、互いに距離を詰めてアロッサーラと共に情報を交換して親睦を深めるのだが、最下層に残されて不安になっている四人は少々置き去りにされていた。
『じゃあ、この前ダンジョンが攻略されたのはやっぱりクロイツ様がやった事だったんだ』
「あぁ、そうみて―だな。あの時は住処が欲しくて押し入っちまってポチには悪い事をしたが、他のダンジョンに押し入るつもり……今回は特殊事情だから勘弁して貰いてーが、敵対してこねー限り押し入るつもりはねーよ。そもそも俺は、可愛い女の子と仲良く……」
幼龍と仲良くなった事、懸案であったアロッサーラ達が無事であった事から“彼女欲しい病”がその姿を覗かせており、“龍と高ランカーの集い”でも発病した姿を見た事があったアロッサーラは自分が大ファンである“白套のリサ”と早くくっつけば良いのにと思いつつクロイツの欲望を聞いていた。
幼龍も、最強と言える存在がこんな情けない事を口にするとは思っていなかった。




