ダンジョンにて(4)
「行くぞ!」
流石は戦力重視国家であるベナマス王国の軍人、それも隊を率いる隊長だけあって圧倒的な戦力差でも怯える事なく獰猛な笑みを浮かべて突進して行くのだが、この場で奇跡など起ころうはずもなく、容赦のない連続攻撃を受けて手も足も出ずに倒れ伏している。
「我がベナマス王国に栄光あれ!」
もう何もできないと悟ったのか、何やら魔道具に魔力を通して起動すると直後に大爆発を起こした。
止めを刺そうとした地上に配置されていたグロナス、オーガ種数体はこの爆発に巻き込まれて死亡したが、その後は静寂が訪れる。
ダンジョン内部での事なので、地上で軍の帰りを待っている使者を務めた男が現状を知る由もなく、ノンビリとしたものだ。
一方で3階層に到達していたアロッサーラ達はあのモンテス以降魔獣と全く遭遇する事なく3階層を進んでいた。
「どうやらこの階層であれば止まる事も戻る事もできるようです。周囲を慎重に見て、隠れられる場所を探しましょう」
自分が最も慎重に行動しなくてはならないと思っているアロッサーラは、必死で心を落ち着かせながら現状を把握し、最善の選択を選べるようにしている。
通常ではいくら浅い層とは言え、これほど魔獣と遭遇しないなどは有り得ないし、そもそも3階層に進む際に全く戦闘が行われずに進める事も有り得ない事位は、店に来るクロイツ、リサ、リージョになりきっている客から知識として得ていた。
3階層で隠れられる場所を探しているアロッサーラ一行に上層階の振動など伝わる事は無いのだが、突然赤の紋章による奴隷契約が消え去った事に気が付く。
「え?」
錬金術師組合の四人の中で誰が口にしたのかはわからないが、全員同時に同じ感覚に襲われたのでそこからわかる事は一つだけ。
主となっていた者が死亡したのだ。
奴隷契約を解除する場合には主が死亡するか、契約を解除する意思を持って血液を赤の紋章に付着させる必要があるので、この場に赤の紋章しかいない状況から考えると確実に主が死亡した事になる。
「解放された?」
錬金術師組合から強制的に赤の紋章に落とされた四人の中でも、比較的冷静に行動できていたルイポスタが呟く。
「そうみたいよ。絶対に良い方向に行っているわ。諦めちゃだめよ」
自分の契約が切れた事も理解しているアロッサーラも、希望の糸が少し太くなってきたのではないかと言う思いから落ち着いて行動する事が出来始めている中で、頭の中に何かの呼び声が聞こえた。
『アロッサーラ?僕だよ。龍だよ!』
「え?」
今度はアロッサーラが不思議そうな声を出す。
「どうしたのですか?何か異常がありましたか?」
ルイポスタが周囲を真剣に見まわしながらアロッサーラに近づくのだが、当人はそれどころではない。
自分を助け出して保護し、その上自活できる場所まで提供してくれた心優しい魔獣である龍の声が聞こえたのだから。
「り、龍さんですか?本当に龍さんですか?」
『うん。なんだか懐かしい気配の侵入者に気が付いて……1階層ではごめんね。気が付けなかったよ。でも、その後は何からも襲われなかったでしょ?アロッサーラ達を監視している連中と確実に距離を取ってほしかったし、あいつ等をしっかりと始末したかったから少し時間がかかっちゃった。皆疲れているみたいだから、今から下層に送るよ?』
「は、はい。でも、少しだけ待ってください。この四人は初めての事なので戸惑うと思います」
最も頼りになるアロッサーラが明確に独り言を呟いているので、幼い四人はまさか精神が壊れてしまったのかと不安になっているのだが、その後信じられないような話……幼い頃にダンジョンを支配している龍と共に過ごしていた事、そして気が付かなかったがこのダンジョンが正にその場所だと言う事を聞かされる。
実際に自分達だけで先行させられていた時に、モンテス以外の魔獣を見る事すらなかった事からアロッサーラの話は現実味を帯びており、これから最下層に移動させてくれるので驚かないように説明された。
直後に景色が変わったので、まだ11歳と10歳の幼さが残る四人は余計な固定概念がない分素直に状況を受け入れる事が出来ていた。
「あ、もちろんこの事は絶対に地上で話さないでくださいね。場合によってはダンジョンの素材を渇望している今回のような人々に個別で狙われる事になりますからね」
信じられる事は無いとは思うが、ダンジョンを支配、管理している者の庇護下にあると知られれば人質として利用される可能性が極めて高いので、そこだけは早い段階で釘をさすアロッサーラ。
「「「「はい」」」」
素直に返事をする四人の目の前には、龍としては非常に小柄だが既に人族の大人よりも相当大きくなっている龍がいる。
「龍さん!久しぶりですね。全然お店に来て下さらないので、ハルミュレ達も寂しがっていますよ?」




