ダンジョンにて(3)
「下層……どの層かはわかる由もないが、長くは生きられないだろう。我らの意識がもう死ぬとわかっている連中に向くと面倒だ。契約……は本人がいないと切れないのだったな。よし、あの五人の報告は不要だ。今後はダンジョンを慎重に進むぞ。特に獲物がいそうな上空に気をつけろ」
ダンジョン入り口にはグアトロ王国の国王と交渉したベナマス王国の使者を待たせており、この人物は軍人達と比較して戦闘力は比べるまでもないが地位は相当上になる、ある意味目的をきっちりと達成できるのかの監視となっているので、当初の作戦が使えない状況ではあるがダンジョン2階層を進む事にした隊長。
「隊長、あの五人の気配が消えた事に意識が向いてしまいましたが、その後Aランクの魔獣の気配も掴めなくなりました」
「なに?考えられるのは奴らがAランクの魔獣と共に転移罠を踏んだのか?それとも魔獣共が我らの気配を察知して逃亡したのか……わからない事だらけだな」
囮作戦が出来なくなったとは言え、ベナマス王国の依頼となっている魔核を手に入れる事は必須であり、仮にここで失敗してしまえばグアトロ王国からのベナマス王国の信頼が失墜する事になるので引けない状況になっている。
全員で慎重に進んでいるのだが、気配察知が出来る隊員の言う通りに目的の魔核を得られる魔獣を見つける事は出来ずに、時折襲ってくるのはランクの低い魔獣ばかり。
「これでは、目的を達する事は出来んな。現状から判断すると、魔獣は我らを脅威と考えて逃走、あの五人の囮は転移罠が発動したと考えるべきだろう。だとすると、我らの今後の行動も理解できるな?」
「「「「「はっ!」」」」」
進むしかないと判断した一隊はアロッサーラが通過した時と同じく3階層に続く階段がある場所に来たのだが、何故か今回は部屋に入ったとたんに扉が閉まって階段ではなく魔獣が現れる。
「隊長……こいつ等!」
「あぁ、まさか3階層に続く部屋を守っていたとはな」
目的であったAランクの魔獣であるロスミラスが一気に空中に現れたのだ。
このダンジョンに侵入する際に懸念していた通りに彼等は空中の高い位置を飛んでおり、軍の攻撃は一切届きそうにない。
「暫くは堪え時だな。奴らも疲労は感じるはず。いくら高ランクの魔獣とて永遠に飛ぶ事などできはしない。迎撃の準備はしておけ。あいつ等もこちらが疲弊する隙を伺っているはずだ!」
疲労による高度低下や攻撃態勢に入った時に迎撃する作戦をとる事にした隊長は、部下に指示を出して自らも迎撃態勢をとるのだが、残念な事に魔獣側、ダンジョン側は彼らの隙を伺うような事はしていなかった。
……ドシンドシン……
「な、なんだ!この揺れは?」
通常下階層に繋がる部屋に出てくる魔獣はその階層を守るような立ち位置の存在と言われており相応の強さを持っているのだが、出てくる魔獣の数に変化は有るものの基本的に1種類であると知られている。
しかし今回、上空にAランクと言う破格の魔獣が数多く飛んでいる中で少々離れた暗がりから大きな地上闊歩型の魔獣が現れたのだ。
「ま、まさか……複数種の魔獣!?何故だ?互いが互いを攻撃するはずだろう!共生などあろうはずがない!!」
大声で現状を否定する隊長だが現実に変化がある訳も無く、先ずは視界に入り始めているオーガ種に見える魔獣から始末するべく指示を出す。
「お前等はあいつを相手にして来い!こちらはロスミラスの攻撃に対処する」
……ドシンドシン……
指示された隊員2名がオーガ種に向けて一歩踏み出そうとした所に、異なる方向から聞こえる音と感じる振動。
「ば、ばかな!どれだけ異常な状態だ!」
音の聞こえる方向に視線を向けると、上空のロスミラスと比較してランクは低いが恐竜型の魔獣で実はとても美味しいグロナスが複数体近づいてきたのだ。
まさか三種類の魔獣、最低でもBランクの魔獣が2階層で出てくるなど誰が想定できただろうか……今回の目的は単体で目撃情報の有ったロスミラスの魔核であり、危険が無いように赤の紋章を囮にするための準備を整えたうえで侵攻していた一隊。
逆に言えば想定以外の状況になった時には準備不足と言う状態だったのだ。
「2階層でこれだと?この異常な状態、まるでクロイツのダンジョンではないか!」
呪詛を吐く隊長だが、このまま迎撃態勢をとっていては生きて地上に出られない事は経験上嫌でも理解できるので、背後・上空に各一人警戒させて戦力を一点集中し、時間をかけずに手始めにオーガ種を始末する事にした。
「行くぞ!」
自ら率先して攻撃に参加するのは、流石は戦力を重視しているベナマス王国所属の軍人なのだが、いかんせん相手が悪すぎる。
一体のグロナスを倒した頃に背後から得体のしれない気配を感じて無意識で飛び去ったのだが、隊長が直前にいた場所にオーガ種の鋭い拳が撃ち込まれた。
「背後の警戒は何を……」
一旦魔獣から離脱した事で周囲を見る余裕が出来た対象の言葉は続かず、この場に生きて残っているのは自分だけだと理解できてしまい、同時に最早助かる事は無いと覚悟した。
「フ、フフフフ、何時かは敵わぬ敵を前にするだろうと思っていたが、まさか2階層ごときの魔獣になろうとはな。だが、最後の花道、思う存分暴れさせてもらうぞ!」




