ダンジョンにて(2)
五人から見れば、今自分の視界の片隅で暴れまわっている二体の魔獣の種類などわかる由もないが、見つかれば即死亡すると言う事だけは分かっている。
涙を流しながらも必死で音を立てないように、そして見つからないように慎重に進んでいる五人の様子は、遥か後方で休憩している軍の一行にはしっかりと感知されて情報が流されている。
「あいつ等、恐らくですがモンテスと遭遇しましたね。あそこで肉塊になればその内ロスミラスが匂いを嗅ぎつけてくるので、自分達の移動距離が短くて済んだのですが」
「まだ魔獣に見つからずに進んでいると言う事か?」
「はい。移動速度が異常に遅くなっているので、モンテスに悟られないように動いているのでしょう」
「ハッ、姑息だな。弱者の最後のあがきか……まぁ、少々こちらが移動する距離が多くなっても仕方がないだろう。どの道そう長くは生きられないからな。誤差の範囲だ」
この隊長を含め軍の面々は、ここからそう遠くない位置でなるべく早く五人が死亡してくれれば、その匂いに引き寄せられたロスミラスを楽に仕留められると期待していたのだが、その期待に反して五人は軍に保護されていない状態での初遭遇の魔獣を躱す事に成功したようだ。
一方必死で恐怖と闘いながら移動している五人は、モンテスと呼ばれている魔獣が視界から消える位置まで移動する事に成功していた。
「ぷっはぁ、はぁ……何とか抜けたみたいね。大丈夫?」
先頭を行くアロッサーラが、歩きながら後方にいる四人を振り返り無事を確認する。
「お姉ちゃん、もう、あたし耐えられないよ!」
「ミーちゃん……」
二人の姉妹は互いの手を握りながら震えており、兄弟は……黙っていたのだが何かを決意したようで目を少し見開いてアロッサーラにこう告げた。
「僕は、僕とカフェドノは、あなたについて行きます。どうせ死ぬ可能性が高いけど、少しでも可能性があるのならば足掻いてみます!」
この決意を聞いて残りの二人、ピピフレッタとミーフェは選択肢が無くなる。
ここで自分達二人が残されては、本当に万に一つも助かる可能性が無くなるのだから……
「ありがとう。絶対とは言えないけれど、何とか生き延びるために頑張りましょう!」
次に魔獣が来た時の為に生存確率を少しでも上げるべく、進行経路にある武器になりそうな物……と言っても尖った石程度しかないのだが、何よりはましだと思い拾いつつ壁際を移動する。
通常ダンジョンは階層をまたぐ毎にそれなりの強さの魔獣を始末する必要があるのだが、何故か魔獣に一切遭遇する事なく下層に繋がる階段まで到達してしまった五人。
「私は、行くべきだと思うわ。あいつ等から距離を取れば取るほど、助かる可能性が高くなると思うの」
アロッサーラの決断に対して内心では救助隊が見つけ辛くなると言う思いがあるのだが、最も大人である人物に従う他ないと歩いている四人は、どの道赤の紋章の関係で進むしか選択肢がないのだからここで悩むような事は無かったと、勝手に動く足を見て悲しくなっていた。
「あいつ等!気配が……襲われた様な気配がないのに、気配が消えました!」
「何?原因は何だ!」
相変わらず未だに死亡していない五人の気配を掴んでいた軍人一行は、突然気配が消えた事を聞かされていた。
「恐らくですが……最も可能性が高いのは下層に向かう転移罠ですね。次点で私では気配察知が出来ない相当ランクの高い魔獣に拉致されたか何らかの方法で気配を遮断されたか、最後は有り得ないですが、何らかの理由で自ら3階層に向かったかです」
「む……では、もう少しこの場に留まって様子を見て、Aランク魔獣であるロスミラスが一か所に集まっている気配を感じるか確認しろ」
「はっ。ですが、その場合には私で察知できない魔獣が近くにいると言う事になりますが」
人肉を好むロスミラスであれば五人に群がる事は間違いないので、その場所に向かって目的である魔核を仕入れようと思っていたのだが、気配察知が出来る隊員に指摘された事実を聞き戸惑いを見せる隊長。
仮にロスミラスが群がる気配があったとした場合、その五人に何らかの事をした魔獣は相当強者であると言う事になる。
果たして今の自分達の練度、装備で対応できるのか……本来このような浅層にAランク魔獣がいる事自体、クロイツが管理しているとされているダンジョン以外には有り得ない状況なので、イレギュラーな魔獣がいてもおかしくない事に漸く気が付いたのだ。
「……少し様子を見よう。だが、直ぐに如何様にも動ける状況に移行する!」
気楽に寛げる状況ではないと判断した隊長は、仮にこの場に想定していなかった魔獣が襲い掛かっても対処できるような体制に移行するように命令して軍に緊張が走るのだが、現実は気配察知のできる男が言っていた“有り得ない”事態となっていたのでこの階層にはAランクのロスミラス以上の魔獣は存在していなかった。
どれほど時間が経過したのかは不明だが、待てど暮らせど3階層に行ってしまった五人の気配は掴みようが無く、新たな情報を得る事が出来ない一行は決断する。
「これ以上待ってはいられないだろう。未だに契約は切れておらぬし、生存している事だけは間違いないからな」
赤の紋章による繋がりが切れていないと言う報告を受けているので、可能性としてはこの階層の魔獣によって気配を遮断させられたのか、下層に飛ばされたか……この一行の総意としては最も可能性の高い転移罠で下層に飛ばされたと判断が下された。




