ダンジョンにて(1)
「早く入れ!」
奴隷紋の影響で、錬金術師組合に所属したばかりの見習い錬金術師四人とアロッサーラは、軍人の前を強制的に歩かされている。
「今回目撃された情報があるのは、2階層のロスミラスです」
鳥形のAランクの魔獣で、基本的には魔法が得意な相手になる。
「随分と浅い層にいるのだな。で、撃破の方法は?」
「空中で待機されては攻撃が届かない可能性が高いので、当然こいつ等の出番です。ロスミラスは人肉が大好物ですから、夢中になっている隙に始末します」
生贄にすると目の前で言われているアロッサーラを含めた赤の紋章の人々は、その場で叫び出して逃げ出したい気持ちなのだが……赤の紋章の力によって強制的にダンジョンを進まされている。
この階層は大した魔獣がいる訳ではないようで、同行している軍人達の手によって難なく退けられており、今の所五人の赤の紋章持ちが負傷する事は無い。
そのまま1階層を難なく踏破し、目的であるロスミラスの目撃情報があった2階層に侵入する。
間もなく生きたまま食われると理解している五人の赤の紋章持ちは、声を出せない状態で泣きながら一歩一歩ダンジョンを進んでいる。
「隊長、感知しました。彼方の方向に確かにAランク相当の魔獣の気配がありますね」
同行している軍人の一人が気配を察知したらしく、その方向に赤の紋章の五人だけを進ませる軍人達。
何も話せない五人は、何故こんな事に……と言う、永遠に答えの出ない自問自答をしながら強制的に足が動く。
アロッサーラは気が付けばこのような状態になっており、四人の錬金術師の卵達は、花形であるポーション作成担当になりたくて錬金術師組合に入会し、修行と言う名の雑用を必死で行っていたのだが、ある日突然会長のベルヘルトに呼ばれたので次のステップに進む事が出来たのかと心躍っていた。
その結果が、何故か赤の紋章をつけられて組合から放出され、ダンジョンで生贄にされる直前まで来ている。
「くっ!何が錬金術師組合会長だ!グアトロ王国を支えている組合だ!これなら盗賊の方がまだましだ!僕達の想いを踏みにじって……絶対に復讐してやる!」
「む、無理だよ、ルイにぃ。自分だってそうしたいけど、どう考えても無理だよ……」
最も先頭を歩くのは赤目・赤髪のルイポスタと言う少年で、その少し後ろを、見た目は区別がつかない程にそっくりな双子の弟であるカフェドノから現実を突きつけられている。
更に少し後方を歩く女性二人の姉妹である金目・金髪の双子であるピピフレッタとミーフェは全てを諦めているのか、何も口にせず下を向きながら無意識で進む自分の足を怨めしそうに見つめている。
一番後方にいるアロッサーラは前方を歩く四人の状態を見て、最も年上の自分が何とかしなくてはと言う思いが芽生えて急いで先頭に辿り着く。
今回の命令では3階層まで自由に進めるだけの状態になっており、五人の感覚としては戻る事は絶対にできないのだが、主の設定がなされている軍人からいくら距離が離れても、ダンジョンを進んでいれば問題ないと理解できている。
先頭に到着したアロッサーラは戻る事も止まる事も出来ないので、速度を緩めながら後方の四人に向かって話しかける。
「私はアロッサーラ。“龍と高ランカーの集い”で働いているの。きっと私の仲間達、店長達が助けてくれるわ。だから私達が諦めちゃダメ。今回幸運にもあの軍人の視界には入っていない状態よ。残念な事に気配は掴まれているでしょうけど……」
突然前方に来た綺麗な大人の女性が話しかけてくるので、全員その言葉に耳を傾けている。
本心は自分も恐怖で叫び出したいアロッサーラだが、こんな時は絶対に“白套のリサ”が助けに来てくれるはず……と言う希望を頼りに冷静であるかのように必死で振舞う。
「ここは賭けになるけれど、少し奥まで……あいつ等が追うには相当リスクがあると思われる場所まで一気に走り抜けるわ」
「で、でも……この階層にロスミラスがいるんでしょ?無理だよ……」
誰しもが思っている事、アロッサーラでさえ思っている事を口にしてしまうルイポスタだが、言い出したアロッサーラは何もしなければ待っているのはまさに死なので、再び地上で仲間に会うために覚悟を決める。
「そうかもしれないわ。甘い事は言えない。でも、このまま何も考えずに進めば絶対にその未来に向かって進む事になるけれど、少しでも違う運命の道に向かえるように努力するのよ!」
四人は並ぶように進んでいたので、互いの顔を見合わせている。
アロッサーラの言っている事は理解できるのだが、必死で頑張って逃げても同じ未来があるのであれば、この恐怖から少しでも早く逃げ出したいと言う思いがあるのも事実。
「止まって!って、止まれないわね。壁際によってしゃがみながら進んで。早く!」
突然のアロッサーラからの指示に面食らい、何も考えずに指示通りに壁に急いで近づいて、体を隠すようにしゃがみながら進む。
赤の紋章のせいで止まる事も出来ない以上、これが今できる最大限の身の隠し方だ。
「ギャッッギャ!」
戦闘能力のある冒険者であればそう危険のない魔獣がいたのだが、見習い錬金術師とお店の店員のアロッサーラでは抗う術は持ち合わせていない。
五人は何とか口から悲鳴が出ないように必死に手で口を押えながら進んでいる。




