ハルミュレ(2)
自らが管理するダンジョンに戻れば、仮にSランク魔獣が侵入してきても配下の者達をけしかける事で迎撃できないまでも弱体化できるので安全は確保できるし、食料、水もある程度自由に手に入れる事が出来る。
更にはダンジョンの持つ力で自分が回復する事が出来るので、侵入して最下層に転移した頃には自分の足で何とか歩けるようになっている幼龍。
ここまで連れてきてくれたハルミュレの為に、最下層は昼夜の設定を施して人族が過ごしやすい気温に変更する事程度は気を回せる余裕が出来ている。
数日は互いが疲れた体を癒す事に専念していたのだが、やがて気力・体力共に回復したので日中世間話と言う名の身の上話をするに至った。
「……なので、私は赤の紋章と言う扱いが良くない奴隷と言う存在になってしまったのですよ。まだ主の設定がなされていないので、何かされたわけではないですが」
『そんな!そんなひどい事ってあるんだ。人族ってどうしようもないね。ハルミュレさえ良ければ、ずっとここにいてくれて良いよ?』
「ありがとうございます、龍さん。でも、私はこんな状態になってしまいましたが、できれば人として生活したいと思っています」
少し落ち込みながら話すハルミュレのこの言葉を聞いた幼龍は、このような存在がいれば積極的に助けてこの場で共に生活させ、仲間と共に地上での生活を後押ししてやる事が恩返しになると考えた。
一人で地上にいては不安になると言う事は、自分が傷を負って一人で動けなくなった経験がある幼龍にはよくわかっていたのだが、自分の配下をつけた場合は人族でない者が護衛をしていると明らかになった瞬間にハルミュレが人族に敵と認識される可能性があるので、同族の仲間を増やす事が最良だろうと判断した。
『わかったよ。ハルミュレのような人達を少しでも助けてここに連れてくるから、その人達と色々相談して決めると良いんじゃないかな。僕じゃ人族の生活についての知識はあまり持っていないからね』
小さい羽根を揺らしながら、ハルミュレに決意表明をする幼龍。
「ありがとうございます、龍さん!でも、絶対に無理しないでくださいね」
『大丈夫だよ。僕はハルミュレの傍にいるよ。行かせるのは、僕の眷属達。でも、今の話を聞くと、赤の紋章を持つ人達ってあまり強くはなさそうだから、少し……かなり力を抑えた眷属を向かわせる必要がありそうだね』
眷属と言われても良くわからないし、そもそも強さと言われてもその辺りに関しては全く知識のないハルミュレだが、救出する対象の事を考え、救出時の戦闘の余波で対象が傷を負わないような配慮をしてくれているのだろうと言う事だけは理解できた。
幼龍の思惑はその通りで、本来もっとダンジョンのランクが高ければ知能も高い魔獣が準備できるので、その場合は高い戦力と知能をもつ眷属を出して紋章持ちの安全を担保しつつ救出する事もできるはずなのだが、このダンジョンはまだ若くそこまでの力を持つ眷属を準備する事が出来なかった。
人の形……防具などで外観が人に見える者も含めて地上での活動部隊が編成されたのだが、仮に襲撃が失敗した際にはその身を晒す事は絶対にないようにと言う事だけは徹底させた。
万が一にも魔獣が赤の紋章を攫っていると思われては、国家上げて赤の紋章を隠す可能性もあるし、ないとは思うが、最終的に魔獣の出所を突き止められてダンジョンに攻め込んでくる事もあるかもしれないと考えたのだ。
こうして作戦が実行されるのだが、ある程度力を抑えた眷属を出している関係上救出できる存在と、作戦が失敗して救出できずに逃走せざるを得ない場合が出てきた。
今の所眷属が死亡する事は無かったのだが、逃走したケースの中にはゼリア帝国のミュラに対する攻撃も含まれており、闇の奴隷商としては正体不明の敵対組織があるとの認識に至っていた。
その内にある程度の人数が集まり、ハルミュレも新たにこの場所に集まった赤の紋章の人々も良い年齢になっていた。
赤の紋章は女性が多くこの場にいるのは全員女性で、体つきは女性らしく、そして地上で活動しても問題の無い様に赤の紋章を隠すべく全員少々髪を伸ばして項を隠している。
地上の救出部隊は、救出した存在をこのダンジョンまで連れてくるついでに道中のギルドでダンジョンの資材を販売した上でその報酬も持ち込んでおり、相当な金額が溜まっている。
幼龍には一切必要のないものなのだが、ハルミュレ達が地上で安全に活動するための資金が必要だと考えて指示したのだ。
『ハルミュレ、そろそろ地上で活動できる準備が整ったんじゃないかな?調査した結果、比較的安全なグアトロ王国に、以前話していたお店兼住居の建屋も購入しておいたから、そこで活動すると良いよ。時折眷属に様子を見に行かせるから、頑張ってね!』
何時までもここにいても仕方がないと思っている幼龍は、ハルミュレの当初の希望通りに地上で生活をしてもらう事を告げたのだが、しっかりと生活基盤を整えた状態にしているのは流石と言った所だ。
幸か不幸か、この場にいる救出された人々は赤の紋章をつけられて間もなく救出されていたので、惨い扱いを経験せずにいた事から地上での生活を完全否定する程の恐怖心は持っていなかった。
真夜中に周囲の様子が分からない状態で地上に出て救出作戦を実行していた眷属に守られるような形でグアトロ王国に入国し、店に案内されるハルミュレ一行。
「本当に……龍さんに、ありがとうございますとお伝えください。是非、お店が軌道に乗った際には遊びに来て……」
全てを言い終わる前に言葉が詰まり幼龍の温かさを感じて涙を流してしまったハルミュレは、出会った頃からの事が走馬灯のように思い出されている。
当時からハルミュレの事を思いやってくれている幼龍がここまで準備して送り出してくれたのだから絶対に皆で幸せになると固く心に誓い、“龍の集い”と言う名前で店を始めた。
送り出した方の幼龍は少々強い眷属を人知れず店に配置させたのだが、店が軌道に乗り始めた際には、安心して引き上げさせていた。




